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猫科人科目。  作者: 黒字
28/35

26.事実を知るのは時に辛いものです。

シキミ‐Wikipedia

シキミ科の常緑高木である。かつてはモクレン科に分類されていた。有毒。仏事に用いる為寺院に植栽される。

地方によりシキビ、ハナノキ、ハナシバなどともいう。

常緑樹で、高さは10m程度、胸高直径は30cmとなる。

花や葉、実、さらに根から茎にいたる全てが毒。特に種子に毒の成分が多い。

植物全体にアニサチンなどの有毒物質を含み、特に果実に多く、食べれば死亡する可能性がある程度に有毒である。実際、事故が多いため、シキミの実は植物としては唯一、毒物及び劇物取締法により劇物に指定されている。

中毒症状は嘔吐、腹痛、下痢、痙攣、意識障害等で、最悪は死亡。

シキミ属:トウシキミ(スターアニス)

画像添付




「花弁だけだな」庭先の作業棚の上で茶葉を広げて見ているのはシャァとクロムさん。

「実物を見るのは初めてだよ」教本でしか知らないとクロムさん。

「私は3度目です。神官様のお手伝いで死者を埋葬する時に使ったのを見ただけですが」その時は枝に葉が付いた状態で死者の両脇に置くだけだったが、大変匂いがきつく死臭消しに使われたと教えてくれたシャァも花を見るのは初めてだと言う。

「アシキミか。こちらではスターアニスと呼ぶが、シキミの方が存外しっくりくるな」フェイは私が部屋から持ってきたプリントを見ながら何やら考え込んでいる。



私が朝起きて直ぐに部屋へ向かったのは確認したかったから。

この世界へ来る数日前にネットで調べた情報が有るからだ。

雑貨屋と言う仕事柄様々な依頼が舞い込む。海外有名人が身に着けていた宝飾品を探してくれとか、何処其処の原住民の呪いの人形を入手して欲しいとか、本当に人間は欲が深いと感心する。それも人間という生き物だから仕方の無い事だとも分かっている。仕事としてある程度は探したり(有名人の装飾品はみよちゃんの得意とする所だし本人もそういうの好きだから楽なんだけどね)、後者の方は遠回りな探りを入れたりしながら説得出来る事は説得する(こっちは私の仕事になってた)。


で、私の元に来た依頼が「シキミの種子或いは苗木を探して欲しい」と言うメールだった。シキミなんて聞いた事も無いし珍しい名前の花だなと思い何気なくネットで検索したら、ヒットする項目に死の言葉が付き纏う内容ばかりでうんざりしたのである。地方によってはお墓に飾ったりするし、神社仏閣でも未だに使っているというのだから手に入り易い物であるはず。個人で種?苗木?ってのが気になる所だった。

それと合わせて調べてプリントアウトした物があと3枚ある。ケシとベラドンナとレンゲツツジである。


その内の1枚、ベラドンナのプリントの上に小さな葉っぱを2枚乗せてシャァが言った。

「これも入っていた」新芽だから小さくて分かりずらいらしい。

「まいったな」眉間に皺を寄せるフェイ。ベラドンナも毒性を持つ植物である。



{マリー様は市場を挟んで反対側にある小さなお屋敷に住んでおりました。待女が1人おります} お城には逗留しておらず、実家は馬車で2日掛かる隣国である為探すのに少々苦労したようだ。(きっとアオイさんとの新居だ)

{植物の知識は大層お持ちです。日中は殆どを庭で過ごされ、日が落ちると図鑑をご覧になっております。}何故そこまで執着するのか。

(マムに話を聞かないといけないな。当時を知るのはマムだけだもの)



