5話 戦う理由
王都に戻ったオレはスライムに敗北するという最悪の出来事の反省会を兼ねてヘルを酒場へと誘い、彼女の助言を聞く事にした。
……因みにオレは金を持っていない。
「そうですわね、まずは私のパーティ加入をお願いしますわ……流石に今のマズダ様ではソリトゥスはおろかそこら辺の魔物と戦うのもなかなか厳しいものがありますので」
「おっしゃる通りでございます。パーティ……なるほど。ここにはそんな概念もあるのか」
ヘルのパーティ加入か。
スライムを一撃で倒したあの実力も申し分ないし、これについて異論はない。
……しかしどうやって加入させればいいんだ?
「パーティ加入は深く考えずに、お互いの同意があればそれで成立ですわよ……まるで子づ……」
「ストップ!それ以上いけない!……まだ一杯目だぞ。いきなりそう言うのをぶっこむなよ、ん?パーティ加入申請が来ましたか。こりゃ本当にゲームの世界だな」
視界に映るパーティ加入申請が来ましたの文字の下に【はい】と【いいえ】の選択肢。
「……はて、ゲームとは何の事でしょう?」
「あぁヘルは知らないのか。オレのいた世界の娯楽だよ、なんて言えばいいのかな……仮想空間で様々な事柄や人物を疑似体験できる娯楽って所か?」
「ふむ、マズダ様はそのゲームとやらとこの世界が似ていると感じておられるのですね」
「うん、似ているな……というかまんまかもしれん」
よく分からん呪いの件や勇者らしくないオレの存在とか多少イレギュラーな物も含まれてはいるが、ここは基本的に中世ヨーロッパをベースとした剣と魔法、人と魔物の世界そのものだしな。
「なるほど。これはあくまで私の仮説ですが、マズダ様は現実で得た経験とゲームとやらの仮想空間で得た経験、それらが本来仮想空間であった筈のゲームに近いこの世界への転移時に肉体と精神がそれに順応するように再構築され混ざり合った結果かもしれませんね」
「なかなか面白い仮説だな。でもそれなら現実とゲームが混ざった世界観や概念になってしまっているのも理由が付くな」
ゲームの世界に順応した、か。
確かにそう感じる場面はあった。
例えばステータス表示。
実はこれ、オレは誰に教えられた訳でもなく最初からその方法を知っていた。
今思えばそんなの相当不思議なハズなのにな。
リンゴが重力によって木から落ちる事の様にオレには何故か最初からそれが当たり前の概念という認識があったのだ。
そんな事を考えながら、オレは視界に映り続けていた【はい】の選択肢を押す。
そしてパーティの欄に新しく追加されたヘルのステータスを表示させてみた。
名前:ヘルミリシア=クアドラプルメギストス=マンユ
性別:女
年齢:?
胸 :巨
異名:死と破滅の神
種族:神族
装備:滅獄の鎧
武器:無
レベル:50★
HP :2000
MP :2800
攻撃:155
防御:252+30
速度:400+100
魔力:666
賢さ :1000
運 :13
特殊スキル:【神族の制約】
「……何だこの化物みたいなステータス」
「化物だなんて酷いですわ。これでも神界からの無茶な次元移動の所為で使える力のほんの一部しか持ってこれてないんですがね」
「これで一部だと?神界ねぇ……そういやアンタ神様だとか言ってたな?なんで神様がわざわざ下界にやってくるような真似を?」
「無論、呪いを止める為にですわ」
例の無気力の呪いってやつだな。
「どういう事だ?あの呪いは神様にも効くって事か?」
「いいえ、神には効きません……逆を言えばあの呪いは神以外の全生命体に効きます。そして私は死と破滅を司る神ですわ。ここまで言えばお気付きになられますか?」
うむ、オレは勘がいいガキだからな。
多分分かるぞヘルの言いたい事が。
「ふーんそうだな。この世界のあらゆる全生命が皆絶滅してしまえば死と破滅とやらを司っているヘルの仕事が無くなっちまう、それが何かまずいんじゃないか?」
「大正解ですわ、神の世界って非常にシビアで完璧主義なので役目の無い神って不要と判断されて存在がすぐに抹消されてしまいます。どうです?一大事でしょ?神界ってクビ=死なんですわよ?」
うちの会社の年がら年中、喫煙所にたむろしてる管理職なんてそんな環境にいたらすぐに死ぬな(笑)。
「確かに、自身の命が賭かってるならなんとかしようと必死になるわな。だが、現状呪いは収まってない……ヘル、あんた程の手練れですら呪いを止めるのは無理なのか?」
「無理ですわね、正直満足に力を振るえぬ私などそこら辺の平凡なAランク冒険者と大して変わり映えしませんわ」
あんな馬鹿げたステータスで無理?
しかも同じような冒険者がそこら辺にいるっていうのか?
