俺の中二病は死んでも治らないことが確定した
どんな願いも
何度でも
一才の代償なしで叶えるにゃ
ただし……ちょっと気まぐれだよ
夜風が窓の桟を揺らす薄暗い部屋で、俺は例のノートに最新の“中二設定”を書き込んでいた。世界を救う力とか、漆黒の血脈とか、まあそんな感じ。
その時だった。
「なんでも願いを言ってみるにゃ。」
窓際に、さっきの迷い猫が座っていた。
「……喋った?」
「うん。どんな願いも叶える猫だよ〜。おやつのお礼にゃ。」
尻尾がくるりと巻き上がる。軽い調子の声。
心臓が飛び跳ねた。
来たぞ、ついに来た。俺の黒歴史バインダーが震えるレベルの奇跡が。
「ど、どんな願いでも?何回でも?後で魂とか抜かれたりしない?」
「ないない。やらない。面倒いから。」
それなら……言うしかない。
「異世界転生させてくれ!チートと癒し系可愛い彼女もセットで頼む!」
猫は楽しそうに尻尾を揺らす。
「面白いにゃ。みんなね〜、お金欲しい〜とか、不老不死〜とか、そんなのが多いのにゃ。」
「叶えたの?それ。」
「うんうん。金持ちになったり、不老不死になったりして楽しんでるよ。」
軽すぎる口調で世界の理をひっくり返すなよ。
「じゃ、早速転生させてあげるから……死んで?」
「え?」
「え?死ななきゃ転生できないじゃん?」
猫は当然のように尻尾で床を叩く。
「じゃ、死ぬとこから叶えよっか? どれがいい?」
猫は俺のノートにサラサラと「あなたの死に方リスト」を書き始める。
「やめろ。こええよ。」
「じゃ、死んだら転生、チート、可愛い子ちゃん。はい決まり。」
猫は満足げに立ち上がろうとする。
「ま、待ってくれ!」
とっさに言葉が口を飛び出した。
「ウチの猫になれよ!そしたらいつでも願い叶えられるだろ!」
我ながら天才的な提案だった。脳内でファンファーレが鳴った。
猫は振り向いた。金の瞳が静かに光る。
「その願いは叶えられた。」
「……え?今なんて?」
「アタシの五番目の家にしてやったの。気が向いたらまた来るにゃ。」
「五番目!?」
「うん。もう夕飯の時間だから帰るにゃ。」
ふわりと身を翻し、猫は外の階段を軽やかに降りていく。
夕闇がその姿を飲み込み、気配は完全に消えた。
それから毎日窓辺にチュールを置き続けたけれど……
猫は二度と来なかった。
――まあ、いいさ。もし俺が死んだら、その瞬間、たぶん異世界で楽しくやってると思ってくれ。
猫の気まぐれスケジュールに、俺の来世も任されているわけだし。
それならそれで、悪くない旅になる気がする。




