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第7話 人狼と魔眼③ 悪辣!妖しく光る支配の魔眼

今回、性的・暴力的な描写があります。

苦手な方はご注意ください。

 突然現れた虎から逃げ出した人狼は、できるだけ遠くまで行こうとするかのように校舎を飛び出し、校庭を横切って走っていた。


 その方向には運動部が使う部室棟がある。

 すでに部活動の終了時刻は過ぎているのだが、窓から明かりの漏れている部屋がいくつかあった。


 そのうちの一つの部屋の外にいた一人の男子生徒が、走って来る人狼の姿を見つけた。

 彼が扉を開けて中に知らせると、中から三人の男子が出てきた。そして人狼の姿を確認すると、全員でそちらに向かって走り出した。

 合わせて四人組の男子生徒、それぞれ手には木刀や金属バットを持っている。


 両者は校庭の片隅で鉢合わせた。


 武装した四人に、人狼は立ち止まって警戒する。

 四人は横に広がって、人狼を取り囲むように動きながら――


「おい、犬っころ。こっちを見ろ」


 リーダー格の男が、そう声をかけた。

 反射的に人狼がそちらを見る。


 その時、男の目が妖しく光った。


「動くな。何をされても抵抗するなよ」


 男はニヤニヤ笑いながら命令する。


「わかったら、ワンと鳴け」


「ワン!」


 人狼が犬のような声を上げたのを聞いて、四人組は爆笑した。


「よーし、お前ら。相手はバケモノだ。ちょっとやそっとじゃ死なねえから、思いっきりやっちまいな」


 リーダーの男――三年生の江蛭(えびる)は笑いながら手下たちに命じた。

 三人の手下たちは手にした武器で次々に人狼に殴りかかった。


 人狼は何の抵抗もしなかった。

 体が石像にでもなったかのように、じっとして殴られ続けた。

 ただ殴られるたびに、キャンキャンと悲痛な声を上げるだけ。


 やがて人狼は地面に倒れ伏した。

 するとその姿が変化していく。

 それはボロボロに破れた制服に身を包んだ、一人の男子生徒だった。


 江蛭は倒れた男子のそばにしゃがみ込んで、破れた制服のポケットを探った。


「お、やっぱり持ってやがった」


 それは例の7枚のカードのうちの一つ、「人狼」のカードだった。


 その時――


「おいテメーら、何やってんだ!」


 部活棟の方から声がした。

 四人組がいたのとは別の部屋から、誰かが出てきてこちらを見ている。


「あの声は……」

「やべえ、荒木場だ!」

「どうしましょう、江蛭さん」


「ちっ、本物とやるのは面倒だ。ずらかるぞ」


 荒木場(あらきば)(がい)

