修学旅行の「とばっちり」#8
高木目線です
清水寺への石段を登るたびに、汗がじわじわと首筋を流れていった。
(……やっぱり、目立つよな)
短い体操服の袖から出た腕に、強い陽射しが刺さる。風が吹くたびに、シャツの裾がふわっと揺れて、「保健室」の文字がちらりと見えるのが、なんとも恥ずかしい。
隣には、城野さんがいる。やっぱり今日も体操服だった。朝、あんなふうにみんなの前で「高木くんが可哀想だから合わせてあげたんだよね?」なんて言われて、それがすごく恥ずかしかったけど、でも、正直……ちょっと嬉しかった。
(だって、もしかしたら……)
いや、そんなことないってわかってる。
でも、同じ服ってだけで、少しだけ「仲間」になれた気がした。観光客の中を、半袖・ハーフパンツ姿で歩くのは、やっぱり浮いていた。まわりの大人たちが、チラチラとこっちを見るのがわかる。
「修学旅行の子たちかしら」
「体操服で観光?ちょっと珍しいねぇ」
そんな声が耳に入るたびに、背中がむずむずして、頭を低くしたくなった。
でも――
(僕だけじゃないから)
城野さんも、同じ格好で、同じように注目されてる。
彼女の肩越しに見える首すじは、ほんのり赤くなっていて、きっと緊張と恥ずかしさで火照っているんだろうなって思った。顔は横向きだったけど、俯き気味なのが見て取れた。
(ごめん……僕のせいで……)
朝、里村さんが言ってた。「高木くんが可哀想だから」って。
それって、つまり……そういうことなんだよな。
僕が体操服だから、城野さんも合わせてきた。
でも、そのせいで、城野さんまで恥ずかしい思いをしてる。
多分僕は城野さんことが好きだ。
きっと、そんなことは城野さんには言えないし、言ったら気持ち悪がられるのもわかってる。でも、そうしたかった。
(もしかして、僕と……おそろいが……いや、そんなわけない)
勝手に期待して、勝手に沈んで、心がふわふわして落ち着かない。城野さんはずっと黙っていて、視線を前に向けたままだ。何か話しかけたくても、言葉が出てこない。
だから、つい――
「……服装、同じで……ちょっと嬉しいなって」
言ってしまった。
言った瞬間、自分の声が震えてるのがわかった。
城野さんは何も言わず、ただ前を向いたままだった。
(……やっぱり、言うんじゃなかった)
恥ずかしくて、顔が熱くなる。
心臓が変なリズムで鳴って、体操服の中で汗がべたべたと張りついた。
そのとき、前のほうで山中くんの声が響いた。
「葛城、あの石、やってみよーぜ。俺、目つぶるから」
葛城さんが笑って「えー、こわいってー」と言いながらも、嬉しそうにその場に立っていた。
(……あの2人って、ほんと、合ってるよな)
気づけば、周りの空気も、そっちに引っ張られてた。
片岡くんが「写真撮ろうぜー!」と声をかけ、富田さんがスマホを構えたりしていた。城野さんがそっちから少し距離を取るように早歩きになる。僕はその背中を、ただ黙って追いかけた。
(僕は……どうすればいいんだろう)
ほんの少しだけでいい。
彼女のとなりで、浮かずにいたかった。
それだけだったのに。
それすら、なんだかすごく難しい気がしてきた。
バスの中。
席に戻ったとき、まだ手のひらがじっとり汗ばんでいた。窓の外の景色が流れていくのを、ただぼんやりと眺める。
ふと携帯を見ると航空会社からのメールが届いていた。
【お客様のお荷物をお宿まで届けました】
やっと僕のスーツケース、私服が届いたらしい。
(……着替えたほうがいいのかな)
でも、それをしたら、もう城野さんと並べなくなる気がして。あの「おそろい」が終わってしまう気がして。
(僕……何してるんだろ)
そんな思いが、体操服の襟元にまとわりついて、離れてくれなかった。




