決定的な失敗
シーン1:毒草と薬草
凋落に歯止めがかからない『竜の牙』は、失地回復のため、比較的難易度の低いBランクの依頼を受けることにした。
依頼内容は、『月の雫』と呼ばれる、治癒効果の高い希少な薬草の採取。
「Bランクの依頼なんざ、俺たちにかかれば楽勝だ」
バルトロはそう嘯いたが、彼の表情には隠しきれない焦りがあった。
彼らは目的の薬草が生えているという湿地帯にやってきた。しかし、そこには多種多様な植物が生い茂っており、どれが目的の『月の雫』なのか、素人目には全く見分けがつかなかった。
アルトがいれば、【自動機能】で一瞬にして正確な薬草だけを判別し、採取できただろう。
「確か…青い花で、葉に三つの斑点があるやつだったな」
セリーナが、うろ覚えの知識を頼りに薬草を探し始める。
「これでいいだろう」
バルトロは、それらしき植物を見つけると、面倒くさそうに根こそぎ引き抜き始めた。
彼らは気づいていなかった。
『月の雫』と酷似した外見を持つ、猛毒の植物『悪魔の涙』の存在に。
葉の斑点の数が、三つではなく四つであるという、ごく僅かな違いに、彼らは誰一人として気づかなかったのだ。
意気揚々とギルドに帰還し、採取した植物を依頼主である高名な錬金術師に渡した彼ら。
しかし、数日後、彼らはギルドマスター室に呼び出され、血相を変えたギルドマスターと、怒りに燃える依頼主の前に突き出された。
「貴様ら! 私に毒草を渡すとは、どういうつもりだ!」
錬金術師が、怒声と共に、黒く変色したポーションの瓶を机に叩きつける。
「おかげで、貴重な素材を全てダメにされた上に、危うく大事故になるところだったぞ!」
彼らが採取してきたのは、ほとんどが『悪魔の涙』だったのだ。
バルトロたちは、顔面蒼白になった。
「そ、そんなはずは…」
「言い訳は聞かん! この損害、どうしてくれるんだ!」
結局、『竜の牙』は、依頼の失敗どころか、依頼主に多額の賠償金を支払う羽目になった。
この一件は、彼らの評判を決定的に地に落とした。
「Sランクのくせに、薬草と毒草の見分けもつかない」
そんな不名誉な噂が、王都中に広まるのに、そう時間はかからなかった。
シーン2:戻れない道
「…おかしい。何かが、おかしいんだ」
ギルドの酒場で一人、酒を煽りながらバルトロは呟いた。
なぜ、こんなことになったのか。
彼の脳裏に、ふと、あの地味な青年の顔が浮かんだ。
だが、バルトロは、そのイメージを頭から追い出すように、乱暴に杯を呷った。
認めるわけにはいかなかった。自分たちが、追放した「無能」がいなければ何もできない、無様な集団だったなどと。