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他人目線

(情報を整理したい)


机に新聞とメモを広げてため息をついた。


「エリックとエディ婦人は夫婦…リアムはエディ婦人の浮気相手?」

「エリックとリアムの間に何か問題が起きたから、彼はリアムの事を"因縁の相手"と言った…?」

「喧嘩とかだろうか…体格的にも年齢的にもエリックの方が高いから、少々やりすぎて問題になったのかもしれない」

「…エリックに違和感が少し」


先ほど書いたメモを読み上げながら、もう少し丁寧な文字で情報をノートに書き留めていく。


(…そろそろ本格的に捜査を始めよう)

リアムやエディ婦人のことも多少は知れた。ここからが本番だ。


「色々わからないことが多すぎる」


どれだけ調べても拭いきれない違和感が、ルシアンの正義感を強く掻き立てた。


プルルルルルル…


突然、電話がかかってきた。

急いで駆け寄って、受話器を取る。


「はい、もしもし」


「もしもし。ルシアンさん」


エリックだ。

今更だが、私の呼び方が変わっているのに気づいた。


「依頼です」


こういうことは、当たり前だがしょっちゅうある。

一つの事件に集中したい時でも、新しく依頼が来る。


「昨日の晩、僕が勤めているR新聞社に不可解な手紙が届きました。」

「内容…は結構長いので要約すると…」


「私は罪を犯した。いくら償おうとも決して許されないほどの。

だが、これは彼の仕組んだことでもある。私は彼を許さない。

愛しい娘を死に追いやった、クソ男を」


「とまあそんな具合です」


胸の奥が微かに軋んだ。

なかなかに重っ苦しい内容だったが、それを読み上げた彼特有の声質と喋り方がそれを緩和させていた。

手紙の内容を聞いた感じ、明確に誰か一人に向けて書かれたようには見えない。

具体的に記されているわけではないが、もしかしたら…


「遺言書………?」


「よく分かりましたね。ええ、全文読みましたがこれは遺言書みたいです。」

「差出人は、かの有名な名家の当主、Irwin Gary(アーウィン,ゲイリー)だそうです。」


アーウィン家の当主が自殺…………?

あまり会ったことはないが、一応面識はあった。

厳格で頑固そうな見た目の裏腹、娘と妻を何よりも愛する父…の印象が強かった。

見る限り、自殺などには無縁な人柄の人物に思えたが、原因は娘の死亡か………

そこで違和感を覚えた。

ゲイリー当主の娘が死亡した、などという情報を、私は耳にしたことがない。

報道機関やメディアで一切取り上げられていなかった。

おそらく、ジェイスも知らない。


「妙だな」


「なぜわざわざ関係のないこのR新聞社へ届いたのか…」

「社長が少しキレてるんですよね。イメージダウンがどうのこうのって」

「とにかく、できれば早めに捜査をお願いします」


そう言い残すと、エリックは電話を切ってしまった。

今回の事件は、なかなかに不可解だ。

しかも、知り合いが亡くなったと聞いたのだから黙ってはいられない。

遺言書が新聞社に送りつけられた理由、当主が犯した罪や、それを仕組んだという「彼」の存在。

すでに気になることが多々ある。


(忙しくなりそうだ)


