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猫科人科目。  作者: 黒字
15/35

14.夢は何時か実現するでしょう。

部屋に着いて直ぐに聞いてみた。

「頭の中にフェイの声がしたけど、呼びかけた?」

「やっと届いたな。」そう言って抱きしめる。私も素直にされるがままになる。(お兄様夫婦に中てられたかな)

などと思いながら、視線を部屋の中に彷徨わせる。と、窓辺の机の上に見覚えのある物が置いてある。(!!!!!)

「私のバッグ!」

「ジローが届けてくれた。昨夜渡そうと思っていたそうだ。」

急いで駆け寄りむんずと掴み抱き締める。そのまま動けないでいる私を後ろからそっと包み込む。暫くそのままでいると「声を出さずに涙くな」と。(あー泣いてたんだ)



バッグを見た途端に日本での出来事が走馬灯のように駆け巡る。病院の白い壁・なのはの困った顔・教会の裏庭・みよちゃんの笑い顔・・・あの二人のお蔭で私は楽しい人生だったと思える。



そのまま呆けた私はフェイに抱き抱えられたまま城を出る事になってしまった。皆から心配されてしまったけど、何とか笑顔で挨拶を済ませ家へと戻った。



黒い革に王冠の型押しが入ったトートバッグ。内側には派手なピンク色の布地が張ってある。これといってブランドにこだわりは無い自分だったけど、この王冠シリーズは大好きで今までに3個ほど購入している。

(あの日は何を入れてたっけ。金曜日だったからいろいろ入って重かったんだよな)

私は何でも取敢えず入れておく癖があって曜日が進む事に鞄の中が増えていく。だから週末には全てを出して整理をするという習慣があった。

一番上から順番に取り出しテーブルの上に並べてみる。


サーモンピンク色のストール(朝涼しかったから)・財布(諭吉2枚残ってる)・カードケース(診察券ばっかりだ)・封筒2通(年金とカード会社だな)・ポケットティッシュ3個(街頭で貰ったやつ広告入りだし)・ハンカチ(黒猫の刺繍入り)・靴下3足(500円で安かったんだよ)・手帳とボールペン(仕事はどうなったかな)・漫画ハーレクインコミック2冊・赤ずきんちゃんのポーチ(ハンコとリップかな)、サイドポケットにはエコバッグ・携帯電話(電池切れだ)・ミュージックプレイヤー(!)・鍵(自宅と会社)後はプリントアウトした紙が数枚ともろもろのゴミだけ。


それとは別の紙袋には私の洋服と下着、あの時身に着けていた物が一纏めになって入っている。(恥ずかしいな。ジローさんもビックリしただろうけどさ)


もう一度手を伸ばして取り上げたのはピンク色のミュージックプレイヤー。イヤホンもピンク色でマーブル柄の派手なやつ。イヤホンを耳に付け本体の電源を入れてみる。バッテリーの残量は4分の3ほど。アーティストを選択して再生してみる。(あー懐かしい)


ふと、向かい側に座るフェイを見る。

今まで何も言わずに只黙って私のする事を見ていた瞳はやさしく澄んでいる。

私の座っている隣をポンポンと叩いて示すと1つ頷いて来てくれた。彼の耳に私の片方のイヤホンを付ける。私の大好きな曲を流して二人で聞いてみる。

フェイは最初とても驚いていた。ミュージックプレイヤーだと教えても難しい顔をしたままだったけど、いい歌だと言って最後まで聞いていた。

この時自分の行動に後々後悔するとは思わなかったのであるが。


「音楽を聴いていたのか」とピンク色の小さな機械を手に持ち眺めている。


「夢で見るヒカルはいつでもこれを身に着けていたな」とフェイの夢語りが始まった。

「私は幼い頃から一人の少女の夢を見るようになった。最初は白い部屋の白いベッドでただ寝ている少女の白い顔を見ていただけだった。二月程経った頃、簡素なテーブルに付き真剣な顔で本を読んでいる少女を見た。それから10日過ぎ頃にはまた白い部屋で寝ているお前を見た。」どうやら小学生の頃の私だ。入退院を繰り返し調子の良い日は図書館で本を読んでいたのを思い出す。フェイの夢に出てくる私は定期的ではなく月に2回だったり3か月も見なかったり随分バラバラだ。

「初めの頃はどうにも気になってな、白い部屋を探したり黒髪の少女を探したりもした。しかし何も分からなくてな、父上に話してみたら夢告げでは無いかと言われ神官のジローを呼んでくれたよ。」それからは夢を見る度にジローの元を訪れどんな夢を見たのか話す事になったそうだ。夢の数が多くなる頃にはこの世界では無い世界である事・自分と同じ月日で成長している事が分かったそうだ。その夢は音が無く白黒の映像に時々ポイントの様に色が見える事があったそうだがそれ以上の事は分からなかった。ジローからは焦ってはいけない、いつか時が来る。と繰り返し言われ続けていたらしい。



