7話 正体不明の死神と剣姫、覚醒の夜
「……悪イガお前に用ハ無い、だが邪魔立てスルノならば切り捨テル」
死神はバグった様な、単純に活舌が悪いだけなのかよく分からない口調でオレの前に立ち刀を構えたアドラに向かい啖呵を切る。
「やれるものなら、どうぞ」
その一言と同時にアドラが先手を取る形で死神に突っ込んだ。
死神は応戦しようと鎌を大きく構える。
だが、アドラの接近からの切込みが恐らく死神の想定以上に速かった様で、ヤツは大鎌を振るう事が出来ずに間に合わせ的に柄を使ったガードに切り替えた。
……鎌を構えるとか、柄を使うとかギャグで思ったわけじゃない、多分。
「くッ!」
「よしいいぞ、アドラが押してる」
正義のホームレス悪役令嬢剣姫だったか?
あいつ、口上はメチャクチャだったが中々やりやがる。
「ほらほら!切り捨てる!なんて言ってた割にその程度かしら?」
実際、アドラの目にも止まらぬ剣捌きから繰り出された連続斬りに対して、死神は防戦一方だ。
あれだけの剣戟を耐えきるってのも、とんでもない事なのだが……勝負の行方はアドラの優勢である事に間違いはない。
「凄えぇ……」
因みにぶっちゃけると、オレの目にはアドラの繰り出す斬撃は殆ど見えていなかった。
ハッキリ見えるのは風切り音とぶつかり合った鎌の柄から出る火花位の物である。
これが目で追えないっていう感覚なのか、今なら理解できるぞ。
きっとヤ〇チャ視点ってこうだったんだろうな、とね。
「こいツ、ヤリおる……速度向上」
アドラの隙の無い連撃に、業を煮やした死神は無理にでも距離を取る為に恐らく身体強化魔法の類を発動させた。
今までよりも一段速度の上がった死神はアドラの攻撃を躱しつつ後方へと退避していく。
「逃がさないわ!速度向上!やあああ!」
「よし、いけぇー!決めちまえ!」
当然、アドラは死神を逃すまいと自身に身体強化バフをかけて追撃の刺突を繰り出した。
あの速度の突きなら回避もガードも間に合わない!
勝ったな!みんな解散!第一章完!
「……設置魔法、蜂の巣」
「なっ!」
オレには聞こえない小さな声で死神が早口で何かを口走った。
するとアドラと死神、両者の間の地面に突如魔方陣が浮かび上がる。
追撃行おうとしていたアドラは意図せずとも、そのまま魔方陣の中に飛び込む形となってしまった。
アドラを検知した魔方陣はブゥーンという低い音を発すると共に不気味な明滅を始める。
「……これは設置魔法ね!ったく、危ないじゃない!」
危険を察知したアドラは咄嗟に刀を地面に突き刺す事で前進する慣性を殺して、後方へと緊急回避する。
その直後に魔方陣は一段と大きく発光し、地面から数本の電撃が轟王と共に打ち上がった。
危なかった。
あんなのが当たってりゃたまったもんじゃない…………違う!まだだ!!
「アドラぁ!!前だ!!前を見ろ!!」
「え?」
……俯瞰視点ではすぐに気が付けたが、アドラには打ちあがった電撃の光と音で認識出来ていなかった!
死神が鎌でなく懐に隠し持っていた短剣を構えて雷光と共に前に突っ込んでくるのを……。
「形勢逆転ダヨ」
「チィッ!」
事態を察したアドラは体を捻り、心臓へと一直線に向ってきた凶刃をギリギリで躱すに成功したが……完全に無傷という訳ではなく、切りつけられた横腹からドクドクと真っ赤な血が流れ出している。
「くっ!」
アドラは片手で傷口を抑え苦悶の表情を浮かべている。
致命傷ではないが、正直ヤバイ。
……あの出血では刀を振るうにも、かなり制約がかかりそうだ。
「良く避ケタ、しかし異路同帰……結果ハ変ワラない、この剣には【蜂の巣】と同じ性能の麻痺毒ガ塗っテある」
「なっ……るほどね、どうりで……体が動かない……訳だ……」
「……あいつ何を言って?」
……麻痺毒、だって?それじゃあアドラは?
