サイドストーリーⅠフェイだって男の子。
やはり人肌は心地良い。ましてや好きな女となれば尚の事。喰らい付いて全てを食べ尽くしてしまいたいが、やっと人型になったばかりでは無理があるかもしれぬ。
それも、後少しの辛抱だろう。ララァには毎食栄養の有る物を食べさせるように頼んで来た。シャァドにも体力回復用の薬草を用意するよう何度も言ったしな。
猫の頃の癖なのか、人型になってもベッドの中で丸くなって眠る。これでは体が休まぬだろうと思い腰を引き寄せ背中を摩ってやる。縮まった体が少しずつ伸び「ふーっ」と大きな吐息を吐きだしてまた眠る。たまに鼾を掻くのも愛嬌だ。
猫の頃は微量だったが人型になると共に甘いベリーの香りが立ち上る。少し甘く少し酸味を併せ持った少女の香り。ああ、やはり喰らい付きたい。
ジレンマを感じ、早々に起きだす。我慢比べだな。と自嘲的な笑いを漏らす。
起こさぬ様に隣室への扉を閉め、長椅子に体を沈める。
今まで夢に見ていた少女をこの腕に抱く事が出来るとは、正直夢のようだ。
本物だろうか、これも夢なのだろうか、何度も瞼を閉じて確認してしまう。
私にも欲があったかと思い知る。
明け方近くにシャァドが珈琲を持ってやって来た。
「眠れませんでしたか」
彼の入れる珈琲は格別に美味いのである。
「壊しそうだ」
彼も向かいの椅子へと腰を下ろす。
「年齢の割には小さいですね」
長椅子から起き上がり珈琲カップを手にする。
「子供とも違う。全体が全て小振りだな」
自分の手を見ながら思い出す。体の線は女性らしく丸みを帯びている。胸も丸い膨らみがあり、ウエストから腰へのラインは綺麗なカーブを描いている。しかし自分の知っている女より遥かに小さいのだ。全てが。
だがそれが可愛いと思える。私の腕の中に納まり、私を見上げる姿は天使そのものだ。
「可愛いお方です」
「褒めるとは珍しいな」
「あの方は特別になられますよ」
「分かっている」
「今日のその服はどうしたのだ」
女性の服装に口を出すのは好きでは無いが、どうにも目のやり場に困るので聞いてみた。
「フェイの履かないズボンを切ったの。楽だよ」
それは分かるのだが。膝上10センチは短くないか?その上のシャツもボタンを2個外しへそが見えそうな位置で裾を縛ってある。それも私のシャツだろう、大きいのは分かるが何とも誘惑されている気分になる。
思わず引き寄せ抱きしめる。上から見ると小さいながらも胸の谷間が見えそうである。
「その姿で外に出てはいかんぞ」少し口調が強くなる。
「行かないよ。行く気も無いし」さらりと笑顔でかわされる。
人型になって特に気になる事が有る。外の世界へ出て行こうとしないのである。猫の頃はあの姿と不安もあってだろうと思っていたが、どうやら違うらしい。
散歩に行こうと言えば喜んで行くし、来客があればその客人と普通に話もしている。
先日ララァが言っていた事を思い出す。
自分がこの世界に関わっていいのかどうか不安であると。自分の存在が認められたらまた消えた時が辛いと。私と一緒に行動すれば私の一部としてしか印象が残らないから良いのだと。自分が何者か分からない今はこのままで過ごしたいと言っていたらしい。
私も自分の手元に置いて喜んでばかりもいられない。
彼女を「ヒカル」をこの世の人に留めたいのだから。
人との関わりが増えれば変わって行くだろう。
その前にもう少し肉付きを良くしたいのだが、食べる量がそもそも少ない。あれでも無理をしているらしいのだが。女とは言えララァや母等の半分も食べておらん。
あれでは子も産めぬ。 子か。
そんな事を考えたせいか顔がにやけてしまった様だ。
「フェイ? 気持ち悪いし」
どの口がそんな事を言うのだ!?思わず口づけをしてしまった。
どうにもヒカルのペースに嵌ってしまう。
私としては面白くない。大変面白くないのだが。
私が知っている人間達とは明らかに話し方が違う。この世界の者では無いから仕方がない。
しかしその物言いが大層面白い。あの可愛い顔で百面相をしながらポンポン出てくる言葉が堪らなく楽しいと感じるのである。
やる事もなかなか大胆で、先程のズボンもそうだが先日などスカートまで短く切ってララァに叱られておったしな。私は大層可愛いと思う。思うのだが家の中だけ、嫌私の前だけで肌を出して欲しいものだ。人前でなど言語道断である。
