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3話 無気力の呪い

 城内を歩いている際にオレはヘルからこの国、リント王国についての説明を受けた。

 この国では古の時代より大小様々な危機が起きる度に異世界から勇者と称された一般人をフードデリバリー感覚で勝手に呼び出してきたらしい。

 ちなみにその選定に携わっているのが目の前にいる女神ヘルだそうだ。

 

 「それで勝手に連れて来られた人間は本当いい迷惑だな」

 「大抵の人間は最初は嫌がっていてもその内、自身が勇者である快楽と愉悦に落ちますわよ、寧ろそういう甘い考えの人間を選定しているのですけどね」

 「おい、さり気無いディスりとエッチな本とかにありそうな表現はやめろ」

 「わざと、ですわ」

 「けっ!」


 しかしこいつ、随分とハッキリ言いやがって。

 

 だが非常に残念ではあるがヤツの言葉には一理、いや万里ある。

 実際今のオレはどうせ現実に戻っても底辺生活送るだけだし、それならまだこっちの世界の方がマシかもと既に考えちまっているからだ。

 なにせここでのオレは世界を救う勇者様なんだ。

 待遇や周囲から感じる熱視線なんかは底辺工場の平社員の時とは訳が違う。

 

 気分もいいし、世界を救うってのが楽で簡単そうならここで幸せに暮らすも悪くないな。

 もしもキツくて辛そうなら王から金を出来るだけふんだくった後に何か理由を付けて上手い感じに失踪すればいい。

 どっちのプランを取っても現実よりも圧倒的にハッピーライフが送れる筈だ。

 

 そんで、だ。

 まずはこの世界がイージーモードか?ハードモードか?

 その見極めをする為にも勇者であるオレが立ち向かわなくちゃならない【呪い】ってやつがどんなものかを確認する必要がある。


 そんな訳で()()が分かるという王都の城下町までやってきたのだが……。


 「ここって……一応王都だよな?」

 「勿論ここは王都の中央街ですわ」

 「ガラガラッだな」

 

 オレは城下の街を見て唖然とした。

 中央街というだけあってレンガ造りの立派な洋風建築が立ち並んでいる通りは圧巻だが、一つだけ大きな違和感を感じる部分があった。

 

 違和感の正体は人の数だ。

 通りを行き交う人もそこにある商店も一様に疎らで、建物の数と規模に対して人の数が明らかに少な過ぎる。 

 ゴーストタウンとまではいかないが、あまりの活気の無さに少し気が滅入るレベルだ。

 ……廃墟好きとか退廃的な風景が好きな人にとってはたまらないんだろうがオレには刺さらなかった。

 

 「これじゃまるで地方都市のシャッター通りじゃないか」

 「地方はここの比ではありませんわ。呪いの影響で文明が崩壊寸前の場所すらあるそうで」

 「文明崩壊?その……ヘルだっけか?結局の所、呪いって何なんだ?」


 こんだけの人がいなくなる呪いだ。

 さぞかしとんでもない物なのだろうな。

 こりゃ逃げる準備をした方が良さそうか?


 「無気力の呪いですわ、リント王国では既に人口の7割が呪いの影響を受けているそうです」

 

 ヘルは至極真面目な顔でそう口ずさんだ。

 一瞬オレの頭がフリーズした。


 「へ?は?無気力?」

 「ええ、この呪いはあらゆる生命の気力を奪い、人格を陰湿に改変させて家に引き籠らせ、生産活動……果ては繁殖活動すらもストップさせるとても恐ろしい呪いですわ」

 「あ、あ~ちょっと~ヘルさん?」


 なんだそれ……本当に呪いか?

 確かに人口の7割もそんな奴らがいたらたまったもんではない……うん、ゾッとするな。


 「この呪いが発動できる存在はただ一つ、災厄の怪物、天魔ソリトゥス=インキャーラだけですわ」

 「ソリトゥス、イ、インキャ……」

 「どうかマズダ様!ソリトゥスを打ち滅ぼし呪いを解いて下さいませ!この世界を救えるのは勇者だけなのです!」

 「………………」


 ▽ ▽ ▽


 あほくさッ!!!!!!

 何が無気力の呪いだ?勝手にしてくれ。

 要は引きこもりを増やす呪いだろ?

 オレはそんなバカみたいな理由で滅ぶ世界に付き合わねぇ。

 

 そんな思いを抱きながらオレは再び王城の中へと戻ってきた。

 

 決めた、王に支度金をしこたま頂戴してここからどこか遠くへ離れる。


 「けっ、馬鹿馬鹿しい……ん?あの煙は……そうか、あそこは喫煙所だな」


 見るとそこにはしけた面した騎士どもが水の汲まれた壷の前で屯し一服していた。

 こういう光景はどこ行っても変わらんな。


 「おい!」

 「おぉ勇者様なにかご入用で?」

 「おうよ、煙草一本くれよ」

 「……それはいけませんぞ勇者様、あなたはまだ喫煙できる歳ではございませんから」


 うるせーよ!オレはもう30だぞ!

