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猫科人科目。  作者: 黒字
23/35

21.噂に戸は立てられません。

「シア、お兄様に丸投げして来たでしょ」

「詳しい話は後程致しますと言って来たわ」


馬車の中での会話であります。迎えに来た馬車に一緒に乗り込み送って行く事にしたのです。そうでもしないと、行かないと駄々を捏ねたのですよ、この人は。

待女の方もこんな姫様は見た事が無いと言い、それ程楽しかったのでしょうとも言って下さいました。

「何時でも遊びに来てよ。あの部屋はシアの部屋にするからさ」と言うと、少しは機嫌を直してくれたのか「当たり前よ」と言って私の手を取った。

丁度城に到着し、馬車の戸が開けられるとそのまま手を繋いでシアの使っている客間に連れて行かれ、ここで待つようにと言い残し執務室(お兄様の所)へと向かって行った。




「待っててと言われても暇だよねー」と呟きながら、宮廷の庭の奥にある泉へと行ってみる事にしました。夜会の時に綺麗な泉が有ると話していたのを聞いたので見てみたかったのであります。庭に入って2つ目の東屋の横に細い道がある。それをずーっと辿って行くとチェリーセージと云う赤い小さな花を付けた枝葉の群れがあり(最初聞いた時はチエリー星人かと思ったんだよね)その先にキラキラと輝く泉がありました。


「綺麗!」

余り大きくは無いが薄いすみれ色の水面に何かが飛び回ってキラキラしている様に見えます。

近づいてみると・・・どうやら小さな妖精のようであります。(見ちゃったよ妖精さん)

妖精さんは嬉しそうに私の鼻の頭にキスをしてくれます。(くすぐったい)そして{お帰り}と囁かれました。囁いたのは妖精だけでは無く周りの草花達も{お帰り}と伝えてきます。

心が嬉しくて震えます。泣き笑いの顔になった私にやわらかい風が頬を撫でて行きます。

(何故か懐かしいと思う)多分母と一緒にここへ来ていた時の記憶かもしれない。

近くには歌う花が群生しておりハーモニーを奏で始めました。私はその傍に腰を下ろし目を瞑って黙って聞く事にしました。



どの位そうしていたのでしょうか。風が冷たくなり雨の匂いが感じられます。{もうお帰り}と言う言葉に目を開けると、先程までの日差しが陰り灰色の雲が近づいて来ています。

「また来るね」と言葉を残し急いで城へと駆け出しました。

東屋まで来ると人の話し声が聞こえます。

「妖精は人を騙して連れ去ると言われているのよ。現にアオイ様も消えてしまわれた。子供だって取り替え子をして自分の子供を他の人に育てさせると言われているのよ。」

(何の話・・・聞いてはいけない、よね)

「それでフェイ殿も騙されていると言いたいのかな。」

「そうに決まっているわ。現に私の忠告をお聞き入れ下さって、今は伯爵様のご令嬢とご一緒されているのですよ。とても仲睦まじくお話をされておりましたわ。」

(ここから離れなきゃ・・・・・)

東屋の裏側にある茂みを抜け、お城へ向かって走り出す。

ポツポツと雨が落ちて来ました。(あともう少し)城は直ぐ目の前です。その瞬間後ろでピカ!と光りました。と同時にドーン!と音と共に落雷が鳴り響きザーっと滝の様な雨が降り出しました。

(あれは何?)


雨の中、厩舎まで走り抜けガイアに跨り駆け出しました。




「ルナ?どうしたの?」

使用人用の裏戸でルナが鳴いている。戸に爪を立て開けてくれと言わんばかりに鳴いているのである。

「雨が降っているから出られないわよ」と言いながら少しだけ戸を開けて外の様子を伺う。

と、ルナが雨の中を駆け出して行く。馬屋へ向かって一目散に。どうしたのかしらと思いながら目を凝らすと焦げ茶色の馬が居るのが見えた。その隅に小さな塊がある。

「シャァド!早く来て!」



「熱が高いわ。お医者様を呼びましょう」ララァは氷水で何度もタオルを絞りヒカルの額に当てている。首筋にも汗が流れ、その度に拭い取るが一向に収まらない。

「私が行ってくる。城には宮廷医も居るし、フェイ様にも報告せねばならない」シャァドはそう言いながら雨具を被り出かける準備を始めていた。

「一体何があったのかしら」おろおろし泣きそうになるララァを抱き寄せ励ますシャァド。

「大丈夫だ、絶対良くなるよ」額に口づけを残し雨の中に飛び出して行った。



それから間もなくして主人が慌ただしく駆け込んで来た。

「ヒカルは来ているか」物凄い形相である。

「熱が、熱が下がりません!何があったのですか!」

その言葉に驚いた主人は慌てて寝室へ駆け込み、小さな少女の傍らに跪く。

「何て事だ」取った手は僅かに透け熱を帯びている。名前を呼んでも返事が無い。意識が薄らいでいるようだ。何時もは甘酸っぱいベリーの香りが今は薄い。

「ヒカル 目を開けてくれ」

そんな言葉も空しく、浅い息遣いが苦しそうに胸を上下させているだけだった。

「城に来ているとは思わなかった」




「シア殿が探しに来なければ、気が付くのに時間が掛かっただろうな」

「どの道もう遅い」

「シア殿は大丈夫か」

「来ると言われたが、ユゥイに後を任せて来た」

「私が悪いのだ。何も教えなかったから」



シアが部屋に戻ると誰も居なかった。多分じっと等していないだろうと思っていたので余り気にもせずに居た。しかし幾ら待っても戻らず、落雷と酷い雨の音に不安になり探し始めたのだが見つからない。あちらこちらを探したが勝手の分からない城の中では限界が有り、如何したものかと考えていたら通り掛かった騎士に声を掛けられたのである。

「ヒカルを見なかったかと聞かれた時は、今はまずいとしか思わなかったな」

声を掛けたのはレオンだった。シアには部屋に戻るように言い残し駆け出していた。

庭師の部屋へ行くと雨に濡れた道具を拭いている所だった様で数名がまだ残っていた。ヒカルを見なかったかと聞くと一人の老人が「姫様はイリスの泉へ行かれた」と教えてくれた。


「レオン、何故庭師の元へ行ったのだ」

「雲行きが怪しくなる少し前、庭の東屋でマリー様に引き止められていたんだ。その時誰かが通り掛かった気がしたのだが余り気にも留めなかったのだ。しかし、まさかと思ってな。」

「あの場所に居たのだろうな。稲妻が光った時に外に人影を見た気がした。私はその時女性と一緒だった」



シャァドが連れてきたのは神官のジローだった。

「宮廷医が来ても何も出来ないよ。私でも大した事は出来ないけどね」そう言って、ヒカルの額に手を置き何やらぶつぶつと唱えている。置いた手が段々と赤くなって行き、その手を離し氷水の入った桶に入れるとジュッと音を立て湯気が上った。それを3回繰り返す頃にはヒカルの浅い呼吸も幾分ゆっくりとして落ち着いてきた。



「フェイ、私が前に言った事を覚えているか。」

「・・・・・」

「ヒカルは消えるやも知れぬ」




やっと、やっとララァとシャァのツーショットを書く事が出来ました。ほんのワンシーンですが作者大変嬉しいです。しかしそのワンシーンの為にえらい遠回りをしている気がするのは夏の暑さのせいでしょうか。

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