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第8話 人狼と魔眼④ 変身!クラスメイトを救え

前回に引き続き、性的・暴力的な描写があります。

苦手な方はご注意ください。

 詳しい状況はわからない。

 ただ、男たちが女の子に何か酷いことをしようとしている。

 それだけわかればじゅうぶんだった。


「許さない!」


 カリナは、部屋の入り口近くに転がっていた金属バットを拾い上げた。


「やあっ!」


 振り回したバットが、壁や床に当たってガンガンと音を立て、火花を散らす。

 男たちは距離を取ろうとするが、狭い室内では満足な回避は難しい。


「江蛭さん! 助けて!」


 バットがかすって、情けない声を上げる手下に、江蛭は舌打ちして――


「チッ、しょーがねーな」


 江蛭は前に出た。


「はっ!」


 その胴体めがけて、カリナはバットを斜めに振り下ろす。

 が、江蛭は身体をひねってそれをギリギリでかわした。


「素人が! そんな攻撃が当たるかよ! ちゃんと相手の目を見て動きを読まねーとな!」


 それは次回半分本当だが、挑発だった。

 喧嘩素人のカリナは、攻撃が当たらない焦りと、怒りで冷静さを欠いていた。


「だ、め……目……見ちゃ……!」


 紗夜はなんとか声を振り絞って警告を発したが、時すでに遅し。

 カリナは、江蛭の目を睨みつけてしまっていた。


 江蛭の妖しく光る瞳が、カリナの視線を捕らえる。

 とたんに、カリナの体から自由が奪われた。


(え、何これ……?)


「よーし、おとなしくしてろよ」


 動きを止めたカリナに、江蛭が近づいてきた。

 そしてカリナが持つバットを握って引っ張ると、カリナの手はあっさりと開いてそれを手放してしまった。


「ふう、驚かせやがって」


 江蛭はバットを床に放り投げて笑う。


「だが、飛んで火に入る夏の虫ってやつだ。こっちの女も上玉じゃねーか。おっぱいもでけーしな!」


 江蛭の手が、カリナの胸に伸びてくる。


「たっぷりかわいがってやるぜ」


(や、やだ! こんなやつに! 動いてよあたしの体!)


 カリナは悔しくて目をギュッとつぶろうとしたが、それさえも自由にならない。

 情けなさと悔しさで、涙が滲みそうになる。


 と、その時――


「汚い手で触るな」


 声とともに、黒い風が吹いたように見えた。


「うがっ!」


 江蛭の身体が吹っ飛んで、後ろで見ていた手下たちにぶつかった。

 カリナが開けた扉から入って来た黒い影が、江蛭を突き飛ばしたのだ。


(忍者マン!)


 カリナは叫びたかったが、声が出なかった。

 そう。現れたのは忍者マンこと、山田錬示である。


「天道、気を練って全身に行き渡らせろ。今のお前なら自力で解けるはずだ」


 言われて、カリナは訓練を思い出して丹田に意識を集中させる。

 すると体の中から膨らんだ気が、体を包みこんで束縛していた風船を割ったような感覚がした。


「ホントだ! ありがとう忍者マン!」


 動けるようになったカリナは、手足を動かして確認する。


「だ、誰だテメー!」


 江蛭は手下たちに支えられて立ち上がり、突然現れた黒ずくめの男に問うた。


「名乗る名は、無い」


 決め台詞のような挑発。


「ふざけやがって! お前ら、かかれ!」


 激怒した江蛭の号令で、三人の手下たちが一斉に錬示に襲いかかる。

 しかしこんな雑魚など錬示の敵ではない。

 狭い部室の中でも、最小限の動きで的確にカウンターを当てていく錬示。

 手下の三人は、あっという間に床に這いつくばった。


「おい、こっちを見ろ!」


 焦った江蛭が魔眼を使おうとするが、錬示はもちろん視線など向けない。


「その手はもう通用しないと思いますよ、江蛭先輩」


 歯噛みする江蛭に声をかけたのは、開いた扉から入ってきたもう一人の男子生徒。


「テメーは、信ノ森!」


 そこにいたのは、学園最強の式鬼使いと噂される生徒会長。

 江蛭はさすがに形勢不利を悟った。


「くっ、しょーがねー!」


 いまだ動けずにいる紗夜を、掴んで引き寄せる。


「月城さん!」


 カリナは心配して声を上げるが、信ノ森は慌てなかった。


「人質ですか? 無駄だと思いますよ」


「いや、違うぜ」


 余裕たっぷりの信ノ森に対し、江蛭は不敵に笑った。


「こうだ!」


 ポケットから取り出した一枚のカードを、紗夜の下腹部に押し当てる。


「外から気を流し込んでやりゃー、無能力のゴミでもこのとおりよ!」


「あ……あ、が……!」

(く、苦しい……! 何が起こってるの? カラダが……)


