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1話 理想郷

 「よーし取り敢えず、こういう時はまず会社に連絡を……チッ、駄目か」

 

 携帯には通常ではあり得ない圏外の表示が出ていた。

 

 携帯が壊れている?

 まずいな……これじゃ無断欠勤と思われてしまう。

 かといって外に出る選択肢はないよな。


 ……何故なら。

 

 「勇者様どうかこの扉をお開け下さい」「どうか!勇者様!」


 外にはよく分からん怪しい宗教勧誘が出待ちしている状況だから。


 「……はぁ~勇者だのなんだのってあんなのに関わったら絶対ロクな事にならん」

 

 しょうがねぇな。

 ここはあいつらが立ち去るまで部屋でじっとしている他ない。

 外から聞こえる声を無視して玄関から廊下を通り、部屋の前まで辿り着いた……筈だ。


 「……へッ、部屋が無いッ!マイルームは何処に!?」


 どうなってやがる。

 オレが日常生活を営んでいた部屋のあった場所はまるで墨で塗り潰したかの様な黒い虚空の広がる暗黒空間へと変貌を遂げていた。

 

 「何だよこれ!一体何なんだよ!」


 その虚空は部屋だけでは飽き足りないのか、じわりじわりと足元の廊下をも黒く侵食していっている。

 

 「チッ!おかしいだろ!こんなの!」

 

 あの虚空に飲み込まれたらマズイ。

 本能がそれを察したのか、その場から飛びのいて玄関の前まで全力疾走で再び戻ってきた。

 

 オレが玄関へと辿り着いた時には謎の虚空は廊下を全て飲み込み、すぐ後ろにまで迫っていた。


 「クソッ!分かったよ。外に出りゃいいんだろ!出りゃ!」

 

 ……考えてる暇はない。

 ここで虚空に飲まれるよりは宗教勧誘に捕まった方がマシだ。


 「ええい!ままよ!ママッーーー!!」


 意を決し、玄関の鍵を解除しドアを開けて勢いよく外へと飛び出した。

 オレが外へ出たと同時に玄関のドアは虚空に飲まれて家毎この空間から消失した。


 「おぉ、勇者様戻ってこられましたか」

 

 オレが家から出てきたのを一人の男がすぐに気付き、声をかけてきた。

 聖職者?眼鏡をかけ、高価そうな杖を持った位の高そうな初老の男だ。

 

 ……何が戻って来られただ。

 クソッ!さっきの虚空は?てか家は?ここは何なんだ一体!


 落ち着け、まずは冷静になれ。

 こんな心理状態だと人は騙されやすい、ここにいるやつらがそれを狙って仕組んだ罠の可能性も考えろ。


 「はっー」 


 一呼吸置きクールダウンしてから先程の男に向き直る。


 「さっきいたおっさんか……一体オレに何があったのか、ここは何なのか詳しく聞かせろ」

 「えぇ勿論ですとも、私共にはその義務がございます。ですがその前にまずは着衣のお色直しをさせて貰いたいと存じます」

 「は?お色直し?なんでそんな必要が……ん?」


 男に問いただそうと一歩前に出ようとしたその時、体全体の違和感に気が付いた。

 なんだこりゃ!

 ……作業着がぶかぶかすぎて手が届いていない!まるで萌え袖みたいだ。

 いい歳したおっさんの萌え袖はきっついぞぉ。

 って違う!!


 ズボンもブカブカだし……これは、そうかこれはッ!……今日着た作業着が馬鹿デカいだけか。

 んな訳あるかい!もしかして背が縮んでいるのか!!

 

 ▽ ▽ ▽


 オレはさっきのオッサンの提案を飲み、服を仕立てて貰う事にした。

 流石にあんなぶかぶかの作業着のままでは動きづらいし面倒なので仕方がない。


 そしてオレは服屋かと思うぐらいに沢山の洋服が用意された部屋へと連れて来られていた。


 「どうでございましょうか、勇者様」

 

 メイド服を着た女性が大きな姿見をオレの前に持ってきて尋ねる。

 このやり取りはこれでもう三回目だった。

 

 しかし、ここのメイドは服のセンスが絶望的と言わざるを得ない。

 

 例えば一着目に着せられたのは……鎧。

 まばゆい光彩を放つ銀白色のフルプレートメイル(軽すぎるし段ボールとアルミホイルで作ったんじゃないか?)

 なんだこれは?コスプレか?


