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とばっちり  作者: ナタデココ
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修学旅行の「とばっちり」#3

城野さん目線です。

食堂の窓から差し込む朝の光が、まだ眠そうなみんなの顔をやわらかく照らしていた。

私は、昨日と同じ――いや、「勝負服」の体操服を着て、班の集合テーブルに向かっていた。

でも、足取りは重かった。


昨夜の出来事が、まだ頭から離れない。


部屋で着替えているとき、浅倉に言われた一言。


「え、パジャマ体操服なの!?

やば、どんだけ体操服推しなのよw」


「まあ、楽だし……」と返したものの、その瞬間、みんなにクスクスと笑われた。

浅倉は笑いながら「ウケるんだけど」と肩をすくめ、冗談っぽく私の肩を軽く叩いた。


その場では笑って流したけれど、布団に入ってから、ずっと体が熱かった。

笑い声が何度もリフレインして、寝返りばかり打った。


(……私、何やってるんだろう)


自分で決めたことなのに、やっぱり恥ずかしい。

それでも、ほんの少しだけ期待してしまう自分もいる。


(山中っちが……

この姿を見て、何か感じてくれたら――)


そんな期待と羞恥を抱えながら、私は食堂の扉を開けた。


けれど、その朝の注目をさらったのは


――私じゃなかった。


騒ぎは、ある男の子の登場から始まった。


「えっ、うそ、あの子、体操服じゃん……」

「てか「保健室」って書いてない?」

「マジで今日それで観光? 罰ゲーム?」


ざわつきの中心にいたのは、高木颯太くん。


上下体操服


――しかも「保健室」の印字入り。


ぶかぶかで、ヨレヨレの体操服を着て、うつむきながらトレイを持って歩いてくる。遅れたせいでみんなからの注目の的になってしまった。誰とも目を合わせようとせず、目立たないようにしているのが見え見えだった。でも、それが逆に高木くんを目立たせていた。


(まずい…なんで高木くんも体操服なの…)


高木くんが体操服なのは完全に想定外だった。


自分と同じような格好の人がいるという安堵。同時に「自分まで余計に浮いてしまう」ような不安。そして男の子と「お揃い」になってしまったという状況。

なんとも言えない、複雑な感情が胸をかき乱した。


やがて、これまた遅れてきた片岡くんが、体操服姿の高木くんをみて、みんなに聞こえるように声をかけた。


「おーい、高木ー!

それ、マジで今日ずっとその格好なん?」


高木くんはビクッと肩を揺らしながら、小さくうなずいた。


「……うん。スーツケース、来なかったんだ。間違えて……」


「えっ? えー、ガチ?」「うわ、きつ」「でも、それで保健室の服か〜」


周囲の注目が一気に集まる。


でも高木くんは、それに応えるように無理に笑ってこう言った。


「……でもね、次の旅行で使える航空券タダ券、もらえたから……まあ、得したと思ってる」


強がるようなその言葉に、ちょっとだけ笑いが起きる。


「え、ずるいじゃん」「それ欲しい〜」「でも観光でそれはキツいわ〜」


高木くんが席につくと、私は片岡くんと目があった。


「てかさ……城野も体操服なん!?」


その言葉に、数人の視線が一斉に私へ向く。


(――来た)


「……あれ? 城野さんも体操服じゃん」

「え、今日観光なのに……なんで?城野さんも荷物トラブル?」

「え〜、もしかしてお揃い? なんで〜?」


声とざわつきが広がる。周囲の耳も目も、こちらに向かっていた。正直このくだりは想定していた。本当なら「事情があってね」と深刻そうな顔をして敢えて事情を言わず切り抜けるつもりだった。


でも、今回は本当に事情がある高木くんがいる。

下手な嘘がつけない。


(やばい……やばい……やばい……)


「いや、あの、それは……」


言葉に詰まっていたそのとき、浅倉が不意に言った。


「てかパジャマも体操服だったし、もしかしてガチの体操服マニアなの!?」


クスクスと周囲の笑いが起こる。


「そんなことないよ〜うるさいな〜」

と冗談ぽく笑って返すのが精一杯だった。


(ちがうのに……。山中っちのためなのに。言えないよ、そんなの)


すると、、、

静かに、

でもはっきりと

――里村さんの声が入ってきた。


「……たしか、昨日、城野さん言ってたよね。高木くん、ひとりで浮いたら可哀想って」


その声に、周囲がふっと静まり返る。


「同じ班の子が、もし体操服だったら、ちょっと安心するかもって……」


私は驚いて、里村さんの顔を見た。


(言ってない……そんなこと、私、言ってないよ)

(里村さん何言ってるの…??)


でも、彼女は、やわらかく微笑んでいた。


「私には無理だけど……優しいなって思った」


その言葉に「あ〜なるほどね」「優しいね!」という声と「高木くんのために着ているんだ」という雰囲気が広がっていく。


私は、視線を伏せながらうなずいた。


「……うん。まあ……そんな感じ」


何も言えない。

でも、恥ずかしさと安堵と、少しだけ誤解されている感覚が混ざって、胸が締めつけられる。


(……ほんとうは、山中っちのためなんだよ)

(これじゃあ…私が高木くんのことが好きだと思われちゃう)

(助かった……けど…里村さんはなんであんな嘘をついたんだろう)


誰にも言えないまま、席につく。


ふと顔を上げると、斜め前に座っていた高木くんと目が合った。高木くんの頬は、ほんのり赤くなっていた。。。。

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