エピローグ/次回予告
Vパワーテック社、鬼道研究所。
応接室に、向かい合って座る二人。
一人は同社技術統括本部長、蜂巣クレア。
「レポート、読ませてもらいました。率直に言って、素晴らしかったわ。はじめからあの先生じゃなくて、あなたを頼るべきだったかしら」
「ありがとうございます。でも責任ある企業としては、いきなり未成年を巻き込むのも憚られるでしょう」
にこやかに微笑むもう一人。
鬼道学園生徒会長、信ノ森正一郎である。
「それもあるけど、正直言って、私たちはあなたの実力を過小評価していたわ。家の名前を笠に着たボンボンだと思ってたもの。でも、あなたはそれをひっくり返した。素晴らしいわ」
「褒めすぎですよ」
「私は気に入ったものはいくらでも褒めるわ。あなた、大学を出たらうちにいらっしゃいな。幹部候補生として、いろいろ教えてあげる」
「ありがとうございます。将来の選択肢の一つとして検討します」
しばらくそんなやりとりをしたあと――
「さて、今回のお礼をしたいのだけど。何かご希望は?」
クレアはストッキングに包まれた脚を組み直して、尋ねた。
「では、二つばかり」
信ノ森は笑顔を崩さないまま、答えた。
「一つは、今回のカードをはじめとする御社の技術を、僕個人に提供していただきたいのです。もちろん、そちらの研究にも可能な限り協力しますので」
「すでにあなたの実力は国内最強クラスでしょ。そんなに力を求めて、国家とでも戦うつもり? うちとしては、テロリストに技術提供はできないのよ」
冗談とも本気とも取れない調子でクレアが言う。
それに対して、信ノ森は笑顔を消して、真顔で答えた。
「僕が戦うべき相手は、ただ一人。異世界の魔女です」
「あのバケモノと? 本気で言ってるの?」
「本気です」
「そう……。ならばその件については、上と掛け合いましょう」
クレア一人の権限では判断できない、という意味だ。
異世界の魔女と関わることには、それだけのリスクが伴う。
「ありがとうございます。彼女との戦いを生き延びた暁には、あなたがたを父にも紹介できるでしょう」
そう言った信ノ森の顔には、ふたたび笑顔が戻って来た。
「結界術の権威たる信ノ森家のご当主ね。とっても素敵なニンジンだわ」
会社上層部を説得する餌、というわけだ。
「で、もう一つは?」
「未回収の人狼カードについて。ヒーリングカードは、人狼カードから回復能力だけを抽出したものと見ました。違いますか?」
「正解よ。もっとも、リスクを取り除いたら、なぜか効果も弱まってしまったのだけど」
「しかしそれだけの成果があれば、もう充分でしょう。人狼のカードは、もう御社には必要ないと考えます。どうでしょう、彼にプレゼントしては?」
「あら、お友達想いなのね」
今度はクレアの権限内の話だったので、彼女は気軽に答えた。
「いいわ。彼には実験に付き合ってもらったし、貴重なデータを提供してくれた報酬として、進呈しましょう」
* * *
「と、いうわけで。それは君のものだ。好きにするといい」
そう言って信ノ森は立ち去った。
鬼道学園の屋上。放課後だが、まだ日は高い。
残されたのは荒木場凱。その手には人狼カードが握られている。
フェンス越しに、崩落したグラウンドが見える。
地下に残されていた防空壕が経年劣化で崩壊した、と対外的に発表され、しばらくはテレビのニュースなどでも取り上げられた。しかし人の噂も何とやらで、あっという間に世間の関心は去って、今は工事業者が重機を使って黙々と作業をしている。
その重機の音に混じって、楽しそうにはしゃぐ女子生徒たちの声がかすかに聞こえてきた。
手前に視線を移すと、見知った顔の一年生たちが中庭でじゃれ合っているのが見えた。
忍者野郎の錬示と、カリナ、紗夜、ランの三人娘。それに、荒木場の知らない女子が二人ほど。ギャルっぽいから、カリナの友達だろう。
すっかり仲良くなったらしい。
女子たちに囲まれて、錬示が困っている様子がありありと伝わってきた。
「フン、いい気味だ。もっと困りやがれ」
皮肉っぽく笑いながら、荒木場は迷い無く人狼カードを破り捨てた。
紙切れが風に乗って、青空に舞った。
第一部 ギャルと忍者と魔法のカード 完
* * *
次回予告
夏休み。
来たるべき鬼道の親善試合に向けて、信ノ森生徒会長は一・二年生選抜メンバーを率いて強化合宿を開催した。
選ばれたのは荒木場、ラン、錬示にカリナ。それに紗夜と柴も雑用係として同行する。
舞台は、信ノ森家が管理する南海の孤島。昼間でも魔素が濃いという、不思議な島だった。
夏の海で大はしゃぎのメンバーたちだが――
そこに現れる謎の少年。
幻嶺会大量殺人事件を追う公安警察。
ついに明かされる信ノ森正一郎の出生の秘密。
そしてそれらすべてを繋ぐ者――魔女、葛見葉子。
第二部 南海の孤島と異世界の魔女 乞うご期待
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
これにて一旦、完結となります。
第二部は準備でき次第お届けするつもりですが、その前に別の話を投稿するかも?
長い目で見守っていただければ幸いです。




