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魔術と技術の間で

ただの行進

作者: zensuke
掲載日:2025/11/10

きれいだなあ。

雲ひとつ無い青空。

その下にはどこまでも続く緑色の草原、

遠くの丘の上には所々に木々が生えているが、それ以外に地平線をさえぎるものは無い。

大自然に圧倒されていると、隊の一人が歌いだした。

皆も同じ曲を口ずさむ。

(知らない曲だ)

「よう、この曲知らないのか?」

異国のリズムを物珍しそうに聞いていたのか、横を歩いていた先輩が問う。

「ええ。でもいい曲ですね」

「だろ?まあ、適当にリズムに合わせて声を出せば自然と慣れるよ」

「そんなものですかね?」

「そんなもんだ。だいたい帝国語の曲じゃないしな。俺も歌ってしばらくになるが、歌の意味わからないしね」

適当なもんだ。

同時に適応力に感心する。

俺は、始めての行進が、まるでピクニックにでも行くような雰囲気にあっけにとられた。

そんな雰囲気に流されて、いつの間にか緊張感を欠いていた。

隊の皆に早く馴染みたいという感情から、普段なら絶対にやらないことを試してみることにした。

すなわち、この歌を歌うという行為である。

巡査教習所でしごきに合う直前や、帝国行きが決まった時とは、また違った緊張が走る

勇気を振り絞って、俺は適当に声を出してみた。

とたんに元気のよかった歌声に笑い声が混じり、リズムが震えだした。

(やるんじゃなかった。でも、これで多少は心象も・・・)

横をちらりと見ると、先ほどの先輩も笑っていた。


太陽は傾き、空は段々と茜色になる

ああ、疲れた。

なんでこんな苦労しなきゃならないのか。

最初は初めて目にする西の世界に冒険心を弾ませていたが、何時間も似たような景色の中を歩けば、嫌になってくる。

疲労のせいだろうか?

昼頃の大休止後、しばらくは俺を含めた隊の皆が元気であったが、小休止を挟むたびに徐々に疲労感が隊を包む。

最初に見たときは、美しい緑の平原であったが、歩いてみると起伏が激しい。

上るときは歩幅が小さくなりがちで、隊列を乱しそうになる。

逆に下りは、一歩踏み出すごとに全身の重さがかかってくる。よろめきながらなんとか進む。

いかに過ごしやすい季節とはいえ、肌着は汗ばんでしまう。

小銃をはじめ、銃剣、弾薬、鉄兜、主に日用品の入った背嚢、毛布、水筒等、装備は全部で30kg近くあるんじゃないか。

俺が私物を増やしすぎたのかもしれないが。

荷造りをした自分を恨みつつ、またしても坂を黙々と上る。

「みえたぞ」

稜線差し掛かった先頭の誰かが、飾り気なく声を出した。隊列の前から、今夜の宿舎の様子や、酒保での過ごし方について話すものが出てきた。

目の前は徐々に稜線よりも、薄暮の空が占める割合が多くなる。

見下ろした先は盆地になっており、平野の中に町が見える。

概ね楕円形の町は、方々に円形の塔を備えている。

町はここから2、3kmだと思われるが、ぐるりと囲む、厚い壁は、少し驚くような巨石で組まれている。

壁の中は商店や家に灯が付き始めているのか、夕日と交じり合って、あたたかな雰囲気を醸し出している。

一刻も早く町の中で休みたい。そんな気持ちが湧いてくる。

町に近づくにつれて、詳細が判明してくる。

彼方の山から二筋の川が流れ、町を取り囲み、一つになる

帝国を紹介するポスターや書籍にある挿絵とは違い、壁や門は10mほどで、思っていたよりも低い。

尖塔はない。

壁は胸壁を備えているが、火器の類は見当たらない。

遠目に町の中心部までよく見渡せる。

正規軍からの防御を担うのではなく、野党や山賊の類から町を守るためのものだと思われる。

そんな町を軍隊の中継地点にしているからなのか、人があふれかえり、町の喧騒はここからでもわかるほどで、目を凝らせば人の塊がうごめく様子が何となくわかる。

「さあ、あと少しだ」

自分に言い聞かせたのか、俺に言ったのか、先輩が言う。

「ええ。早く落ち着きたいですね」

率直に答える。

疲労した体と反対に、頭は冴えてきた。

初めて見る町は、やっぱり楽しみである。

帝国に派遣されてから、セントラル(首都)と訓練したあの町の二つしか過ごしていないが、どちらも興味深く、それなりに楽しみはあった。

今回は何があるのか。

そんなことを漠然と考えていると、いつしか跳ね上げ橋の入り口付近に差し掛かっていた。

指揮官が守衛に話をつけている。

巨石を組んだ壁からは、銃眼や、胸壁の合間から守備兵が緊張感無くこちらをうかがっている。

立ち止まっているなら腰を下ろしたいと思っていると、跳ね上げ橋が下りてきた。

橋が下りてくる。

ガラガラと大きな金属の音を立てているが、橋が下りてくるにつれて、町の人々の声や、生活の音がこちらに押し出されてくる。

町の中はまだ見えない。橋の下りた先に見えたのは、またしても石の壁であった。

この壁の向こうに、新しい世界が広がる。そんなことを考えていた。

橋が下ろされて再度歩みを始めるときには、すっかり疲れを忘れていた。



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