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第19話 崩落① 嵐前!それぞれの道と想い/おまけつき

最終章、崩落編の始まりです。

最後までよろしくお願いします!

 翌朝、始業前の生徒会室。

 信ノ森がドアを開けて中に入ると、すでに律子が来て待っていた。


「おはようございます、会長。ゆうべはよく眠れた?」


「おかげさまで、少々寝不足だよ」


 軽口を交わしながら会長席に座った信ノ森は、上着の内ポケットから三枚のカードを取り出してデスクの上に並べた。


「〝シンデレラ〟〝魔眼〟そして〝マインドリーダー〟だ。こちらのカードは三枚」


 信ノ森の言葉を受けて、律子が状況の整理を続ける。


「あちらには〝鏡〟〝ブースター〟〝ヒーリング〟の三枚。そして荒木場君が〝人狼〟を持っている。これで七枚のカード、すべての行方が確定したわけね」


 有能な副会長に、信ノ森は満足そうに頷いた。


「そろそろ、あちらから接触がある頃だろう」


「ええ、これが多分そうでしょうね」


 律子は信ノ森に白い封筒を差し出した。

 信ノ森正一郎様、と明朝体のフォントで印刷されているのみで、差出人などは書かれていない。


「私が来た時に、ここのドアに挟まっていたわ」


「なるほど」


 信ノ森は開封し、中に入っていたコピー用紙一枚の簡素な手紙を読んだ。

 そこには時刻と場所が書かれていた。


「どうするの?」 


「まずは、話し合いだね。穏便に済めばいいんだけど」


 信ノ森は窓の外に目をやった。

 五月晴れの爽やかな朝だった。


「今夜は月が綺麗だろうね」


 * * *


「ねえ、あたし最近なんもしてなくない?」


 昼休みの校舎屋上で、カリナがそんなことを言い出した。


「もっと忍者マンの助けになりたいのに、応援しかできてない気がする」


「まあ、ここんとこ夜会の観戦ばっかりだったからね。応援ぐらいしかできることないでしょ」


 相談があると呼び出された紗夜は、肩をすくめて答えた。


 屋上には二人のほかに人影は無い。

 基本的に生徒に開放されていない場所で、カリナは天文部員だからという名目で合鍵を持っているのだった。

 秘密の会話をするにはうってつけの場所だとも言える。


「ぜんぜん正体とか教えてくんないしさー。ここの生徒なのは確かなんだけど……」


「案外、近くにいるかもよ?」


 紗夜は知っているのだが、ヒントにとどめた。

 正体を明かすのは錬示本人の意思に任せるべきだ、と思ったのだ。


「そう思ってまわりの男子見てるんだけど、みんななんか違うんだよねー」


 これはカリナの目が節穴なのか、錬示の擬態が見事なのか。


(思い込みってのも、あるんだろうね……)


 カリナの中で忍者マンに対するイメージと、山田錬示というクラスメイトに対するイメージとがかけ離れすぎていて、結びつかないのだろう――紗夜はそう考えた。

 紗夜はもともとクラスメイト全般に対する関心が薄かったために、かえって先入観なく錬示と忍者マンを結びつけられたのかもしれない。


「で、さ。そんなことより!」


(そんなことより?)


 突然あっさり話題を変えようとするカリナに、紗夜は少し戸惑った。

 今のカリナに、忍者マン以上に関心のあることなどあるだろうか?


「山田くんとはさ、最近どうなの? 進展あった?」


(そっちかあ……)


 相談などと言いつつ、友達の恋愛話(コイバナ)を聞き出すのが目的か。


(なんか、損した気分……)