「お前ハ確かニ強い、ダガ相手が悪かッタナ」
「……に……に……げろ」
振り絞るような声でオレに向かってそう言ったアドラはそのまま力なく地面に突っ伏した。
「おい嘘だろ!そんな事って」
出逢って数分の見ず知らずのやつがオレを救おうとして……オレの為に戦って、そしてオレの所為で倒れた。
いくら心の荒んだオレでも……それを「だからどうした?」とは口が裂けても言えない。
「アドラ……どうして」
なんで……なんでなんだろうな。
こんな結果になって情けないやら申し訳ないやらで、自分でも気が付かない内に目から自然と涙が零れ落ちていた。
「……サテサテそろそろ良いカナ?」
違うだろ。
泣いてる場合か……あいつの、アドラの言葉を思い出せ。
……逃げるんだ、逃げるのはオレの十八番だろ。
「うおおおおおお!!!」
オレは後ろを振り返らず全速力でその場を離れていく。
王宮に行って、急いで助けを呼ぶ。
それがオレの出来るあいつへの唯一の罪滅ぼしだ。
「…………」
死神は、電池切れでも起こしたのか、オレが逃げているというのにピクリとも動かず、まだ追ってくる様子はない。
ならそれでいい。
よし、ある程度距離を離した、これなら逃げ切れる。
それにこっちにはさっき手に入れた、逃げ確率上昇の無銭飲食というスキルもある!
早くここから逃げて助けを。
…………ザクッ。
「え?え?えっ?」
何かが柔らかいものに刺さった様な音と共に太腿に強烈な違和感を感じる。
足が動かない。
……何でだ?
「……逃がさナイよ」
オレの手は無意識に太腿に触れていた。
ん?なんだこれ。
何か生暖かい感触が……これは……血だ。
「うっ、うわあああああ!!」
全てを理解したと同時にオレは地面に倒れこんだ。
……死神がさっきの短剣を投擲してオレの足をピンポイントで刺したんだ。
あいつは止まってたんじゃない!確実にオレを逃さない為にオレの足に狙いを定めていたんだ!
「くそ!!くそくそくそ!!」
強烈な痛みで気が動転したオレは痛みの原因から逃れようと短剣を太腿から一気に引き抜いた。
「ぎゃああああ!!」
……悪手だった。
そんな事をすれば当然、血が噴出してより事態が悪化する。
こうなったら、もう逃げる所ではない。
オレはこれ以上血が飛び出ない様、太腿を必死に手で抑える事しか出来なくなっていた。
「終ワりダね」
終わりを告げた死神がゆっくりと近付き、オレの目の前で鎌を構えた。
……畜生。
畜生、畜生。
畜生、畜生、畜生、畜生、ちくしょう、ちくじょおおおおお!!
なんでオレが。
なんでオレがこんな目に合わなくちゃいけないんだ。
オレが何をした!
オレがこの世界で何をしたってんだ!!
何もしてないじゃないか。
そう、何もしてないんだよ!
なのになんで?
なんで?なんで?なんで!!!
なんで……。
こんな、こんな所で……終わってたまるか、終わって、たまるかあああああああああ!!!
「……さねぇ」
「ナニ?」
「許さねえっつってんだよ!てめぇを!!」
オレは倒れたままの状態で拳を握り、死神に向かって土くれとゴミを投げつける。
「なッ!」
余裕をかましていた死神はこれをモロに食らった。
そしてヤツの行動が一瞬止まった瞬間を突いて、オレは血まみれの手でオレを刺した短剣を拾い上げて、それをそのままヤツの足へと突き刺し返した。
「へへっ……痛み分けってな。せめてもの報いだ」
「ギギ……ぎギぎッ!」
どうやらオレのイタチの最後っ屁は予想外の効き目だったらしい。
奴に短剣が刺さった瞬間、出会ってからずっとポーカーフェイスを保っていた死神の表情は突如怒りとも驚きとも取れない感情を爆発させたような顔に変化を見せたからだ。
だがそれはほんの一瞬の出来事であり、もう一度ヤツの顔を覗いた時にはさっきまでの無表情に戻っていた。
「んだよ?オレみたいな格下にやられてキレちまったか?」
「………………カカッ」
死神は何も答えなかった。
そして無表情のままオレに口だけで笑い、そのまま逃げる様にどこかへ飛び去って行った。
「……一体なんだったんだよ、あいつ」
疲れた。
「……眠い」
……オレはそのまま気を失う様に深い眠りへと落ちていった。
▽ ▽ ▽
「……オカシイ、私は麻痺ニ対し耐性ガあった筈、ナノに何故……」
ココなら追手は来なイ、スラムからハ遠ク離レタ。
痙攣しテ動きの鈍くナった足を眺めテ、一人呟ク。
「逃げテ正解ダ……このやケに強烈ナ毒が全身に回れバ三日は動けナイだロう」
そうナル前に隠れる場所ヲ探す必要ガありソウだな。
「それにしテモ…………勇者か、中ナカ面白いヤツダったな………」
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