4話 馬鹿とレアスキル
「えっ何その反応。これってそんなに驚く様なスキルなの?」
「ええ、そりゃもう。創世の時代から今日まで下界をちょくちょく視姦してきた私ですが、そのスキルを持つ勇者がこの世界に現れた事は一度も御座いませんでしたわ」
……視姦?
「創世の時代からって……そりゃまた随分とスケールがデカい話だな。そんで、気になる性能はどんな感じかなっと……」
オレはスキルの【ラアル】の表示されている部分に意識を集中させる。
すると視界に浮かんでいたステータスがラアルとやらの詳細へと切り替わった。
【ラアル】
毒無効、麻痺無効、幻惑無効、睡眠無効、ウィルス無効。
毒超特効、麻痺超特効、幻惑超特効、睡眠超特効、ウィルス超特効。
「うっうおおおお!!つぇええええ!!…………けど」
「けど?」
「……素直に喜べん」
「何故ですか?そのスキルは極めて珍しく、そしてとても強い性能である筈なのですが」
確かにこのスキルは強い……のだが、さっきパッと目に付いた習得条件がなぁ……。
オレは何かの読み間違いである事を信じ、再度習得条件に目を通した。
【習得条件】
理を違えた世界での不潔、不健康な試練の日々を過ごし、健康体で生存する。
理を違えた世界での悟り開く白魔法使い(仮)の称号獲得。
定期的な毒物の接種。
貧乏神の使役。
これは酷い。
要はヨゴレで素人DTで喫煙者で貧乏人って事が言いてえんだろ?
それをゲームっぽい表記で言い換えてるのが逆にちょっとイラっとくる。
そりゃ、このスキルを持った勇者が今までいなかった訳だ。
こんなロクでもない人間のクズスキルを持った勇者が世界を救う所なんか誰も見たくもないし、何ならそんな奴に救って欲しくない。
……でも待てよ。
何でそんなスキルを覚えられるオレみたいなクズが勇者として召喚されちまったんだ?
手違いが起こったのか?クーリングオフとかされないかな?
「う、うんそうだな。凄ぇ強いスキルだ!ははは……よ、よし!早速どっかで試してみようぜ」
「ん?はい、マズダ様がそう仰るのなら参りましょうか……あっ、ですが」
「いやいやッヘルさん!何も気にしなくていいから!!ねッ!」
「は、はい……分かりました」
このスキルが強けりゃ問題は無い。
……習得条件についてはうん、忘れよう。
オレはヘルとの会話を半ば強引に切り上げてスキルの試せる場所へと案内してもらう事にした。
▽ ▽ ▽
案内された場所は王都の外の街道から少しだけ外れた場所に広がる、なだらかな草原地帯であった。
何故わざわざ王都近郊の街道でなく草原まで足を運んだかというのは王都の街道には魔除けの結界が展開されている。
この結界のお陰で王都の近くに出現する雑魚モンスターは街道には近付けず、人々は安全に通行する事が出来るそうだ。
なのでオレ達は街道から少しだけ、ほ~~~んの少しだけ離れたモンスターが生息する草原までやって来たという訳である。
「よしっ、ここならいいだろう」
「あの、本当によろしいのですか?マズダ様」
「まぁまぁ任せておきなさいって。おっ、来たぜ。早速手ごろな獲物が」
オレ達から少し離れた場所に生えた草木の間に見え隠れするあの青いプニプニ。
あれは恐らく、ゲームではお馴染みの初心者のレベリングの友であるスライムだ!
背を低くして物陰に隠れつつ、スライムにゆっくりと近づいていく。
この世界のスライムはかなり目と頭が悪いらしい。
オレも馬鹿で近眼だが、ヤツはそれ以上だ。
かなりの近距離まで接近して多少物音を立てても全くこちらに気付いていない様子で楽しそうに草むらを飛び跳ねている。
余りのスライムの能天気っぷりに慎重に行動するのが馬鹿馬鹿しくなる。
「だったら、先手必勝……いくぜッ!」
作戦変更。
オレは全力疾走でスライムとの距離を一気に詰めていく。
距離にして2~3メートルか?
そこまで接近した時にようやくスライムがオレという敵を認識した様だがもう遅い。
既にヤツはオレの射程に入っている。
……スライム、お前には悪いが一撃で終わらせてもらおう。
オレは助走をつけた状態で高く飛び上がり、空中で拳にありったけの力を込める。
「うおおおおお魔拳スライム割りィ!」
全力を込めたダイビング・コークスクリューブローがスライムに直撃して衝撃で大地を揺らす……程ではなかったが、手ごたえはあった。
「せめてもの情けだ、痛みを感じる暇もなく逝かせてやったぞ」
「……感傷に浸っている所に大変申し訳難いのですがマズダ様、スライムは物理攻撃に耐性を持っていますので……その、今のマズダ様の攻撃だと恐らくダメージが入っておりませんわ」
「へ?」
一瞬彼女が何を言っているのかよく分からなかった……だがすぐに言葉の意味を理解した。
【スライム】HP30→30。
スライムのHPに変化が無い。
ヘルの言葉通り、スライムはオレの拳で地面に押し付けられていただけで全くの無傷であった。
そしてスライムは押し付けていた拳からするりと抜けだすとオレの腹部に反撃のタックルをお見舞いしてきた。
【マズダ】HP:12→9
HPが減った?
「ぎゃああああああああ!!」
直後、攻撃を受けた腹からとんでもない程の激痛が走り、オレは吐血しながらその場でのたうち回る。
なんだこれ、あまりの痛みで体がいう事を聞かねぇ。
クソッ!こんな痛みは職場で使うハンマーで誤って指を叩いたあの時の比じゃない!
オレがジタバタともがき苦しんでいる間にもスライムはさっと距離を取り、二発目のタックルの準備を始めていた。
このままじゃまずい!
危機が迫る状況の中、ヘルがゆっくりと口を開いた。
「はぁ、こうなる事は読めておりました……マズダ様のスキルは状態異常に関するものです。だから先程装備を整えてから戦闘を行うよう提案したかったのですわ」
うん分かった!分かったから今はこの状況を何とかしてくれ!!
「は、はい!ヘルさん、この度は大変申し訳ございませんでした……それと、どうかお助けを!」
「ええまぁ、分かって頂ければよろしいですわ。スライムプレイも見たかったのですが一旦王都に戻る事にしましょうか。マズダ様」
……スライムプレイ?
そう言うとヘルは優しくオレを起き上がらせてくれた。
「あっ、ありがとう……って、おい!」
そしてそのままヘルは臨戦態勢のスライムへと一直線に歩き出した。
「…………」
ヘルは何も言わずに猛然と飛び掛かってきたスライムに対してタイミング良くデコピンを食らわせる。
するとスライムの体は辺り一面に粉々に弾け飛び、しばらくしてから光となってその場から消失していった。
「ええ……勝ったのか」
「一応神ですし、流石にスライム程度には遅れは取りませんわ」
そう言ってヘルはオレに微笑みかけた。
ははは、オレはそのスライム程度にやられかけたんだけどね。
▽ ▽ ▽
はぁ……なんにせよ助かった。
ヘルが居なければオレは雑魚の代名詞スライム相手に死んでいたかもしれない。
彼女は命の恩人だ。
そうだな、今回の教訓。
今後はヘルの話はちゃんと聞こう、そうしよう。
こうしてオレの異世界での大事な初戦は苦い敗北という形で幕を閉じたのであった。
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