修学旅行の「とばっちり」#9
里村さんの目線です。
──よし。
誰にも聞こえない声で、私は心の中でつぶやいた。
もちろん、表情は変えない。口角はほんの少しだけ上げて、優しいまま。
いつも通りの「いい子」の顔のまま、隣でうつむく城野さんを横目で見つめていた。
ちょっとやりすぎたかもしれない。
でも、まあ、いいでしょ。あれぐらい。
……私だって、ずっと見てきたんだよ?
あの子が、どれだけ山中くんに近づこうとしてたか。
わざとらしく笑って、声のトーン変えて、他の男子と話す時とは全然違う顔で。
ほんとに「努力」だったのかな?
それとも、ただ、誰かの注目を欲しがってただけ?
どっちにしても、滑稽だよね。
体操服なんていう「武器」まで使っておいて、
山中くんを誘惑しようとしてたんだ。
結局こんなふうに破廉恥な姿になって。
あの子は体操服しか持ってきてないんだ!
と気づいたのは昨日の夜だった。
あの子がお風呂に行っている際、メイク落としを借りようと、こっそりスーツケースを覗いたら、その中には体操服しか入っていなかった。
最初はなんのため?と思ったけど、自分の体を使って山中くんを落とすためだと気づいた。
それは阻止しないと。
幸い高木くんも体操服しかなく「お揃い」という状況に持っていけた。
それにしても、、、
高木くん……素直だなあ。
あんなふうにハンカチ出しちゃって。
無言で、しかも真正面からって……
そりゃ、見てる人はみんな誤解するよ。
でも、そういう「誤解」をちゃんと利用しなきゃ、ね。
私は何もしてない。ただ、ちょっと言葉を添えただけ。
「似合ってるよ」って。
「無理しないでね」って。
全部、優しさとして成立するセリフだ。
だから誰も責めない。
それどころか、きっと明日になれば、「里村さんっていい人だよね」って、誰かが言い出す。
──それでいい。
私が欲しいのは、そういう立ち位置。
誰のことも直接否定せずに、
誰かの背中を「そっと」押して、「そっと」遠ざけて、誰にも気づかれずに、自分の場所を確保する。
それが、私のやり方。
だって、真正面からぶつかって、勝てる気しないもん。
葛城さんみたいな子にさ。
ああいう、自然に笑って、周りを惹きつけられるタイプには、どう頑張っても敵わない。
でも――
そうじゃない戦い方なら、私はきっと勝てる。
……今、山中くんが葛城さんの方を見てる。
うん、悪くない流れ。
高木くんが、城野さんに向ける感情も、
たぶんこのままいけば、いい意味で暴走してくれる。
そうなれば、私は、何もしなくていい。
ただ、見ているだけで、全部が思い通りに流れていく。
あとは、そうね──
「もう一押し」かな。
次は、もっと深いところまで、
城野さんの「無理」が剥がれていくのを、
静かに、じっくり、見届けてあげる。
……私、優しいから。




