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とばっちり  作者: ナタデココ
7/15

修学旅行の「とばっちり」#4

高木くん目線です

食堂の窓から射し込む朝の光が、まだ眠そうなみんなの顔をゆるやかに照らしていた。

僕は、ぶかぶかの体操服の裾を気にしながら、できるだけ目立たないように入口から入った。


(誰も見てない……といいな)


そう思ったけれど、すぐにそれは打ち砕かれる。


「……えっ?」「あの子……体操服じゃない?」


「しかも「保健室」って……なに?」


──空気が、ざわついた。


背中がじんわりと熱くなる。ああ、やっぱり注目されてる。最悪だ。

僕の今の格好は、上も下もヨレた体操服。しかも背中には「保健室」の印字。

この修学旅行、荷物は届かない。今日も明日も、僕にはこれしか着るものがない。


できるだけ目立たず、そっと班の席に向かおうとする。

でも、当然、そんなの無理だった。


「おーい、高木ー!」

片岡くんの声が飛んできた。僕の名前。周りが一斉にこっちを見たのがわかった。

「それ、まじで今日それでいくん?観光?」


……うわ。もう、逃げ道ないじゃん。


「う、うん。……スーツケース、間違えて別の空港行っちゃって……」


少し笑ってごまかそうとしたけれど、声が震えていたかもしれない。


「えーまじか」「でも、それで保健室って……」「しかも上下だし」


小さな声が刺さるように耳に入ってくる。けど、何か言わなきゃと思って口を開いた。


「……でもさ、代わりに次の旅行で使える航空券のタダ券、もらえたし……。得っちゃ得かも、みたいな」


小さく笑う。

その場が、ちょっとだけ和らぐのを感じた。


「ずる!」「それラッキーじゃん」「俺もトラブル起きたいわ〜」

みんなが笑ってくれるのが、ちょっとだけ嬉しかった。


(……よかった。なんとか、変な空気にはならなかった……かな)


そう思って席に向かおうとしたとき、誰かの声が聞こえた。


「てか、もう一人いない?体操服……」


ピタッと空気が止まる。


(……え?)


みんなの視線が、すうっと後ろに流れる。


その先にいたのは――城野さんだった。


(え……なんで……?)


昨日と同じ、あの体操服姿。でも今日は上下。しかも朝イチの観光日なのに。


ざわざわと、また小さな波が広がっていく。


「え、城野さんも体操服……?」「なんで?」「え、荷物?まさか……」「お揃いなの?」


(ちょっと待って、なんで……なんで城野さんまで? まさか、ほんとに……)


僕の心の中に、「え!なんで!」という戸惑いが一気に広がる。

まるで、自分の秘密がバレたような――そんな感覚。

周囲の視線が、彼女にも集まっていた。


そして次の瞬間、軽く笑いながら、浅倉さんが言った。


「てかさ〜、城野、パジャマも体操服だったじゃん?ガチの体操服フェチなんじゃないの?笑」


また、ざわざわと笑いが広がる。


城野さんは一瞬たじろいだように見えた。けど、無理に笑って「うるさ〜い」と肩をすくめて返した。


その様子を見ながら、僕の中に、ふとひとつの可能性がよぎった。


(……まさか、俺のこと、気遣って……?)


そう思った瞬間だった。


「……たしか、昨日、城野さん言ってたよね」


静かに入ったその声。

里村さんだった。


「高木くん、ひとりで体操服だとかわいそうって」


(え……)


「だから、自分も体操服でいたら、少し安心するかもって。……優しいなって思ったよ」


(……それ、ほんとに……?)


城野さんは少し驚いた顔で、でもすぐに視線を伏せて「……まあ、そんな感じ」と小さく言った。


その顔が、少し赤くなっているように見えた。


周囲から、「いい人じゃん」「それは優しい」「え〜でも体操服は恥ずかしくない?」といった言葉が飛び交う。


(……え、マジで? 俺のために?)


胸が熱くなった。


あんなに恥ずかしかったのに。

笑われたくなかったのに。

城野さんは、自分からその格好を選んでくれたの?


本当に?


……本当に?


彼女の目を盗んで、こっそり何度か横顔を見た。

誰とも目を合わせず、ちょっとだけ俯いて、でも笑おうとしている表情。


(……もしかして……城野さん、俺のこと……)


ただの思い込みかもしれない。

でも、この朝の空気のなかで、そう思いたい気持ちが、どんどん膨らんでいった。


体操服を着てるのは、僕と城野さんだけ。

この浮いた恥ずかしさの中で――なぜか、それが少しだけ、心強く思えた。

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