「髪を長くし、揃いの洋服を着て楽しげに笑う姿に心が疼いたものだ。」

髪を長くしていたのは高校生の頃だけ。スカートも制服でしか着なかったな。

「幼い子供と何やら真剣に話し込んでいる時は少々心配もした。」

なのはとはよく討論してたからな。あれで結構モテルんだから不思議だ。

「男と一緒に居た時は、 流石に嫌な気分だったよ。」

うーん。そればかりは、ね。適齢期過ぎてたんだけどねー。

「白い部屋の夢を見た時は、このまま会えないのかと思って落胆した」

1年くらい前だ。突然意識が無くなり倒れ2.3日生死を彷徨った事がある。 

「ジローの元へ行き私を向こうの世界へ送ってくれと頼んだよ。無理は分かっていたのだが自分ではどうする事も出来ず歯痒くてな、ジローを大層困らせたものだ。」

ああ こんなに心配してくれる人が居たんだ。それなのに早く楽になりたいと思っていた。

ごめんねと思う私の髪を指に絡めながらフェイは楽しそうに笑う。



「その時は私も少々荒れてな。皆が心配しているのは分かっているのだがどうする事も出来なかった。夢を見るのが怖くて眠られなかったのだ。お前のその後を知りたくなくてな。」

あの時は自分でもダメだと思ったからな。

「仕事もせずに酒ばかり飲んでいる所へジローが来てな。酒を飲むなら私の店で飲めと連れて行かれたのが【アバロン】だった。」

退院した時にタクシーの中から見のが【アバロン】新装開店の看板だった。

「ジローは先読みなのだ。近い事から遠い事まで分かるらしいが必要な事しか教えぬ。しかし異界の事は靄を掴む様ではっきりとした事が分からないと言っていた。だがある時、この扉を通る者が居ると言ってあの扉を指差したのだ。」

自分の先は短いだろうと感じ取り、気になる事ややりたい事は行動に移してみようと考えていた。なのはにも相続の時に世話になった弁護士を紹介したり、印鑑や通帳の保管場所も教えておいた(物凄く嫌がられたな)。温泉旅行にも行ったりしたし、通るたびに気になっていたお店にも入ってみた。【アバロン】もその一つだった。

「あの日は兄上に説教をされてな。身を固めろと言われたよ。長い夢を見過ぎたかと苦笑したさ。部屋の椅子に座ったまま考えていたら少し眠ってしまってな。そして夢を見た。愛おしい娘の笑顔をな。」一呼吸置いて私の頬を撫でる「私にはあの娘が必要なのだと思ったよ。何かを思いジローの店へ行ったら「時が来たよ」と言われてな。何の事だと思った時にあの扉からヒカルが現れたのだ。」


覚えている。体が覚えている。あの店に入った瞬間に体が軽くなったのを。


「思い切り抱きしめたかった。しかしジローに止められて手を取る事で我慢したのだ。」

「何処に座ろうかと思ってたら、1番奥の人が立ち上がって、私の手を掴んで、隣に座らせたんだよね。」笑って返事をしてみる。

「そしてずーっと手を繋いだままでね。」もう1度笑ってみる。

「仕舞いには手にくちづけまでしてくれたよね」くすくす

「あれもまじないだ。言葉を紡ぐ為のな。」そう言って同じ事を繰り返す。

「初めてそなたの声を聞いた時は・・・狂おしい程嬉しかった」艶っぽい瞳で言われるとドキっとする。

「私の側に連れて来た事を謝る気は無いぞ。」

そう言って不適に笑うフェイでした。




その夜のこと。

「・・・んっ」(まだ髪が乾いて無いよ)

何だか何時もの口づけと違う。てか、目の輝きが怖いかも。何故かな。

口づけの角度が変わる度に深くなる。

フェイの手が腰から胸へと上がって来る。

「・・・はっ・・あ・・」

乱暴だけどやさしい愛撫に体が震える。

「あの歌が頭を離れぬ。」(・・・選曲ミスか)

いずれは肌を重ねる事にはなるだろうと思っていたが、口づけだけでも記憶が飛びそうになる自分にどうしたら良いのか分からず困惑する。

「ヒカル 愛しいヒカル」囁きながら唇が下りて行く。そして胸元にチクリと痛みが走る。

理性が飛んだ。







♪ 全てが溶ける程甘い口づけを交わそう

 あなたの全てを知り愛したい

 熱く口づけるたびにわたしの世界が輝く


 夜が来る前にあなたを探そう

 すべてを忘れる前に

 きつく抱きしめるたびに

 冷たい肌が熱を帯びる   ♪


歌詞の転載に付いてのお知らせに伴い、最後の歌詞を訂正しました。

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