自分のクソ雑魚ナメクジみたいなステータスを思い返して思うよ。
世界は広いな、悲しいな。
「なら、尚更何でヘルは下界に降りてくる必要があった?弱体化してもソリトゥスとやらに勝てると踏んでいたのか?」
「いいえ、そんな事はありませんわ。私は神界からでも勇者を送り込むことは可能ですが、しかし現状で分かる通り、この地に送った勇者その全員がソリトゥスには勝てなかったのですわ……彼等には敵に対する知識があまりに不足していたのです」
「なるほどね、それで勇者をサポートするために自ら出張って来た訳か」
ヘルはそこでため息をついた後にジョッキを一気に飲み干して話を続けた。
「ですわ、一言で言えば歴代の勇者は力と欲望だけは十人前の無能の塊でした」
「……結構ストレートにきつい事言うのな」
……しかしヘルの顔が赤いな。
少し、いや大分酔ってるよな?
「この世界に来た勇者達は一様に愛だの正義だのつまらない理想ばかりを語り……元の世界では部屋の隅っこでパソコンカタカタ弄ってシコシコしてただけの連中がですよ、反吐が出ますよね?」
「……ノーコメントで」
そういう連中選んで拉致ってたのはあなたでは?とツッコんだら負けだよな?
「無能の外注勇者を送り続けても結局進展は無いと判断し、それから私は自ら自身の知恵を与え、仕えるにふさわしい本工勇者の降臨を地上で待つ事にしたのですわ」
言いたい事は分かる、外注って変なの使うと逆に仕事が増えたりするもんな。
「で、その仕えるにふさわしい勇者がオレとでも?」
「ええ、私が仕える存在にようやく出逢えたのですわ。勇者でありながら狡猾で掟破り……常識の通用しない破天荒な勇者……オスガキショタ。ごほん!マズダ様、貴方に!」
……オスガキショタ?
ヘルは輝きと興奮に満ちた表情でそう言い放った。
嘘だろ?オレみたいなドクズに出逢う為に?あり得んあり得ん。
「確かにオレは正統派の勇者とは言えん、邪道も邪道だ……だが基礎ステータスを見てみろオレは落ちこぼれも良い所だぜ?」
「それがいいんですわ!小生意気で反抗的なクソ雑魚ショタ勇者が!!」
おい、しれっと悪口言ってないか?
「いやいや本当にオレ?何かの間違いじゃ?」
「いいですかマズダ様……この数十年の間にこの地を訪れた勇者は五十人程いました。いずれも当代最強と言われ、地上の私を大きく超える超高性能の萌えない正統派勇者達です。しかし彼らは悉くアホみたいにソリトゥスに敗れ去りましたわ」
萌えない、いる?
それにそんなのますますオレじゃ役不足じゃないか。
「無理だってオレには絶対!すまん降りていいか?」
「いいえ駄目です。私は貴方の可能性に賭けています、いいですか?ソリトゥスに勝つには普通ではいけません、完璧な善人ではいけません。場合によっては常軌を逸した狂気に身を委ねるような胆力を持ち合わせていなければ、いとも容易く天魔の闇に飲み込まれてしまう、マズダ様には他の勇者たちになかった、魂があるのですわ」
はぁ~、精神論きちゃああ。
可能性に賭けるだと?
あの漫画の三部じゃあるまいし、他人に勝手に命を賭けられてたまるか。
……冗談じゃない!あの超ステータスのヘルですら勝てない、更に上を行く勇者すら勝てない様な敵にオレが勝てる訳がない。
面倒ごとに巻き込まれない内に……よし!明日にはこの国を発とう!!
正直ヘルがオレに期待を抱いてくれているのは痛いほど伝わる……あと変な気も。
出来ればその期待に応えてやりたいとも……あんま思わんか。
まぁ無理なもんは無理なんだよ。
オレは嫌というほど知っているんだ、RPGにおける基礎ステータス、種族値の偉大さをな。
「まぁ一杯飲んで落ち着けよ。オヤジ、彼女にもう一杯!…………あっ、ヘルわりぃオレ、トイレ行ってくるわ」
「あ、ふぁあい」
……すまんな、ヘル。
オレみたいなクズにあれだけ親切にしてくれた、命を助けてもらったあんたを裏切る事になる。
店の外まで出て来た所でオレの出来る限り精一杯の謝罪の気持ちを込めて大きく頭を下げた。
深呼吸して、ゆっくりと酒場を離れていく。
……忘れよう何もかも、そして心機一転どこかで新しく異世界生活をスタートをしよう。
ここから始めよう一から、いいえ……言わんぞ、恥ずかしい。
「嫌になったら逃げだす……リセット癖ってやつなのかもな」
『キュイン!キュキュキュキュイン!』
突如、本当にいきなりだった。
脳内に直接、やけに軽快で何故か興奮を覚える音が響き渡った。
「は?なんだ?今の音」
『スキル【無銭飲食】ノ獲得、コレニヨリ残金ゼロノ時ノ逃走・回避確率ガ上昇シマス』
は?
スキル獲得?
って!い、い、いっ、いるか!そんなもん!!!!!!
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