修学旅行の「とばっちり」#11
城野目線です。
夕食が終わって、部屋に戻る途中の廊下。
旅館の薄暗い廊下に、足音だけが響いていた。
「城野さん……!」
後ろから、少し息を切らせた声が届いた。
振り返ると、高木くんが私と同じ体操服のままで立っていた。
「ちょっと……話したいことがあって」
「……うん」
人気のない端の窓辺に移動して、私たちは向かい合った。
高木くんは、しばらく何も言わなかった。
でも、その沈黙の中に、何かを抱えているのがわかった。
「実はね……」
彼が静かに切り出す。
「スーツケース、もう届いてたんだ。……昼過ぎには」
「……え?」
「でも、着替えなかった。君と、同じでいたかったから」
頭の中が、真っ白になった。
「それって……ずっと……?」
「うん。君が僕のために体操服でいてくれたって、そう聞いて……本当かどうかはわからなかったけど、それでも、うれしかったんだ」
高木くんはまっすぐ私を見て、続けた。
「城野さんのことが、好きだよ」
私は息を飲んだ。
だけど、心の奥にある答えは、もう決まっていた。
私は山中っちに振り向いてもらうために体操服を着ているんだ。
「……ごめん。そういう気持ちには、なれない」
高木くんは、少しだけうなずいた。でも、それ以上なにも言わなかった。でも、私は、その沈黙の中で、急に気づいてしまった。
(……明日、私だけが体操服なんじゃない?)
高木くんは、私のために体操服を着ていてくれた。でもその理由は、もう今ここで終わってしまった。明日からは、高木くんはきっと私服に戻る。
(……私だけ、体操服?)
あの笑い声。今日の視線。
あれが、また明日も――私ひとりに降ってくる。
(……やだ)
急に、足がすくんだ。
覚悟できてたはずだったのに。
山中っちはもはや私のことを見ていない。
もしかして…私はただ1人辱めを受けるだけ?
それはいや…いや…
高木くんが何か言おうとしたけど、私はそれを聞く余裕すらなくて、「……じゃあね」とだけ言って、早足でその場を離れた。
自分の足音だけが、長い廊下に響いていた。




