2.お行儀良く致しましょう。
待女ララァは、毎朝同じように同じ時間に旦那様を起こす。
濃いめの珈琲と、トースト、それとベーコン&エッグを運びながら主の部屋を訪れる。
大抵部屋の主は起床しており、窓辺の机に腰掛けながら外を見ている。
しかし、今日は・・・?
珍しい。まだベッドに居るようである。
「おはようございます」
いつもの挨拶である。
「ニャ~」と小さなお返事。
「はい?」
ベッドの上、毛布の下で小さな塊が右往左往しながら這い出そうとしているらしい。
その様子をじっと見ているララァ。ふと、隣の大きな塊。いえ、旦那様に視線をずらすと同じように小さな塊を見ていらっしゃる。
ようやく出口を見つけた小さな塊は、まず小さなお鼻から。
その後恐る恐る現れたのは、大きな瞳。続いてふわふわなお耳。
きゃぁ~!小さな小さな子猫ちゃんです!
萌えます!可愛いです!触りたいですー!
全体に灰色の体毛に覆われているその子は、もう一度鳴こうとしたようだけどフラリと一歩を踏み外し、ベッドの下へ落ち・・・
かけた所を旦那様が見事にキャッチ!
私がチャッチしたかった!と内心思いながらカーテンを開けつつ嫌味を言ってみる。
「昨夜は子猫様と一緒にご就寝でしたか」
「ああ。寄合の帰り道で馬車の前に飛び出してきたのでな。」
「子猫様に怪我などは御座いませんか?」
「轢いてはおらぬ。弾みで溝に落ちたがな。」
待女ララァはずいっと細目で確認し、両者を問答無用で湯殿へ追いやった。
旦那様のベッドには灰色のシミや子猫の足跡等で随分汚れている。
それに臭いのである。ドブ臭いやら酒臭いやら。
やれやれと思いながら寝具の交換をし、楽しげに窓を開けるララァであった。
「銀毛だったのですね!」
小さな体を柔らかな布で拭いながらよーく観察してみる。
ララァはこのように美しい毛色の猫を見た事が無い。
全体に銀色だが、光の加減により白にも灰色にも見える。
耳の先としっぽの先が少しだけ濃い色の銀色で、鼻と肉球はピンク色。
二つの瞳は青と紫のオッドアイ。瞳の周りは黒く縁どられている。
「はうぅ~可愛いです~」思わず漏れる溜息。
「ララァは猫が好きか」
入浴を済ませ、入れなおした珈琲を飲みながら主人が笑っている。
「はい。子猫は特に」
そう返事をしながら奇麗になった子猫をテーブルの上に載せ、人肌に温めたミルクを前に置いた。
「それではヒカルの面倒を頼む。隣国から客人が来るので暫く帰れぬが、何かあればシャアドに言付けるように。」
「ヒカル・・・ですか」
「その猫の名はヒカルだ。」
酷く楽しそうな笑みを湛えながら、ヒカルの頭を優しく数度撫で
「しかし・・・猫では無いがな」
そう言い残し、旦那様は楽しそうに出かけて行った。
前半(5話位まで)1ページの文字数が少な目です。出来るだけ同じくらいの長さで投稿出来るよう努力します。