メモを取り考えていくたびに、違和感や謎が増えていくばかりだった。





_________________________






「はい……はい……。申し訳ありませんでした」


「だから、謝ればいいってもんじゃないんだよ。人の話聞けよ。何度ミスを繰り返すわけ?」


「…はい」


またミスをしてしまった。

数百枚の書類に印鑑を押す作業を頼まれたのだが、一枚抜けがあったらしい。

別の仕事も頼まれていたし、急いで作業していたのだ。


「…で、ですが。あんな量の書類に抜けなく印鑑押すなんて厳しいですよ」


「え、何?お前上司に意見できる立場なの?下っ端なのにさ」


この上司の高圧的な態度と理不尽さには心底うんざりさせられる。

苦手だ。こういう人は。

そして、言わなくてもいい事を口に出してしまう自分の癖もどうにかしたいと思っている。

本当のことを言ったって、彼は自分が正しいとしか思えないから。だから、一旦は指示に従うしかないのだ。


「申し訳ありません…」


「はぁ…俺ならただでさえ少ないお前の給料をもっと下げることだって出来るんだ。次はやるなよ」


舌打ちをしながら上司は去っていった。


「うわ、あいつあの上司に口答えしてたよ」

…と言わんばかりの視線をあちこちから感じる。

まあ、いつも通りではあるのだが…

まだ途中だった仕事の書類を取ろうとデスクの引き出しを開けると、写真ほどのサイズの紙切れが入っていた。


「…え?」



少し顔がいいからって、調子に乗るな。彼女を殺したクソ男。




そう書いてあった。

油性ペンで勢いよく書かれたのだろう。文字の端のインクが滲んでいる。

恐ろしかった。まるで書いた本人の妬み恨みが現れているようで。


(いや…なんで…誰がこんな)

(彼女を殺した…エディのことか?でも僕は断じて殺してなんかいない…彼女は通り魔に刺されて…)


「何見てるの?」


突然、肩を掴まれ声をかけられた。


「なんだ…驚いたよ。ルーシー?さんだっけ」


「ええ。覚えてくれてて嬉しいわ」


彼女はLucy Quietルーシー・クワイエット

明るめの茶髪をハーフアップにした、柔らかい雰囲気が特徴の女性。

面接時に隣にいた人だ。ハキハキとした声と、真っ直ぐな瞳が印象的だった。


「数少ない同僚なのに、話したことないなって。これからよろしくね。リアムくん」


「あぁ…うん。よろしく」


咄嗟に紙を折ってズボンのポケットにしまった。


「……………」


彼女は気づいていたと思う。







退勤時間になったので、僕は真っ直ぐ彼の事務所へ向かった。


言いたいことがある。


インターホンを押したが出てこない。

もう一度押して、それなりに待っても彼は出てこない。


(留守だろうか)


そう思った瞬間、扉が開いた。


「すまない。少し考え事をしていて…」


「あぁ、あなたか。」


出て来たのは、前より少しやつれた表情のルシアン探偵だった。

なんだか、彼が私を見る目が、少し違う気がする。


「ええ。先日はどうも。突然押しかけて来てすみません」


「話があるのなら、どうぞ中へ…」


「いいえ、すぐ終わりますので大丈夫です」


一息ついて、こう言った。

「私を弟子にしてください」



「……はあ?」


彼は本気で困惑したような表情だった。

僕も意味がわからなかった。


「いや、私達はまだ二度しか会ったことがないし…」

「そもそも、何故突然弟子入りなんか頼むんですか?」


「えぇ、いや、だって」

「私が弟子入りしたいから…?」


次は呆れたような表情。


「あぁー、はい、すみません弟子はちょっと」


「まあ…そりゃあダメですよね。お邪魔しました」


帰ろうとすると、彼に呼び止められた。



「言った方がいいと思ったので言いますが」

「弟子にしてくれなんて言われても、ほぼ初対面みたいな物だし、突然すぎるんだ」

「そうだな…もっとこう、自分を客観的に見てみるとか」

「自分のした発言や行動について考えてみるのがいいと思いますよ」


自分を客観的に見る、か…

考えたこともなかった。

実際、自分は自分なのだから、第三者からの視点で考える意味とは…という気持ちもある。


「なるほど………」


「お騒がせしてすみません。ではまた今度」


「ええ、また今度」




壊れかけの点滅する街頭に、ぼんやりと照らされた道を、ただまっすぐ歩く。とにかく帰りたい。

彼のいうとおり、考えてみたのだ。

もし、その言葉を僕自身が言われたらどう思うかを。

その結果、なんともまあおかしな言葉だと理解した。

尊敬している人にあんなことを言ってしまったなんてなんだか…少し面はゆい。

恥ずかしくて、慣れ親しんだ帰り道なのに、目線も上げられない。

だが、こんな僕もそんなに悪くないと思っている自分がいる。

厚手のコートを着ているにも関わらず、この季節は寒い。

帰りたくて、考えたくて。

前を向いて、ひたすらに歩いた。

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