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第22話 崩落④ 大群!影獣軍団の脅威

「ははは、十二体などとうに超えたぞ! 信ノ森に出来て私に出来ぬものか!」


 ブースターと高濃度の魔素は、篁にかつてない力を与えていた。


「さあ行け、影獣ども! 邪魔者を排除して、扉を開けるのだ! そうすればお前たちはもっと強くなれるぞ!」


「させるか! 天道!」


「まかせて!」


 カリナは殺到する黒い獣の群れに向けて手のひらを突き出し、そこから強烈な閃光を放った。

 獣たちはそのまばゆい光に照らされると、すべてあっという間に溶けて消えてしまった。


「あたしだって、毎晩練習してたんだから!」


 胸を張るカリナ。

 しかしまだ篁の笑みは消えない。


「なるほど厄介な能力だが、いつまで続くかな?」


 篁の背後から、またも獣たちがぞろぞろと出てきた。


「光が強ければ、影もまた濃くなる。影獣どもは私の影から、いくらでも湧いて出るぞ!」


「ならば本体を倒すまで!」


 錬示が両手に特殊警棒を構えて、前に出る。

 強化された脚力で、あっという間に間合いを詰める。


「おっと危ない」


 錬示の前に獣たちの群れが壁のように立ち塞がる。


「どけえっ!」


 警棒で薙ぎ払い、あるいはその爪を躱しながら、錬示は篁に向かって進もうとするが、獣たちは空いた穴を塞ぐようにして次々と現れる。

 その数はあっという間に通路いっぱいになり、錬示の視界を覆いつくすほどだ。


「もう一発!」


 錬示が手こずっていると見て、カリナはふたたび閃光を放った。

 獣の大群がまた消滅する。


「いいぞ天道!」


 錬示は自分の影に入っていたために消え残っていた獣を蹴り倒して今度こそ消滅させ、篁に向かおうとしたが――


「いない!?」


 そこに篁の姿は無かった。


「山田くん!」


 カリナの声に振り返ると、篁の背中が見えた。

 いつの間にすれ違っていたのか。


「能力は使いようだよ、覚えておきなさい!」


 篁は自らの体に獣をまとって、群れの中に紛れ込んでいたのだ。

 そうして錬示の脇をすり抜け、扉に向かって走る。

 そしてその背後には、二発目の閃光の影から生まれた獣たちがすでに数匹、続いている。


「しまった!」


 錬示は床を蹴って引き返す。

 その間に、篁はカリナの横を走り抜けたが、背後の獣たちはカリナに襲いかかる。


「いやーっ!」


 とっさに放った三度目の閃光。

 それは先ほどまでの、手のひらから前方に向けて放つものではなかった。

 かつて〝写し身の鏡〟から生まれた偽カリナを消し去った時と同じように、全身から全方向に向けて、まばゆい閃光が放たれた。

 獣たちは消えたが、カリナの方に向かっていた錬示も一瞬、判断が遅れて目が眩んだ。

 その間に、篁は扉に到達。南京錠の鍵穴に指先から出した小さな影を差し込んで、回した。


 ガチャン。


 錠が開き、すぐさま封印の御札も剥がす。


「あとはお前たちでも出来るだろう」


 篁はまた湧いて出た獣たちに鎖を解き、閂を外す作業を任せて、錬示とカリナの方に向き直った。


「ごめん、山田くん! だいじょうぶ!?」


「ああ、もう見えてきた……」


 錬示は回復しつつある視力で、カリナの様子を見た。

 顔の血の気が少し引いて、肩で息をしている。

 無理もない。立て続けに三発も強力な閃光を放ったのだ。しかも三発目は、全身発光だ。初めての時には、それ一発で気を失って倒れてしまったのだ。今は訓練の成果があるとはいえ、きついだろう。

