表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

走馬灯

作者: sordmany

【残心】

 宣託病院の一室に集まった人々が一人を囲んでいる。その一人、シンメンチアキが呼びかける。

「サトリ。みんな集まってくれたよ」

「父さん。俺だよ。ナツだよ。駄目だ。目を開けない。せっかく仕事を休んで来たというのに」

「お父さん。私、マフユだよ。もう私もお婆ちゃんになっちゃったけど、分かる?」

シンメンサトリは寿命を迎えようとしていた。サトリの娘マフユの夫クロオがサトリの息子ナツに言う。

「ナツの仕事は、何だった?」

「前も言ったよ。警察を定年退職した後は、ベンケイさんの警備員の仕事をさせてもらってる」

「悪い。最近忘れやすくってよ。もうすっかり爺さんだよ」

「クロオはタイガさんの道場で師範として現役だからすごいよ」

「まあな」

ゴショガワラマフユの息子コクヤがクロオに言う。

「父さん、最近腰が痛いって言ってたよね。あまり無理しないでほしい」

「おう、気をつける。それにしても、マフユに聞いたけど、ナツの家族はみんな夏に関係する名前って本当か?」

「改めて紹介するよ。僕の妻サミダレ、それから、僕の息子ウツセミ、それから、その妻のヒデリさん、それから、その一人娘のウリちゃん。一応みんな夏の季語に関係する名前だよ」

「へえ。何かの縁だな。ウリちゃんは何歳になった?」

「10歳です」

「もう10歳か。時の流れは早い。ウリちゃんがお婆ちゃんになるのもあっという間だぞ」

「え~、やだ~」

その時、サトリが呻き声を上げた。サトリの妻チアキが反応する。

「みんな!サトリが何か言った」

「え?お母さん、本当?」

「本当よ。見てて」

「……うー……まて……」

「本当だ。何か言ってる。でも何て言ってるの?」

「分からない。父さん、大きい声で言って」

「…ひなぎく」

その場にいる全員はサトリの言葉に驚く。

「サトリは夢を見ているのね。それも昔亡くなった妹の」



【昇天】

 サトリは夢を見ていた。自分が大切に思う人々が次々と現れては笑顔で手を振った。サトリもそれに返すように手を振った。しかし、最後に現れた、白いワンピースを着て麦わら帽子を被った女性は手を振らずに走って行った。

「待ってくれ!」

サトリはその女性を必死に追いかけた。サトリの足は老人から若々しくなっていった。気づくと、一面の花畑の中に着いていた。

「どこだ?」

サトリが見回すと、女性は一つ向こうの道に立っていた。サトリは女性の元に着くと言った。

「はあはあ…どうして逃げるの?」

女性は一つの花を指さした。

「これは…ヒナギクだ。もしかして、これを見せるために?」

女性は頷いた。その時、風が吹き、麦わら帽子が飛んでいった。女性の顔が露わになった。

「君は…」

風はどんどん強くなって、サトリが宙に押し上げられた。

「待って!君の名前は…ヒナギクなのか?」

女性は微笑んだ。サトリの周りにはヒナギクの花びらが舞っていた。

「うわああ!!」

サトリが夢から醒め、大声を上げた。チアキがサトリに言う。

「びっくりした!サトリ、起きたのね」

「あれ…?ここは…?」

「ここは宣託病院だよ。ほら、見て。みんな集まってくれたよ」

サトリは集まった人々の顔をゆっくりと眺める。その中にいた赤ん坊を見て、サトリははっとする。

「その子が気になるみたい。近くで見せてあげてくれる?」

コクヤの妻アサヒは抱きかかえる赤ん坊をサトリに見せる。サトリは赤ん坊の頬に触れる。

赤ん坊を見てウリが言う。

「赤ちゃん、笑ってる」

「本当ね。サトリ、知ってる?この子の名前、ヒナギクちゃんよ。サトリの妹と同じ名前の」

サトリはまじまじとヒナギクを見つめる。

「マフユとクロオの子の名前は黒い夜と書いてコクヤ。コクヤとアサヒさんの子の名前は春に咲く花ヒナギク。夜が明けたら日が昇るように、冬が明けたら春が来る。明るい兆しを持つ子という意味。サトリの妹もサトリにとってそうだったように」

サトリはもう一度集まった人々を眺めた。

「みんな、ありがとう」

集まった人々が泣いた。チアキが言う。

「泣いちゃ駄目。最後は笑顔でお別れよ」

集まった人々が笑うのを見て、サトリも笑った。死の間際、サトリは赤ん坊の奥に白いワンピースの女性が見えていた。サトリは天にも昇る気もちで昇天した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