 無邪気に瞳を輝かせながら迫ってくるカリナに、紗夜は少し苛立ちをおぼえた。


「ねえ、カリナ……」


 声が低くなる。


「アンタ、忍者マンのこと、本気で考えてる?」


「えっ、なに? 今は忍者マンじゃなくて、山田くんの話……」


「いいから!」


 紗夜自身が驚くほどの大きな声が出た。


「アンタ、いつもカッコいいとかキャーキャー騒いでるだけで――彼が何のために戦ってるか、考えたことある?」


「考えてるよ! 彼のこと、考えない日なんて無いんだから!」


「だったらどうして、彼が誰かも、どうして助けてくれるのかも、わかんないの? たぶん、私のほうが、ちゃんと見てるよ!」


 止めようとしたが、止まらなかった。

 胸の中のモヤモヤを吐き出すように、紗夜はできたばかりの友達に言葉をぶつけた。


「……何それ。もしかして、ケンカ売ってる?」


 カリナの震える声を聞き、怒りと戸惑いが混じった瞳を見て、紗夜は少し冷静になった。

 だが、吐いた言葉は戻せない。このまま行く。


「そうよ。これは宣戦布告」


 踵を返し、背を向ける。


「真剣にならないなら、取っちゃうから」


 そう言い残して、屋上から立ち去った。


「なにそれ、わけわかんない……」


 背中越しに、カリナの呟きがかすかに聞こえた。


 * * *


 その頃、錬示は生徒指導室にいた。

 向かい合って座っているのは黒岩先生だ。


「珍しいな。お前のほうから声をかけてくるなんて。何か悩みごとか?」


 黒岩は穏やかな声で話しかける。

 実はこの二人、入学前からの知り合いだった。

 黒岩の伝手があったからこそ、錬示は家を出て鬼道学園に進学するという選択肢を取れたと言っていい。


「忍法のことで……」


「そうか。自分ではまだ納得のいく答えが出せていない、というところか」


 黒岩は山田烈風斎の弟子、しかも〝烈風館四天王〟と呼ばれた高弟の一人だった。

 錬示の母である朱雀ミナミも、その四天王の一員だ。

 黒岩にしてみれば錬示のことは生まれる前から知っている、親戚の子のような感覚である。

 錬示とその姉の事故のことも、それによって錬示が忍法を自ら禁じた経緯も、黒岩はよく心得ていた。


「はい。一度とっさに使ってしまって、あとはなし崩しという感じで……」


「とっさの一度というのは、あの、武速嵐との模擬戦のことでいいのか?」


「はい」


「なるほど。うーむ……」


 黒岩は腕組みをして考えた。

 この場合、どのような方向に導くべきか。そしてそのためには、どのような言葉をかければいいのか。

 黒岩は自分の頭脳にあまり自信がない。

 ただ、目の前のことに誠実であろうと心がけていた。


「可南ちゃんは、大学に進学して元気にやっていると聞いた。錬示はもう、自分を許してやっても良いと思うが……まだそんな気にはなれんか?」


「自分でも、よくわからないんです」


 錬示はすぐに答えられず、視線を落とした。机の木目を指先でなぞりながら、思考をまとめようとした。


「昨日、荒木場先輩と戦いました。あの人は俺に、覚悟がどうだとか言ってましたけど、ただの好戦的な喧嘩馬鹿にしか思えなかった」


「荒木場なあ……」


 黒岩は頭をかく。


「あれはあれで、もとは毎回必ず暴走していた危険な力を、自力で乗り越えてほぼ完全に制御できるようになった、凄いやつなんだが……」


「そうなんですか」


「何て言われた?」


「俺には人間でなくなる覚悟が足りない、だとか」


「人間でなくなる覚悟、か。あいつらしいな」


 黒岩は納得するものがあった。


「あいつは文字どおり、人間から人狼に変身する能力を持ってるから、そういう表現になるんだろうが……つまりは、能力とともに生きていく覚悟ってことだろう」


「能力と、ともに……」


「いくら目を背けても封印しても、お前がその能力を持っていることは事実。ならば能力を適切に使いこなして、その能力を持つ人間として生きていく。なにも人間をやめる必要は無い。能力が有ろうが無かろうが、俺たちは人間なんだからな」


 その言葉は、荒木場のそれよりも錬示には理解できた。


「力を持つ者としての覚悟とか、責任とか。お前は力を隠すことで、その覚悟や責任から逃げていると、荒木場には見えたのかもしれん。正直に言えば、俺からもそう見えることはある」


