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猫科人科目。  作者: 黒字
19/35

18.愛は盲目と申します。

「私の弟の名前はアオイ、妻の名前はイリスと言います」


お母様の弟アオイさんは、本当の兄弟では無いのだそうです。お母様の実家に住み込みで仕えていた待女の息子さんがアオイさん。お父さんは商人でたまたまお母さんと一緒に出掛けた時に事故で亡くなったそうです。今まで一緒に育った兄弟と違わず仲が良かったアオイさんはそのまま養子として末の息子となったそうです。


「50年程前、突然一人の娘を連れて来てこの人と結婚すると言われた時は驚きました」

剣士として城で働き副隊長を務めていた彼は、仕事の帰り道で彼女と出会ったと言っていた。街外れまで馬を引き、そこから騎乗して駆け出した所へ子供が飛び出して来たのだそうだ。慌てて手綱を引き除けた時に落馬した。子供は怒られると思ったのか慌てて何処かへ行ってしまった。足を痛めてしまいどうしたものかと思案している時に彼女が来て手を貸してくれた。彼女の家は少し先の森の入口に有り、そこで手当てを施してもらったと言う。それも一晩寝ていただけで治ったと言うのである。

「その時は感謝を述べて明け方早々に帰ったと言うのですが、どうにも気になるらしく次の日には会いに行っていたという事でしたわ」


彼女は待っていたと言って、彼を椅子に座らせ怪我をした足を見たそうだ。良かった大丈夫ねと言って笑い、何故一晩で治ったのか不思議に聞くと、私は治癒の加護を持つ妖精だと言ったそうだ。これで心配は無いから森へ帰ると言い出した彼女に、明日も来るから帰らないで欲しいと言ったと言う。彼女は少し困った顔をしたが分かったと頷き微笑んだ。翌日から毎日森へ通い彼女と語らう日々を過ごしたが、如何せん彼は副隊長を勤める騎士である。咎められ溜まった仕事を何とか片付け急いで森へ行ったが彼女は居なかった。


「アオイはね森に向かって叫んだそうよ。彼女を私の妻に欲しいと。絶対幸せにするから彼女を下さいとね」

すると森が答えたと言う。

{そなたの名は}

「アオイ」

{あの娘に名前を与えよ}

「分かった」

{名を呼ぶがいい。気に入れば我が娘が姿を現すであろう}

「私の名はアオイ。君の名はイリスと呼ぼう」また森に向かって大きな声で叫んだそうだ。

ざわっと風が吹いたと思ったら目の前にイリスが立って居たのだそうだ。頬を染めて。



ララァがお茶を入れて行く。さっきと同じジャスミンに似た香りのお茶だ。一礼して部屋から下がる。私はフェイの手を握っている。指先が白くなるくらい強く。フェイはゆっくりとその手を解いてくれて

優しく握り直してくれた。



「イリスはとても明るい子で皆に好かれていたの。私と一緒に庭を造るのが好きでしょっちゅう城へ遊びに来ていたわ。それも転移術を使ってね。」

城の中ではポンと言う音と共にあちらこちらでイリスが現れ皆をびっくりさせたと言う。妖精だから当たり前なのだと思っていた。でも神官のジローだけが転移術を使わない方が良いと言って咎めた事があったと言う。


「それから間もなくしてイリスが懐妊したの。アオイや皆が喜んでいたわ。一番喜んだのはイリス本人だったのよ。」そう言って嬉しそうに思い出している。

順調にお腹も膨らみ小さな命に毎日語り掛けている姿がとても幸せそうだった。出産が近づく頃には城へ呼び寄せ身の回りの世話をしていた。数日後には「今日生まれるのよ」と言って皆を驚かせ、そして数時間後に出産した。生まれたばかりの赤子はとても小さくて軽く、イリスと同じ銀髪に青と紫の瞳をした女の子だった。


「一月位経った頃、そろそろ名前を与えてあげましょうね。と話していたらイリスがこの子を森の皆へ合わせに行きたいと言い出したの。」

イリスにとっては森が家であり家族だから喜んで送り出す事にした。アオイも数日の休暇を貰い一緒に行くことにして準備を整えた。

「馬車を用意したからそれで行くようにと言ったのだけど、笑って必要ないと言うばかりだったわ。」暫く何かを思い握りしめていた手が震えている。お父様がその手を優しく包み込む。ふっとお母様の肩から力が抜ける。