この様な者が黙って家の中だけで生活出来る訳が無い。近い内に好奇心に勝てなくなるであろうな。
両親からも早く顔が見たいと言われていたしな。それを機会にヒカルのお披露目をするか。
兄上にも詳しい話をしておらぬから丁度良い機会だろう。まさかお見合いを計画しているとは知らずにいたから、レオンから話を聞いて驚いたものだ。政務の事でしか係わらずにいた自分も悪いのだろう。近い内に顔を出して来るか。
「フェイ?ここの意味が理解出来ない」読んでいた史学書を片手に差し出す。
「ああこれはこの国の創世記の話だから、その箇所の伝記は別の本に詳しく書いてある」と脇に山積みされた本の中から選んで差し出す。
「これか。ありがとう」直ぐにページをめくり始める。
何故文字が読めるのだろうとお互い不思議に思っている。
言葉が理解出来て話す事が出来る事も実は不思議なのだが。
まじないをかけたとは言ったが困らない程度の物であった。しかし未だに理解し話せると言う事はこちらの人間だからでは無いのだろうか。
この地の人であれば妖精や精霊の加護を受けて理解する事が出来るのである。
ヒカルに言わせると『ほんやくこんにゃく』みたいな物なのだそうだ。向こうの世界には変わった物があるらしい。どら○もんとか云う機械が欲しいと言っていたがどの様な物なのだろう。
まず不自由が無いから深く考えなかったが、近い内にジローに聞いてみるか。
そろそろ日も陰り初め書物を読むには暗くなってきた。
「ヒカル、勉学は終わりにしてたまには付き合わぬか?」そう言ってグラスを2個と透明な瓶を持ち上げてみる。
「飲む!」その目の輝きはどうしたものか。
「フェイ~」くすくす
「他所の家では飲まぬ方が良いな」シャツのボタンを留める。
「だって、暑い」そう言ってまた脱ごうとボタンに手を掛ける。
「おい、いい加減にせぬか」この繰り返しも何度目だ。
前に母上から頂いた果実酒なのだが、口当たりが良いので飲み過ぎたのでは無いだろうか。とは言ってもグラスで3杯程しか飲んでおらぬと思うが。
酒に弱かったのか。
自分が良く飲んでいる酒はもっと強い。騎士仲間ではそれ位が当たり前だが、女でも平気で飲む者もいる(姉上の酔った姿を見た事が無いな)。今飲んでいる物は女性用に軽く作られている果実酒であり、この酒で酔う者は余り居ないと思うのだが。まいったな。
「はぅ~うふふ」
数度目、シャツのボタンを外し胸の谷間が見えた時には食らい付いていた。どうにも我慢も限界だ。
しかし・・・何時もと反応が違う。首に回された白く細い腕が艶めかしい。
「ふぅ・・・ん・・・はぁ・・・」ふふふ
こんなに色気の有るヒカルは・・・初めて見たな。
「フェイ・・・いい気持ち・・」
口づけが首筋から胸へと降りて行く度にピクリと体が反応する。
抑えられない衝動に駆られ、もっと下へと降りて行く。
が、反応が無い。
「ヒカル」
顔を上げてみると、幼い少女の顔は真っ赤になっており口を少し開いて寝ていたのである。
呆れるやら、情けないやら、まるで拷問である。
気持ちとは裏腹に大笑いをしてしまった。 これからが楽しみだな。
そして真夜中の事。
「・・・フェ・イ」
寝室から今度は青い色のヒカルが顔を出す。
「気分はどうだ」
聞かなくても分かりそうだが、グラスに水を汲み手渡す。
「頭が痛い、です」
立て続けに3杯の水を飲み、私の膝の上に抱きつく格好で座った。
「酒は余り強くないのだな」
頭と背中を擦りながら聞いてみる。
「うん。」
仕方が無い事だ。酒に強い者でも何度も経験する。それが酒だ。
そのまま抱いて擦っているとゆっくりとした寝息が聞こえて来た。
こんな風にふいに甘えられると堪らなく愛おしいと思う。
もっと甘えて我儘を言って欲しいとも思うが、どうやら無理をしている訳でも無いらしい。
一人で生きてきた日々がそうさせるのかもしれんな。
それでも、こうして甘える姿は可愛い。
少しずつで良い。
ゆっくりで良い。
色々なヒカルが見られるのは楽しみだ。
オレも焼きが回ったな。(笑)
フェイ目線のお話を書きたくなって一気に打ち込みました(笑)これが殊の外楽しかったのでまた機会があったら書きたいですね。
この二人、必要以上に会話をしないので書く方としては面倒臭いです。