 そしてそれ以上に、身の危険にさらされつづける戦闘のストレスは、戦い慣れた者でさえも心理的負担が大きい。

 体力的にも精神的にも、限界が近い。


「撤退する。走れるか?」


「わ、わかった。だいじょぶ」


 錬示の判断に、カリナは素直に頷いた。


「おっと、逃がさないよ」


 篁は二人が逃げると見るや、扉に携わっている者以外の獣たちを捕縛に差し向けた。

 助けを呼ばれたり、信ノ森と合流されたりすれば厄介だ。

 また最悪の場合、学園からの逃走のためにカリナを人質とすることも考えられた。


「走れ!」


 錬示はカリナを先に行かせ、背後から迫る獣たちを打ち払いながら、地下通路から撤退した。


 * * *


「くそっ、回り込まれたか!」


 狭い通路では良かったが、直径八メートルの闘技場で、ついに錬示とカリナは獣たちに囲まれてしまった。

 地下への階段から獣は次々に現れ、闘技場を埋め尽くすほどの数になっていた。

 ちょうど昨日、信ノ森の鼠が同じ場所に溢れかえったのを思い出させる。


 しかも先ほどから、だんだん魔素が濃くなってくる感覚がある。

 おそらく扉が開け放たれたのだろう。

 そうなると、まだ数は増えるかもしれない。


「忍法、烈風陣!」


 ひとまず錬示は自分とカリナの周囲に風の壁を作って、獣たちの接近を防いだ。

 濃い魔素のおかげで自身の技も強くなっている。とはいえ、小さな鼠と違って、影獣の大きさは人に近く、重量もそれなりにある。それら吹き飛ばすほどには、この技は強力ではない。

 これは時間稼ぎにしかならないだろう。


「今のうちに、少し休んで体力を回復しておいてくれ。もう二発か三発は打ってもらうぞ」


「オッケー了解」


 風に囲まれた円陣の中心でカリナがしゃがみ込んで休息し、錬示はその周りで、風の壁を突破しようと試みる獣たちを中から叩いて追い払う。

 しかしすぐに獣たちも知恵が回ったのか、四方八方から一斉に陣に突っ込んできた。


「チッ、もうやるしかないか……!」


 まだ万全ではないが、やむを得ない。

 そう錬示が覚悟した時――


「おいおい! 苦戦してるのかい、お二人さんよぉ!」


 声とともに、観客席から何者かが獣の群れに飛び込んで来た。

 黒い獣たちを鋭い爪で薙ぎ払いながら近づいてくるその姿もまた、獣――銀灰色の人狼、荒木場だ。


「どすこーい! ここはわしらの土俵じゃ。獣どもの好きにはさせん!」


 続いて現れたのは土佐。得意のぶちかましで、何匹もの獣たちをまとめて吹き飛ばす。


「やれやれ、二日続けて獣の相手とは。だが鼠に比べれば、このぐらいの大きさのほうがよほど戦いやすい」


 紀野はぶつくさ言いながら、獣たちを右へ左へ投げ飛ばす。


「夜会三強あらため、夜会四天王参上! なんてね!」


 ランが自慢のスピードとパワーで獣たちを蹴散らしていく。


「カリナ、お待たせ!」


「ラン! それに先輩たちも!」


 烈風陣のすぐ外にまでたどり着き、侵入しようとしていた獣たちも排除して、その四方を固める夜会のトップ(フォー)