 ……二着目。

 どこかの国の王族の様にバチクソ派手な衣装と豪華絢爛な宝飾品で着飾られた服。

 流石に悪目立ちし過ぎるのでやめてくれと抗議した。


 そして現在の三着目に至る訳だ。  


 「よくお似合いですよ」

 「ま、まぁ、これなら」


 黒の羽織とそれに合わせたシルバーアクセサリーに、これまた中二病感のあるデザインの黒い衣装。

 前者の様なロクでもない服を着させられる位なら、これは千歩譲って多少痛い奴のファッションの範疇だし……しゃあない、これで妥協する事にしよう。


 「それでは勇者様のお召し物が決まり次第、謁見の間へとご案内するよう申し使っておりますのでそうさせて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」

 「……あぁ、いいよ。オレも聞きたい事だらけだしな」

 

 当然だ、聞きたい事は山ほどある。

 第一、勇者ってなんだ?

 それに、さっきから見かけるのは中世ヨーロッパ風のゴシックなファッションの奴ばかりだし、ここは本当に日本か?

 コミケ会場か?ハロウィンの渋谷か?悪いが、なんちゃらランドとかなんちゃらテンボスにも来た覚えはないぞ。


 「それでは、ついて来て下さいませ」

 「……あぁ」


 ……謁見の間って事はオレの話す相手は王様だろうか?

 それなりに偉い立場の人間である事は間違いなさそうだな。

 情報の無いままこのよく分からん場所から闇雲に逃げ出すよりもまず話を聞いてみようか。

 

 この場所、あるいはこの空間自体が色々とおかしな点も多い。

 そうオレの第六感が囁く……訳じゃなくて。

 

 姿見を見せられた時や着替えで脱衣させられた時に気が付いた事がある。

 オレの背はただ縮んだ訳でなく若返っていたと言った方が正しい。

 具体的に言えばアソコの毛が生える直前位にまでだ。

 顔も社会の厳しさをまだ知らない純粋無垢な美少年だった頃に完全に戻っていた。

 

 若返りなんてオレの知っている普通の世界じゃ絶対あり得ない事だ。


 そして特におかしかった点はコレ。

 例えば謁見の間とやらに案内してくれている、隣を歩くメイドに視線と意識を集中させると……。

 

 名前:メイドA

性別:女

 年齢:?

 胸 :普

 種族:人間

 装備:?

 武器:?

 特殊スキル:無

 レベル:5

 HP :?

 MP :?

 攻撃:?

 防御:?

 速度:?

 魔力:?

 賢さ:?

 運 :?


 「……勇者様、私の顔に何か?」

 「あ、あぁ~いや、別に」


 おっと、流石にジロジロ見過ぎたか。

 急いでメイドから目を逸らす。

 昨今じゃジロジロ見るだけでセクハラになりかねんからな、気を付けよう。


 おほん、とまぁこんな感じにオレの視界に入っている対象に意識を向けるとまるでゲームの様にステータスが印字された物が視界に直接映り込む。

 一体どういう技術だよ。

 てなわけで、ここはオレの知る現実とはちょっと違うおかしな場所という結論に至っている。


 なんて思案を巡らせているとメイドの動きが目の前の大きな扉の前でピタリと止まった。

 

 「勇者様こちらに見える扉の先が謁見の間でございます」

 「へぇ~こりゃ凄い」


 メイドは人どころか象でも入れそうな位巨大な扉の見える広間へとオレを案内すると軽く一礼してその場から立ち去っていく。

 

 「おーい勇者様こちらです、ささっ王がお待ちですぞ」


 そしてメイドと入れ替わるようにこちらにやってきたのは先程の聖職者風の男だった。

 彼はオレをそのまま扉の前まで連れていくと徐に扉をノックし「ザリオです、勇者様をお連れ致しました」と告げた。


 すると中から「入れ」という低く太い声が聞こえ、直後に扉がゆっくりと音を立てながら開いていく。


 聖職者風の男、ザリオはオレに手で合図を送り、扉の奥へと歩みを進めていった。

 

 「さてと、それじゃあオレもお邪魔しますよっと」


 そうだな。

 まぁぶっちゃけこれが夢でもドッキリでもはたまた新作VRゲームの宣伝でもいい。

 こういうのは騙されたもん勝ち、楽しんだ方が得だ。

 

 異世界から来た勇者が王様に話を聞く。

 なんか物語のテンプレっぽくていいじゃん。

 ……確か若い頃はそんなのに憧れてたっけな。

 

 忘れかけていた憧れを少しだけ思い出しながらオレは扉の奥へと進んでいった。

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