「フェイ、お城に行きたい」

「私もそれを思っていた所だ」

「かえるちゃんも、イリスの泉に連れて行こうと思うんだけど」

「その方が良いな」



お昼過ぎにはお城へ向かった。

フェイは王妃の予定を聞きに向かい、お兄様にも事情を説明しに行った。

私は取り合えず かえるちゃん=ウォーターフロッグを泉に連れて行く事にした。

イリスの泉は先日と同じようにやさしく迎え入れてくれた。当然かえるちゃんも喜んで泉の上で葉や茎を伸ばしている。その葉がゆっくりと重なり合い小さな器の形になっていく。その器の中には泉の水が溢れている。泉の妖精が傍らに寄りそれを飲むようにと諭して寄越す。一つ頷き器の水を飲み干すと、まだ少し怠さの残っていた体に力が湧きあがり輝きだした。そして懐かしい声が頭の中に聞こえて来る。

{・・森へ・・}



がさっと枝葉の擦れる音「私は妖精が大嫌いよ」そう言って歌う花の群れの中から姿を現したのは黒い影に覆われたマリー様だった。

「妖精は私の大切な物を奪うわ」一歩また一歩と近づいて来る。

「アオイ様を返して!あの時に戻して!お願いよ・・・」マリー様の頬を伝う涙が黒く光る。

(ああ、誰も彼女の話を聞いてあげなかったのだ。謝るばかりの人達に何も言えず、自分の心を凍らせてしまったから涙も流していないのだろう。)

「あなたからの手紙が届いたのはあの日から二日も経ってからだったわ。私はとても嬉しかった。あなたと会って話をすれば許せるのじゃないかと思ったのよ。でも・・・私は・・・私は・・・」震えながら差し出した手の中にはシキミの花が握られていた。


顔を覆い泣き震える体を黒い影が覆う。あの影は彼女の孤独と恐怖と贖罪か。

そっと近づき彼女の肩に触れるとびくりと動き恐怖で強張る。何故あの時あんなに恐ろしいと思ったのだろうか。力いっぱい彼女を抱きしめると{ごめんなさい}と声が聞こえた。彼女では無い誰か。その声が聞こえたのだろう彼女は泣き崩れた。

どの位そうして居たのか、私を探しに来たフェイとお兄様に抱き抱えられてお城の中へと戻って行った。



気を失っていたマリー様は医務室へと運ばれ、私はフェイと共に王妃が待つ部屋へと向かった。少しふらつくけど、泉の水を飲んだせいか頭はすっきりとしていた。


「イリスが森へ行くと言い出したのは本当に急だったのよ。何かあったのかと聞いてみたけど、微笑むばかりで大した事では無いと、森の力を宿しに帰るだけだと言って聞かなかったわ」確かに少し痩せたのでは無いかと心配もしたが、産後の体は不安定だからマムも特には気にしなかったらしい。

「あなた方に言われて思い出したのだけど、マリーから送られてくるお茶やお菓子は誰も見た事が無いのよ。多分、気が付いていたのだと思うわ」マムの顔が青白い。

「それとマリーは薬草学を学びに行っていたの。アオイが怪我をしていれば軟膏を作り、食欲が無いと言えば煎じ薬を作って渡していたわ。それが大層効くと言ってマリーを良く褒めていたわ」



「皆、苦しんでたんだ、ずーっと」フェイと手を繋いで廊下を歩いている。

「マリー殿の気持ちが、今なら少し分かる気がする」繋いでいる手を強く握りしめる。

「私は、多分、分からないかもしれない」つと立ち止まる。

「分からぬか」ふっと苦笑いして、私を見下ろす。

フェイに私じゃない好きな人が出来た時なら分かるのかもしれない。それは近い未来か遠い未来か、それとも永遠に来ないか。それも分からない。



コンコンと医務室の戸をノックする。戸が少し開き年老いた待女が迎え入れてくれた。

寝台に起きて座っているマリー様に声を掛けたが返事が無い。瞳はとても澄んでいるのに何も写していない。(やっぱり私の力ではダメなんだ)そっと近づき手を取ってみる。ゆっくりだけど私の方に顔を向けて「イリス」と微笑んだ。


マリー様系の女性は普通に居ると思います。お話的に少し悪い事をさせてしまいましたが、恋愛が絡むと人間、野生DNAが表面化し易いと思うのは私だけでしょうかね。さて、このお話も終盤を迎えています。出来るだけ楽しい形で終えられればと思ってます。

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