「ありがとう! 頼もしすぎる!」


「なんで……」


 無邪気に喜ぶカリナと、疑問を口にする錬示。


「氷高女史の依頼じゃ。念のために、様子を見に行ってくれとな」


「あの女に頼まれると、紀野さんは断われねえからな」


「ほんっと、未練タラタラだよね~」


「う、うるさいな君たち! 彼女は大切な友人だ! 友人の頼みは無碍にはできまい!」


 そんなことを言い合っていると、奥から篁が姿を現した。


「これは……どういうことだ?」


「ぃよお、篁先生よ! ずいぶん好き勝手やってくれたみてえだなあ! だがこの俺様が来たからには、テメエはもう終わりだぜ!」


 堂々と教師と敵対できる状況だからか、荒木場のテンションが高い。

 篁は不快そうに顔をしかめた。


「扉はすでに開かれた。無尽蔵の魔素で、私の影獣は作り放題だ。数の力の前に、たかが四人増えたところで何ができると……」


「四人じゃねえんだな、これが」


「アニキー!」


 観客席から、柴の声が響く。

 そしてその後ろには、夜会の選手たちおよそ三十人の姿があった。


「連絡したら、みんな来てくれたッス!」


「でかした柴公!」


 荒木場は一匹狼的だが、柴は人の懐に入り込むのが上手く、コミュニュケーション能力が高かった。

 SNSを駆使して選手たちに呼びかけ、短時間でほとんどのメンバーを集めたのだった。


「みんな、聞いてくれ!」


 紀野が選手たちに呼びかける。


「この黒い獣たちは敵だ! そしてこいつらは、依り代を持たない脆い式鬼だ! ある程度のダメージを与えれば消える! だが次々と湧いて出てくる! ここはひとつ、ゲームだと思ってどんどん狩っていこう!」


「そりゃあいい! 誰が一番たくさん狩れるか、競争といこうじゃねえか! もちろん、勝つのは俺だがなあ!」


 そう言うと、荒木場は目の前の獣に襲いかかって、あっという間に消滅させた。

 それを合図に、観客席から選手たちが闘技場になだれ込んだ。

 その中には、まだランキングにも入れないほど下位の柴や、全身に包帯を巻いた新辺の姿もあった。


「へっ、あいつら無理しやがって」


「一対一がきつい者は組んでかかれ!」


「そうじゃぞ! つまらん怪我だけはしてくれるなよ!」


「じゃ、アタシはみんなの分も倒して、優勝目指しちゃおっかな!」


 そう言いながら四天王たちも次々に獣を倒していく。


「何にせよ、助かった……」


「そだね、おかげでだいぶ休めそうだし」


 烈風陣を解除した錬示とカリナにも、ずいぶん余裕が出てきた。


「おのれ、だが、まだまだ……!」


 篁はまだ劣勢になったとまでは言えない。

 ランキング上位の選手はともかく、下位の選手たちはそれほど長い時間は戦い続けられないだろう。

 篁の体力にはまだ余裕がある。

 時間をかければ、押し切れる。


 しかし、篁にはその時間が無かった。


「そこまでだ、篁!」


 闘技場に響く大音声。黒岩の現場到着だ。

 さらにその後ろには、学園長はじめ、異能担当教職員およそ十名の姿もあった。


「もう逃げられんぞ、無駄な抵抗はよせ!」


「無駄な抵抗? 無駄な抵抗だと……」


 篁は歯噛みして、ブースターカードを掲げる。

 その目はまだ、諦めてはいない。


「お前たちこそ、無駄な抵抗をするから! そうでなければ、これを使わずに済んだものを!」


「待て、何をする気だ!」


 黒岩が制止するが、篁はもう止まらない。


「この学園の結界を破壊する!」


「そんなことをして何になる!」


「学園の外、この街を魔素で満たす! そうすれば世界は能力者の存在を認めざるを得なくなる!」


「そんなことをすれば、街は大混乱だぞ! 何も知らない人々の暮らしが破壊される!」


「何も知らない奴らなど!」


 篁は、ブースターカードを地面に叩きつけた。

 みずからの影の上へ。


「ここに集え影獣ども! ブースターカードを核として一つになり、すべてを踏み潰せ! 出でよ、大影獣(だいえいじゅう)!」


 その声とともに、闘技場全域で戦っていた獣たちが、目の前の相手を無視して篁のもとへ集まった。

 そしてブースターカードの上に折り重なるようにして一つの塊になってゆく。

 そしてそれは黒く巨大な類人猿の形になり、立ち上がろうとした。


「い、いかん! 生徒たちの避難を!」


 黒岩が叫ぶ。

 それを受けて教職員たちが動く。


 直後、立ち上がった大影獣の頭が、闘技場の天井をぶち破った。


お読みいただきありがとうございます。

次回もお楽しみに!

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