「それでは行って参ります。と何時もの笑顔で赤子を抱いたイリス、彼女の肩に手を置き一緒に笑っていたアオイ。そしてポンと言う音と共に消え欠けた瞬間、赤子が泣いたのです。いつもならスッと消えるのに少し歪んで消えて行くように見えました。」

殆どと言うか泣き声を聞いた覚えの無いお母様は言いようのない不安に包まれ、お父様に森へ連れて行って欲しいと頼んだそうです。直ぐにジローを伴い行った森には誰も居なかった。ジローが森深くへ入り語らった事によると、来るのを待っていたが異変があったと、この世では無い別の世へ飛ばされたと。


「待つ事にしたの。あの子達の部屋もそのままにして、いつか返って来ると信じて待つ事にしたのです。」

私を真っ直ぐに見つめ潤んだ瞳には涙が溢れている。

真っ青な左の瞳は父と同じ、深い紫の右の瞳は母と同じ色。母の左の瞳は水色だった。

「ヒカル、あなたはイリスにとても似ています。」




自分の事なのに違うようで、違うようなのに妙に親近感があって、初めて見た両親の姿に何故か納得出来て、悲しいのだけどそれでも嬉しい気持ちの方が大きくて。

何も言葉が出て来ない私を労わって、お父様とお母様は部屋を出ようとした。その後ろ姿に「ダディ、マミィ、ありがとう」とやっと言う事が出来た。途端に取って返した二人に抱き締められた。


フェイに抱き上げられてベッドへ横にされる。もう少し眠ろうと言われ素直に頷く。何も言わずに髪の毛を撫でてくれる。そのまますーっと意識が薄らいだ。



お昼近くに目を覚ましたら隣でフェイが只黙って私を見ていた(らしい)。


「叔父上は私の憧れだった」私の髪を指に絡めながら話しだす。

アオイ叔父様のような剣士になりたくて訓練したと言うフェイ。良く遊んでもらい沢山の事を教えてもらう先生のような存在だったそうだ。25歳になった年に王子としてもっと知らなければいけない事がある、と学問を学ぶ事を薦められ隣国のアイテールへ留学したと言う。アイテール国は学問の国と言われているのだ。


「留学中は中々国へ帰れなくて叔父上にも会って居なかった。だがその年は一月程の休暇を貰い叔父上の奥方と赤子に会いに帰ろうと思って居たのだが・・・叶わなかった」

知らせを受けて直ぐに帰郷したのだそうだ。しかし何も分からず諦めるしかなかった。

「夢に見た男の人がアオイ叔父様だったんだね」

「懐かしいお姿だった」(体は余り大きくは無いが貫禄のある男性だったな。)

私の夢を見たフェイは事のあらましを知り、私が落ち着くのを待って父と母を呼びに行ったのだろう。




コンコンとノックの音と「お昼になさいませんか」とララァの声。

「入って良いぞ」とフェイが言うと、少しだけ戸を開け顔を出すララァ。(可愛いし)

「お昼はこちらでと王妃様から言い付かっております」

「じゃ、ララァも一緒に食べよう」ララァは嬉しそうに頷いた。

寝室の隣の応接室で食事をしながら、ララァにも簡単に事の次第を説明する。泣きそうな顔をしながら聞いてくれたララァは「一生ヒカル様の側におります」と言ってくれた。

「それでは家の改装をせねばならんな。」とフェイが言い出した。

「へっ?何で?」

「そろそろシャァドと婚儀の標を立てねばならんだろう。」(シャァド?)

何の事だと思っていたら、ララァの顔が見る見る赤くなって行くではないですか。その顔を見て納得した私は「おめでとー!」とララァの手を掴んでぶんぶん振り回してしまった。

「遅い位だ。私が言わねば一生せぬだろうな」



ララァとシャァドを無理やりくっつけようとしております。私の脳内ではララァとシャァは永遠なのです。

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