 紗夜の思考が朦朧としていき、そして、その身体が変化しはじめた。

 全身の白い肌からみるみるうちに黒々とした獣毛が生えてゆき、骨格がバキバキと音を立てながら変形してゆく。

 それにつれて体格も大きくなってゆき、身につけていたブラジャーやスカートのホックを弾き飛ばした。

 美しかった少女の顔は、あっという間に恐るべき獣のそれへと変わってしまった。


 人狼だ。


「う、嘘……月城さん!」


「ギャハハ、おいバケモノ! そいつらを片付けろ! あばよ!」


 江蛭は部屋の奥の窓を開けると、そこから外へ飛び出して行った。


「ふざけんな! 月城さんはバケモノなんかじゃない!」


「落ち着け、天道!」


 錬示がカリナを制して――


「信ノ森、あんたはヤツを追ってくれ。ここは俺と天道でなんとかする」


「了解した。よろしく頼むよ」


 信ノ森は頷いて、入ってきた扉から外へと駆け出して行った。


「ガアアアア――!」


 人狼が吠えた。まるで理性をなくした獣のようだ。


 錬示は特殊警棒を両手に持ち、ジャキッと伸ばして、構えた。


「あれ、月城さんなんだよ。なんとか傷つけないであげて……!」


 急転する事態にカリナはやや混乱しながらも、助けるべきクラスメイトの身を案じていた。


「わかっている。俺が時間を稼ぐから、お前の浄化の光を浴びせろ。それでもとに戻るはずだ」


「で、でも、まだ上手くできない……!」


 先日、夜の廊下で遭遇した人狼相手に失敗したばかりだ。


「……お前らしくもないな」


 珍しく弱気なカリナに、錬示の叱咤が飛ぶ。


「心を研ぎ澄ませろ。強く願え。お前ならできる」


「あたしなら……できる? ホントに?」


「ああ、できる!」


 根拠などないが、忍者マンこと錬示は言い切った。


「……わかった! 集中するから、そのあいだ、お願いね!」


「承知!」


 決意を固めたカリナを背にして、錬示も目の前の人狼に集中する。


 紗夜が変化した人狼は、両手をついて四足歩行の獣の姿勢で唸り声を上げる。

 全身が黒い毛で覆われているが、頭に一部、青い毛が混じっている。それがたしかに月城紗夜であることを示しているかのようだ。

 怒りとも悲鳴ともつかないその声に部屋の中の空気が震えるが、錬示は両手の警棒を構えたまま動かない。


「ガアアア――!」


 威嚇は無駄と悟ったか、人狼はついに錬示に襲いかかった。

 太い後ろ足で床を蹴り、その巨体で覆いかぶさるように跳躍する。


 ガギンッ!


 錬示はその突進を二本の特殊警棒で受け止め、弾き返した。

 さらに人狼の牙と爪による猛攻を、冷静に弾き、受け流す。


 その後ろで、カリナは目を閉じて精神を集中させていた。


(研ぎ澄ます――)


 カリナは生まれ育った神社を思い出していた。その神事に巫女として参加した時のことを。

 父が奏上(そうじょう)する祝詞(のりと)の声とともに、心が澄んでゆく感覚。


(はら)(たま)え、清め給え――」


 小さく唱え、カッと目を見開く。


「はっ!」


 裂帛(れっぱく)の気合とともに、紗夜の人狼に向けて両手を前に突き出した。


 両手のひらがうっすらと光りはじめる。


(神様、どうか力を貸して! 月城さんを、助けて!)


 その願いが通じたのか、光は閃光となってほとばしった。


 屋上でずっと練習してた、手のひらから前方へと向けた光の照射。全身から全方向に照らすのではなく、方向を絞ることで、気の消費を抑える方法だ。

 だがカリナは今、消費がどうとか考えずに、全身全霊の祈りを込めて光を放った。


 眩しくも温かい光が、黒い人狼を包み込む。

 錬示は、部屋全体が清浄な空気で満たされるような感覚をおぼえた。

 人狼の黒い獣毛が消え去り、骨格も元の形に戻ってゆく。

 光の奔流が収まった時、そこに立っていたのは確かにもとどおりの少女、月城紗夜だった。


「月城さん!」


 意識朦朧として倒れそうになる紗夜を、カリナは錬示を追い越して駆け寄り、抱きしめた。


「大丈夫!? どっか痛くない? 怖かったよね、よく頑張ったね……!」


 カリナのほうが泣きそうになっている。


「あれ、私……? そっか……」


 意識がだんだんはっきりしてきた紗夜は、カリナの体を優しく抱き返した。


「ありがとう、大丈夫だよ。アンタ、思ってたよりいいヤツだね……」


「よかった、月城さん……」


「紗夜でいいよ」


「サヤ――! あたしも、カリナって呼んで……!」


 安心して緊張の糸が切れたのが、カリナはついにわんわんと声を上げて泣き出した。

 紗夜は苦笑して、その頭をポンポンと撫でる。


 錬示は黒いパーカーを脱いで、紗夜の背中に羽織らせた。

 紗夜は下着まで破れて、ほとんど裸のような状態だった。


「アンタも、ありがとね」


「……べつに、いい」


 礼を言われた錬示はくるりと背を向けて、出入口のほうに歩いて行った。

 ちょうどその時。


「おや、こっちももう終わってたか」


 開いたドアから、信ノ森が戻って来た。

 その手には「支配の魔眼」のカードを持っている。


「二人とも、さすがだね。もう少し早く来ていれば、いい場面が見られたのかな?」


「見るな」


 錬示は、信ノ森の視線から紗夜を隠すように立ちふさがった。


「そのカードを持ってるということは、あいつは倒したのか?」


 錬示の問いかけに、信ノ森は意味ありげに笑って――


「まあ、それについては後でゆっくり話そう」


 その後、駆けつけた黒岩や篁ら教職員によって紗夜は保護され、江蛭一味には厳しい処分が下されることになったのだった。


お読みいただきありがとうございます。

次回もお楽しみに!

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