表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/16

全自動迎撃要塞(フルオート・フォートレス)

シーン1:古のシステムとの共鳴


アイギスの正門、その城壁の最上部に、アルトは一人立っていた。


眼下には、パニックに陥りながらも、領主である彼の姿を見つけ、祈るように見上げる民衆の顔、顔、顔。


そして前方、遥か遠くの空では、黒い絶望の象徴——エンシェントドラゴンが、その巨大な翼を広げ、着実にこちらへと迫ってきていた。その巨体から放たれるプレッシャーだけで、大気がビリビリと震えている。


アルトは静かに城壁に埋め込まれた一つの石——都市全体の魔力循環を司る、要石キーストーン——の前に立った。それは、かつて基礎工事の際に発見された、古代の金属プレートを加工したものだった。


彼はゆっくりと右手を上げ、その手のひらを要石にそっと触れる。


そして、目を閉じ、深く息を吸い込んだ。


彼のスキルが、地下深くに眠る、忘れ去られたシステムと共鳴するのを感じる。アイギスの土地は、ただの辺境ではなかった。遥か昔、高度な自動化文明が栄えた場所だったのだ。彼の【自動機能】は、その古代文明の遺産を再起動させるための、唯一の『鍵』だった。


(——【自動機能】、古代遺産制御システムに接続。最大出力にて起動)


心の中で、ただそれだけを命じる。


戦闘用の派手な詠唱も、大仰な魔法陣も存在しない。


直後。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!


街全体が、まるで巨大な生き物のように、低い唸り声を上げて振動を始めた。


石畳の隙間から、青白い魔力の光が燐光のように漏れ出し、まるで巨大な回路図のように、都市の隅々まで光のラインが走っていく。アルトが日々、コツコツと「整備」し続けていた地下魔力供給路は、古代文明のエネルギーラインをなぞるように敷設されていたのだ。システムが、数千年の眠りから覚醒した瞬間だった。


シーン2:変貌する街


変化は、まず城壁から始まった。


人々が絶対の信頼を寄せていた、あの純白で美しい城壁の表面が、まるでからくりのように音を立てて分割し、スライドしていく。そして、その内側から現れたのは——。


「なっ…なんだ、あれは!?」


無数の、黒光りする砲門だった。


大小様々な魔力砲が、城壁のあらゆる箇所からその姿を現し、まるで巨大なハリネズミのように、空を睨む。


変化はそれだけではなかった。


城壁の上部に並んでいた胸壁クレネレーションが変形し、自動で魔力の矢を装填する連弩バリスタへと姿を変える。門の上部からは、巨大なレンズのようなものがせり出し、青白い光を収束させ始めた。


「壁が…壁が、兵器に…」


人々は、あまりの光景に言葉を失う。


彼らが安全の象徴だと思っていた城壁は、アルトの手によって、初めから巨大な迎撃兵器として「設計」されていたのだ。


そして、変貌は街の中心部へと波及する。


ゴゴゴッ!と、広場や大通りの石畳が、まるで巨大な扉のように次々と開いていく。


その地下からせり上がってきたのは、人間と同じくらいの大きさの、石と魔力で構成された無機質な人影。


——自動迎撃ゴーレム。


一体、また一体と、寸分の狂いもなく同じ姿をしたゴーレムたちが地上に現れ、整然と隊列を組んでいく。その数は、瞬く間に数百、そして千を超え、都市の防衛ラインを埋め尽くした。


住民も、兵士たちも、そしてリリアも、ただ呆然と、目の前で繰り広げられる神の御業のような光景を見上げていた。


(そうか…アルトが毎日やっていた『作業』は…)


道を整備し、水路を引き、壁を補修し、広場を拡張する。


彼が日々、黙々とこなしていた全ての「雑用」が、この瞬間のための布石だったことを、彼らはようやく理解した。


この街は、ただ人が住むための場所ではなかった。


創られたその瞬間から、愛する者たちをあらゆる脅威から守り抜くための、世界で最も堅牢な——全自動迎撃要塞フルオート・フォートレスだったのだ。


ダンジョンで見た、あの古代の壁画。描かれていた光景が、今、目の前で現実となっていた。


全ての変貌が完了した時、アルトは静かに要石から手を離した。


彼の背後には、天を衝くほどの武装を施した城塞都市と、無数のゴーレム軍団が、ただ主の命令を待っている。


空を見上げる。


エンシェントドラゴンは、もう目と鼻の先まで迫っていた。


だが、アルトは恐れなかった。


彼は、これから始まる出来事を『戦闘』だとは思っていない。


これは、彼の街に侵入しようとする、最大の『害獣』を駆除するための、完璧に計算され尽くした、ただの『作業』に過ぎなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