「そう、ですか……」


「いきなりすべての責任を背負えとは言わん。覚悟とか責任なんてのも、まわりの人々との関係の中で、徐々に育っていくものだ。だから、まずは自分の身近な信用できる人に、能力のことを明かしてみたらどうだ」


 身近な、信用できる人。

 その言葉で錬示の脳裏に浮かんだのは、カリナの顔だった。


 * * *


 放課後。

 五月も下旬となると、ずいぶん日は長い。

 ようやく太陽が西の山に差し掛かった頃には、すでに午後七時も近かった。

 一般の生徒たちはとっくに下校してしまった。

 この日は夜会も開催されていないので、学園内に残っているのは一部の教職員と、信ノ森生徒会長とその仲間たち。


 しかし信ノ森はその仲間を連れず、一人で屋上へとやって来た。


 そこに、ひとつの人影が待っていた。


「やはり、あなたでしたか。篁先生」


 その姿を確認して、信ノ森はうっすらと笑った。

 西日を受けた信ノ森の影が、篁に向かって伸びていた。



---


###おまけ:錬示が使う忍術/忍法についての設定


【烈風流忍術】

錬示の祖父、山田烈風斎が開いた流派。

空手や日本拳法のほか、中国拳法その他様々な武術から、烈風斎が独自の感性で編み出した。

武術としては派手で見栄えのする技が多いのが特徴だが、それを活かすための地味な技術もちゃんと備えている。

武術の他にも、潜入術やサバイバル術など、忍者らしいジャンルも含んでいる。

さらに、魔素による異能を用いた術もあり、それらは「忍法」と呼称する。

道場では、俳優志望の者には見栄えのするアクションを、その中から見込みのある者には本格的に忍術を、さらに異能の才ある者には密かに忍法を教えている。


鋼身(はがねみ)の術】

気を身体に巡らせて強化する術。

魔素を用いないため、忍法ではない。

異能ほど劇的には強化されないが、昼間など魔素の薄い環境でも使用可能。

錬示が使えば、夜会の下位ランク相手には普通に通用する。

忍法を封印した錬示はこの技を多用していたため、気のコントロールに慣れている。

黒岩はそのことを知っていたので、カリナが気の欠乏で倒れた際には、気の補充を錬示に任せた。


【忍法・人身鬼(ひとみおに)

魔素による身体強化術を、人の身に鬼の力を宿す技として、烈風流ではこう呼ぶ。

忍法の基礎として位置づけられており、まずはこれを習得してから、ほかの忍法を習う。

錬示は六歳で習得した。

現在の錬示が使えば、夜会三強ともほぼ互角に渡り合える。


【忍法・分身の術】

自分の姿に似せた幻影を作り出す技。

とても忍者らしい技として、小学生の錬示は好んで使っていた。

そのため、忍法が久々となるランとの一戦でも使うことができた。

新辺戦で出した残像も、この技の応用。


【忍法・烈風螺旋弾】

錬示が忍法を封印するきっかけとなった技。

指礫で飛ばす小石に螺旋回転と加速を与えて、銃弾に匹敵する貫通力を発揮させる。

回転と加速を与える銃身である風の結界は、長く伸ばせば威力は上がる。ただし長くするほどに制御は難しくなる。また、礫の素材によっては負荷に耐えきれず、礫自体が潰れてしまう場合もある。


【忍法・烈風手裏剣】

空気を圧縮・回転させて手裏剣のような飛び道具として放つ技。

手持ちの武器が無くても使える便利な技だが、威力はそれほどでもなく、牽制に使える程度。


【忍法・烈風陣】

自分の周囲に円柱状に強風を渦巻かせて、敵の飛び道具などから身を守る技。

烈風手裏剣ならほぼ防ぐことが可能。烈風螺旋弾も、多少は軌道を変えられるかも。

小さな鼠ならば吹き飛ばすことができるが、もう少し大きな動物となると、その侵入を防げるかは微妙なところ。


お読みいただきありがとうございます。

次回もお楽しみに!

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