13.薔薇の香に惑わされない様に注意致しましょう。
マスターの名前はジローさん。意外に日本人っぽい名前にびっくりしました。
ジローさんは宮廷に仕える神官様なのだとか。(神官が酒って良いのかな)
「レオンさん、前にもここで会いましたよね?」
多分あれはレオンさんだと思う。店に通った内でフェイの他にお客が居たのは1度だけ。今の様に手前のイスに座って酒を飲んでいたのは大柄な男性だった。
「良く覚えていたな」(やっぱりか)
「あ、だから?この間私の事を睨んでたのって」
「睨んだつもりは無いぞ。こいつが(猫)本当にあの時の娘かと思って観察しただけさ」
「まあ確かに猫だったし」
「良かったな。元に戻れて。」そう言って頭を撫でてくれました。
3人は何やら小難しい話を始めたので、私はいろいろ観察してみる事にします。
1番の関心事は『扉』なのですが、何度出たり入ったりを繰り返しても何も変わらなくてがっがりです。(んー残念だなー)と思いながら扉を撫でてしみじみとしていたら
『・・・・・ぃ・ぁ・ぅ・・』何かが聞こえる。(なんだ?)キョロキョロしてみたが3人は相変わらず話に夢中のようだし。他には誰も居ないよね。(精霊?違う、なんだっけ)
『ひ・る・・・』(!)なのはの声だ。
「なのは!」
思い切り目を開けた。目の前にはフェイが居る。(え、なんで、なのはは?)
瞬きを繰り返す。(・・・ああそうか、ここは日本じゃないんだ)
どうやらフェイの寝室で寝かされているらしい。(何があったっけ)
「大丈夫か?扉の前で突然倒れたのだ。」(あぁ・・・)体が冷えて行く。
「・・・声が聞こえたの。娘の声。その後は覚えてない。」
「そうか。 今日はもう休もう。」
フェイはベッドに腰掛けたまま私の髪を撫でてくれる。その手がとてもやさしくて甘えたくなってしまった。
「明日も行っていい?」
「目覚めたら行ってみよう。」
「うん。 フェイ・・・一緒がいい」そう言って手を伸ばす。ふっと笑みを作るとベッドに入り、同じ目の位置で見つめてくれる。その間もずーっと髪を撫でてくれている。とても気持ちが良くてだんだん眠くなってしまった。「おやすみ」と鼻の頭にキスをしてくれたような気がした。
「なのはは旦那さんの子供。奥さんが病気で早くに亡くなったけど、とても仲の良い二人だった。」
朝目が覚めて二人で【アバロン】へ来てみた。暫くの間耳を澄ましてみたけど何も聞こえなかった。
「私は旦那よりもなのはと先に知り合ったの。外国の言葉を習う教室に通っててそこでね。」
なのはは小学生だったけどとても大人びている子供だった。母親が居ないせいだろうと思うが自分の事は何でも出来た。世の中についての勉強をしている子供だった。当然同年の友達とは気薄な関係であり、それを別段気にしている様子もなかった。最初の感想は『似ている』だった。二人組みになって英会話のやり取りをする時間があり、その時隣り合わせたのが彼女であった。『あーお腹が空いたわ』が第一声。家に帰って料理をするのが面倒だから帰りにご飯を食べに行こう、何処がお勧めの店か、と言う英会話をしていたのである。その日を境によく出かけるようになった。彼女の家に連れて行かれ、父親を紹介された。その後は三人で出かける事も増えた。そのまま家族になった。
彼女は初めから私の事を「ひかる」と呼ぶ。私はそれが甚く気に入っていた。
「なのはとは、短い黒髪に切れ長の目をした者か?」(えっ?)
「会ったこと有るの?」
「夢の中で見たことがある。」(夢?)
その先を聞こうとしたら邪魔が入ってしまった。後で聞こう。絶対に。
お城の従事の方に、皆様が朝食をご一緒にとお待ちですよ、と先を急がされてしまったのであります。(あら、探してたのかな。ごめんね)
「皆様って・・・」そこには家族が勢揃いしてたのでありました。
父母、お兄さんのリィド、お嫁さんのローズ、弟のユゥイ。
何とも賑やかな朝食となりました。(笑)
只今お城のサンルームらしき所に来ています。
サンルームの周りには七色の薔薇で溢れています!絶景です!
朝食の時にローズお姉様を紹介してもらい、例のポプリについて聞いた所こちらへ誘って頂いたのでございます。(少し緊張してます)
「薔薇ばかりだろ?」と言って笑う姿は動く薔薇です。
ローズお姉様は焦げ茶色の長い巻き毛を無造作に結び、切れ長のエメラルド色の瞳で庭を見ています。身長も高く細身の体は凛として佇む1本の薔薇の花のようです。多少棘がありそうで、むやみに触れられない雰囲気を持っています。
「名前のせいかな、薔薇の花ばかり育ててしまうんだ。」その話し方と自嘲気味に笑う顔が少年のような中世的な魅力に溢れています。(胸がキュンとするわ)
「全部が薔薇って凄く壮観。ローズ様らしいね」
「・・・様は止めてくれないかな。居心地が悪くなる。」(眉間に皺は宜しくないよー)
「じゃ、お姉様。私の事はヒカルでお願いね。」
「お、お姉様と呼んでくれるのか!ヒカル!」(あれま、顔が赤くなってる)
サンルームの奥に乾燥室があり、そこでトゥシェ(ポプリのこと)を作っていた。
数十種類の薔薇の花の香りでむせかえる。花の色ごとに分けられた籠には沢山のトゥシェが入っている。
「好きなだけどうぞ」と言って白い布袋を渡してくれた。
「ありがとう!」と微笑むとまた顔を赤くする。(可愛い~)
袋に半分位詰めてもう1度ありがとうと言うと、それだけで良いのかと聞かれた。香量の加減が分からないから取敢えず、と。欲しくなったらまた来ていいかと聞いてみると満面の笑みでもちろんと返答された。
{ヒカル、何処だ}頭の中でフェイの声がする。(おや?)
{サンルーム?}という言葉を頭の中で唱えてみる。(まさかね)
まさかは本当でした。
フェイとリィド兄さんが二人でお出ましです。
リィド兄さんはお姉様を見つけるなり後ろから抱きついて離れません。耳元で何やら囁いているようでお姉様の顔は見る見る赤くなります。(ラブラブなんだ)
「し、仕事はどうした!」と、どもるお姉様。
「ローズ、君の事を思うと仕事が手につかない」困った事を平気でおっしゃるお兄様。
余りのらぶらぶっぷりにフェイと速攻でサンルームを後にしましたとさ。
その時聞いた話によると、ローズお姉様は騎士団に入隊していたらしくフェイの部下として働いていたそうです。(あの口調はそのせいか)お兄様の警護に着かれた時に見染められ、速攻で口説き落とした(落とされた?)そうです。
確かにお姉様はカッコよくて可愛いですもん。(少し・・・なのはに似てるかも)
フェイの親族が続々登場しております。詳しく紹介したいのですが、話が長くなってしまいそうなので、必要に応じた紹介文に留めておこうと思ってます。