 ……と言いたかったがこの見た目じゃ流石に信じてもらえないか。


 「……それにこれが最後の煙草だったのです」


 騎士の一人が物憂げな表情で壷の中に落とした煙草を見ながらそう告げる。


 「どういう事だ?」

 「もう昨年の事になります、我が国の煙草産業は廃業したのですよ。王国の人手不足と食料生産優先政策によってですね……このご時世故、仕方のない事ですが」

 「まぁ人口の七割も引きこもりじゃそうなるか」

 「それだけじゃありませんわ」


 いつの間にやらオレ達の背後にはヘルが立っており、スルッと会話に割り込んできた。

 神出鬼没だな、神だけに。


 「それだけじゃない?どういう事だ?」

 「……滅びゆくこの世界に娯楽はもう殆ど残されておりません、煙草は廃止、お酒は減産、賭博は中止、娼館も廃止。そして使える人員の殆どが食料生産へと回されておりますの」

 「うええ、なんだそのつまらん世界は」

 「だから例え、お金を沢山持っていたとしても何もする事がありませんわ……今の所はですけどね」


 こいつ、敢えて含みのある言い方しやがって。

 逃げた先に娯楽も何も無いってんなら金を持ってのとんずらプランに意味は無い。

 ようはオレの考えに釘を刺してきやがったという事だ。


 「チッ、呪いとやらを解けば引きこもり共が再び働き出して娯楽も復活するって言いたいんだろ?」

 「流石、マズダ様はご聡明ですね」

 「そのノリ寒いからやめてくんない?……それで呪いを解く当てでもあんのか?」

 「ええ、勿論ですわ」


 勇者を導く女神ポジションの彼女の思惑通りに誘導されているのは癪だが仕方ない。

 このバチクソしょうもない呪いの解き方とやらを教えて貰おうじゃないか?


 「それで?呪いの解き方は……ん?」


 気が付けば騎士達が何やらこちらに熱視線を送っていた。

 

 「勇者様!呪いを解いてくださるのですね!」「世界をお救い下さい勇者様!」「勇者様万歳~!」

 「なんだお前ら!?」

 

 よく見ると一人の騎士の視線がチラチラと壷の中へと注がれていた……壷だけに注ぐってやつね。


 あ~そうか分かった。

 アレか?お前らは絶対、世界の平和云々よりも煙草が吸いたいだけだろ。

 ……気持ちは分からんでもないぞ、モクが無いと人生そのものが辛いもんな。


 「こっちはまだ完全に呪いを解くと決めた訳じゃねえぞ!……ヘル、あっちで詳しく話を聞かせろ」

 「はい、マズダ様ねっとり、しっぽり、ずっぽり、お教えしますわ」

 

 …………ずっぽり?


 ▽ ▽ ▽

 

 オレとヘルは騎士達のいた喫煙所を離れ、人気の無い広間のベンチに腰掛ける。


 「それでヘル、呪いを解く方法を教えてくれ」

 「呪いを発動させた張本人天魔ソリトゥスとそのしもべ達を倒す事ですわ」

 「……あーやっぱりそういうのなんだ」


 呪いの解除方法は至ってシンプルで単純明快なものだった。

 ……しかし、裏を返せばそのシンプルで単純明快な事を現状誰も達成出来ていないという事なんだがな。


 「呪いの件はこれ位にして、まずはマズダ様のステータスを確かめましょうか。今後の動きを考える上で必要になりますわ」

 「お、確かに……自分のステータス確認か。すっかり抜け落ちてた、早速見てみるか」


 まずは今のオレの実力をか。

 よく考えたらそうだよな、他人のステータスが見れたなら自分のステータスも見れる筈だ。

 勇者っていう位だし、さぞとんでもないステータスなのだろう。

 意識を自分自身に集中してみる……よし、うまくいった。

 

 視界に直接、オレのステータスが表示されていく。

 

 名前:マズダ(笑)

 性別:男

 種族:人間

 装備:黒影の装束

 武器:無

 レベル:1

 HP :12

 MP :10

 攻撃:1

 防御:3+15

 速度:8+22

 魔力:1

 賢さ:1

 運 :15

 特殊スキル:【ラアル】


 よっっっわッ!!!

 てか名前欄の(笑)はなんだよ!確実に誰かの意思が介在してるじゃねぇか!

 

 ……恐らくはプラスってのは装備で盛っているんだろう。

 それにしてもこれが本当に勇者のステータスか?


 「どうかなさいましたか?マズダ様?」

 「ヘル、それがな『えっ、私のステータス低すぎっ』みたいな……ん?なんだこれ?特殊スキル欄のラアル?」

 

 ラアルというスキル名がオレの口から告げられた瞬間、終始お淑やかで微笑を浮かべていたヘルの表情は鳩が豆鉄砲を食ったような顔へと変化を見せた。

 

 「ラアル……なんてこと、そんな!まさか!?」


 なに?なんだ?

 一体どういう事だってばよ!?

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