 2年生にして学園最凶の不良として恐れられるその生徒は、服装からして他の生徒達とはまったく違う。

 鬼道学園の制服はブレザーなのだが、荒木場は短ランにボンタン、さらにはリーゼントで固めたヘアスタイルという、完全な昭和ヤンキースタイルだ。

 これを学園側が容認しているのには異能に関する事情があるのだが、それを知らない一般生徒からは、意味のわからない恐るべき存在として距離を置かれていた。


「ちっ、ひでえ怪我じゃねえか」


 荒木場が倒れている男子生徒のもとに到着した時には、すでに江蛭一味は逃げ去っていた。

 追跡はできないこともなかったが、彼はそれよりも怪我人の保護を選んだ。


「しっかりしろ。病院に連れてってやる」


 * * *


 翌日の放課後。

 昇降口前のベンチ。部活帰りの生徒たちが行き交う中、カリナは友達と談笑していた。


「ねえ、今日も天文部ー?」


 ミヤコがいたずらっぽく尋ねてくる。


「うん、まあね」


 カリナはカバンのストラップをくるくる指で回しながら、曖昧に笑った。


「天文部って、そんな毎日活動あるっけ?」


 アキがペットボトルをあけつつ眉をひそめる。


「っていうか、そもそも星とか見てないし。ほとんど部長のトークタイムだし……」


 思い出して、カリナはぐったりと肩を落とす。


「部長ってあのー、生徒会長の信ノ森さんー?」


「そうそう。話が、長いのよ。マジで」


「えー、でもあの人、けっこうイケてないー? 成績トップで運動もできてー、顔もわりと良くてー、そんで家は東京のお金持ちらしいよー?」


 ミヤコがにやにやしながら覗き込む。


「うーん……ぜんぜんピンとこないなー。てか、あの人、東京から来てんの?」


 鬼道衆の末裔というので、すっかり地元の人だと思っていた。


「らしいよー。この学園、けっこう遠くから来てる生徒いるんだよねー。うちのクラスにも何人かいてー、ほら、えーっと、こないだバケツひっくり返したー……」


「山田くん?」


「そうそう、山田くんー。あの子ー、京都から来てるんだってー」


「京都? てことは、関西人かよ。ぽくねーな!」


 アキが乱暴な感想を述べると、ミヤコが頷いた。


「全然喋んないもんねー。関西人ってー、どこでも関西弁で大声でにぎやかなイメージだもんねー」


「それ大阪じゃない? 京都はもっとこう、おいでやすぅ〜、みたいな?」


 カリナの関西に対するイメージも、わりと雑である。


「そもそもアタシ、山田の声、こないだ初めて聞いたかも」


「それはさすがに言い過ぎじゃない? 入学式のあと、クラス全員で自己紹介したじゃん」


「じゃあカリナは、そのとき山田がなんて言ったか、覚えてるか?」


「う。うーん、それは……」


 覚えていなかった。

 錬示の潜伏技術のたまものではあるのだが。


「ところで話戻すけどー、天文部って実際、何やってんのー?」


「何って、それは……」


 カリナは少し困る。

 異能については無関係の生徒に話してはいけないと、信ノ森や教師たちからきつく言われているのだ。

 たとえ友達であっても、いや友達だからこそ、無関係の一般人を安易に巻き込んではいけないのだという。


「主に、カイチョーのウンチク話を延々聞かされてる感じかなー」


 カリナは、信ノ森の評判に犠牲になってもらうことにした。

 あのドヤ顔を思い出すと、そのぐらい言ってもバチは当たらないような気もする。


 * * *


 その後、友人と別れたカリナは一人、屋上で日没を待っていた。

 そこからなんとなく校庭を眺めていると、ふと、気になる一団が目に止まった。


 四人の男子生徒と、一人の女子生徒。

 男子が女子を取り囲んで、部室棟の方へ歩いている。

 それはまるで、捕まえた女子を逃さないように連行しているような――


 カリナは嫌な予感がして、屋上にある天文部の備品テントから望遠鏡を取り出して、覗き込んだ。


「月城さん!?」


 顔は角度が悪くてよく見えなかったが、ブルーのインナーカラーが入った黒髪ボブには見覚えがあった。

 クラスメイトの月城紗夜だ。

 彼女は両脇をガラの悪そうな男たちに抱えられて、無理やり歩かされているように見えた。


 紗夜とはべつに、友達というわけではない。

 でも、放っておくことはできなかった。


 カリナは急いで望遠鏡を置くと、屋上からの階段を駆け下りていった。


 * * *


 それより数分前のこと。

 夕闇迫る中、紗夜は校門へと向かう通路を歩いていた。

 この日は駅前のダンス教室に行く日ではなかったので、校内でゆっくりしていたら思いのほか遅くなってしまったのだった。


 向こう側から、上級生らしき男子生徒たちが四人、下品な笑い声を上げて喋りながら、こちらへ歩いて来るのが見えた。


(うわー、関わりたくないタイプの連中だな……)


 紗夜は立ち止まって目を伏せ、通路の端へと避けてやり過ごそうとした。


 しかし男たちは通路いっぱいに横一列に広がったまま進んで来て、結果、端の男の肩が紗夜にぶつかった。


「おうおう、どこに目ぇつけてんだコラ」

「先輩が通ってんだ、つっ立ってねぇで道あけろや」


 男たちは紗夜に絡んできた。


(最悪……)


 しかしここで口ごたえしてもますます彼らをヒートアップさせるだけだ。紗夜は怒りを抑えて、目を伏せたまま――


「ごめんなさい」


「謝る時は、目を見て謝れや」


 リーダー格の男が手を伸ばして、紗夜の顎をぐいっと掴んで無理やり顔を上げさせた。

 紗夜の目と、男の目が合う。


 男の目が、妖しく光った。


「あ……あ……」


(体が、動かない!? 声も……)


「おっ、よく見たらカワイイ顔してるじゃねーか」


 男――江蛭はニヤニヤと笑いながら紗夜の顔を覗き込む。


「まだ日が沈みきってねーから、ちょっと効きが浅いか?」


(なんで? 私の体、どうしちゃったの!?)


 体が動かず、混乱する紗夜を男たちは取り囲んで、両脇を抱えて移動し始めた。


「これからたっぷり、仲直りしようぜぇ」


 そうしてまた、下品な笑い声を上げるのだった。


 * * *


 部室棟には、いくつか空き部屋がある。

 江蛭たちはそのうちの一つを占拠して溜まり場としていた。


「だいぶ魔素も濃くなってきたな」


 太陽はもうほとんど沈みかけていた。

 もともと異能の使い手である江蛭は、そのあたりの理屈をすでに知っている。


 大枚二万円をはたいて、彼が裏サイトのオークションで落札したのは〝支配の魔眼〟というカードだった。

 目を合わせた相手の肉体を支配し、自在に操ることができるという強力なカードだ。

 ただのおもちゃのカードだったらどうしようかと思ったが――


(大当たりだ。俺は賭けに勝ったんだ!)


 江蛭は有頂天だった。


「鬼道も使えない無能力のクズ女が、チョーシ乗ってんじゃねーぞ」


 まずは一発、紗夜の頬を平手で叩いた。

 叩かれた勢いで、紗夜は床に崩れ落ちた。


「誰が座っていいっつった。立て!」


(え、嘘……! 体が勝手に……!?)


 紗夜の意思に関係なく、紗夜の体は立ち上がる。


「まずは謝ってもらおうか。ゴミのくせに生意気に生きててごめんなさいってな。土下座で……いや、全裸土下座だ!」


 ギャハハハと下品な笑い。

 手下の三人も大いに沸き立った。


「服を脱げ!」


 江蛭の瞳がまた妖しく光る。


(や、やだ! 止まってよ、なんでよ、私の体!)


 悔しさと恥辱に涙が滲む。

 しかし体はゆっくりと制服の上着を脱ぎ、シャツのボタンに手をかける。


「脱ーげ! 脱ーげ!」


 男たちが囃し立てる。


「カワイイのに、おっぱいは小せえなあ!」

「謝罪文に追加だ! おっぱいが小さくてごめんなさいってな!」

「ギャハハハ!」


 屈辱的な言葉を浴びせかけられながら、紗夜はついにシャツを脱いでしまった。


(悔しい……こんな奴らの言いなりになるなんて! でも、体が……なんでよ!?)


 江蛭に操られた紗夜の手が、スカートにかかろうとする。

 その時――


 バァン!と音を立てて部屋の扉が開かれた。


 息を切らせて飛び込んできたのは、金髪の女子。


「何やってんのよ、あんたら!」


 中の状況、そして紗夜の頬に伝う涙を見たカリナは、怒りに身を震わせた。


お読みいただきありがとうございます。

次回もお楽しみに!

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