リーダーの覚醒とパートナーの価値
シーン1:ゴブリンの襲撃と最初の反対
エルム村は、アルトの力によって、少しずつ、しかし確実に変わり始めていた。
だが、平穏な日々は、突如として破られた。
ある日の夕暮れ時、森の見張りをしていた村人から、血相を変えた報告がもたらされた。
「——ゴブリンだ! 今まで見たこともない数の、ゴブリンの大群が、村に向かってくる!」
村中がパニックに陥る中、アルトは冷静に防御陣地の構築を指示し、完璧な戦術でゴブリンの群れを撃退した。
村人たちは、誰一人大きな怪我をすることなく、この危機を乗り越えた。
ゴブリンの襲撃を退けた夜、アルトは村人たちを集め、壮大な計画を口にする。
「——この村の周りに、城壁を築こう」
その言葉に、村人たちは耳を疑った。
「無茶だ!」「資材も人手もない!」
そんな否定的な声が上がる中、一人の年老いた農夫が、厳しい声で言った。
「若いの。あんたの力がすごいのは分かってる。だがな、俺たちに必要なのは、そんな大層な壁じゃねえ。明日のパンだ! 壁を作る暇があるなら、畑を耕すのを手伝え!」
その言葉に、他の村人たちも同調し始める。
「そうだ、そうだ!」「まずは食い扶持だ!」
アルトは、初めて「反対」という壁にぶつかった。これまで、彼の力は常に感謝されてきた。しかし、今は違う。リーダーとして、人々の不安を理解し、未来を示さなければならない。
彼は、静かに前に出ると、村人たち一人一人の顔を見ながら、語り始めた。
「皆さんの言う通りです。今日の食料は、何よりも大切です。しかし、今日を生き延びても、明日、もっと大きな魔物の群れに襲われたら、私たちは全てを失うかもしれない。僕が築きたいのは、ただの壁ではありません。皆さんが、安心して畑を耕し、子供たちが笑顔で走り回り、商人が安全に商売ができる…そんな、未来を守るための盾なんです」
アルトは、スキルではなく、自分の言葉で、必死にビジョンを語った。
その真摯な瞳と、未来への強い意志に、村人たちは次第に心を動かされていく。最初に反対した老農夫が、深くため息をついた後、ぽつりと言った。
「…分かった。あんたの言う『未来』ってやつに、賭けてみるか」
その一言を皮切りに、村人たちは、アルトの計画に協力することを決意した。アルトは、この日、初めて真の『リーダー』としての一歩を踏み出した。
シーン2:未知の病と薬師の奮闘
城壁の建設が始まって数週間後、村に新たな脅威が訪れた。
作業員たちが、次々と原因不明の高熱で倒れ始めたのだ。
それは、城壁の基礎を掘った際に、地下深くから現れた未知の瘴気によるものだった。
「アルトさん、どうしよう…!」
リリアが、青い顔でアルトの元へ駆け込んでくる。
アルトも、すぐさま患者たちの元へ向かった。しかし、彼の【自動機能】は、あくまで「作業」を自動化するスキル。病気の診断や治療は、専門外だった。
「くそっ…何もできない…!」
人々の苦しむ姿を前に、アルトは初めて自分の力の限界を痛感し、無力感に苛まれた。
その時、リリアが毅然とした表情で立ち上がった。
「——私が、やるしかない」
彼女は、薬師としての全ての知識を総動員し、不眠不休で治療法の研究に没頭した。患者の症状を観察し、村の周辺の植物を片っ端から調べ、古文書を読み解く。
そして、数日後。リリアは、アイギスの土地にのみ自生する、名もなき小さな花に、瘴気を中和する効果があることを突き止めたのだ。
彼女が調合した特効薬によって、作業員たちは次々と回復していった。
村は、リリアの活躍によって、再び活気を取り戻した。
アルトは、献身的に患者を看病するリリアの姿を、ただ見守ることしかできなかった。そして、深く理解した。
自分一人では、この村は守れない。自分にはできないことを、彼女ができる。そして、彼女にできないことを、自分ができる。
「ありがとう、リリア。君がいてくれて、本当に良かった」
回復した人々から感謝され、はにかむリリアに、アルトは心からの言葉を贈った。
二人は、もはや単なる協力者ではなかった。互いの価値を認め合い、弱さを補い合う、対等な『パートナー』となったのだ。
そして、城壁の基礎工事の際、彼らは地下から奇妙なものを発見する。幾何学的な模様が刻まれた、滑らかな金属質のプレート。それは、アルトが触れると、かすかに温かく、心地よい魔力の響きを返してくるのだった。