捌
読んで下さってありがとうございます!
予定より少し早いですが投稿することにしました。
「ストーリー1章序盤の道中敵だけか。全章の魔物を一気に追加してくれてたら楽だったのに」
もののついでにやっていたの魔物調査では、強敵を求める俺からすると大変不満な結果に終った。
一章の道中敵程度では、限界まで強化した最高レア度である【UR】のエリカのステータスを持つ俺にかすり傷一つ負わせることは出来ない。
お世辞にも、というか【UR】の中で最弱の耐久力を持つエリカスペックの俺に掠り傷一つ負わせられないとは、情けないやつらだ。
一章の敵で期待するとしたら中ボスかラスボスだろうか。
しかし、問題がある。それは中ボスも大ボスもエリカと同じくガチャで手に入るキャラクターなのだ。そして勿論、仲間にすれば親愛度を上げることが出来る。
つまり、俺と同じようにユーザーが能力を持っているはず。これは適当にバラ撒けばいいだけの雑魚敵とも、その場に放置しておけばよかった俺達とも、扱いが違う可能性がある。
しかし、具体的にどうなるのかが全く分からず、戦いを挑めない。せめて、いる場所のヒントだけでも欲しいのだが。
「エリカって、ずっと第三勢力でストーリーに殆ど絡まなかったから参考にならないんだよな」
ぶっちゃけ、エリカは居ても居なくてもストーリーへの影響が一部を除いて殆どないのだ。一章に至っては無に等しい。
『蠱毒の蜘蛛糸』にはギャルゲー風選択肢があり、どれを選んだかにより展開が変わるのだが、この変化が微妙なのだ。
主人公が言うボケの内容が変わるだとか、ヒロインの食べるランチメニューが変わるだとか、大筋に何も影響が無いようなものが多い。
稀に強制バッドエンドになる選択肢があったりもするが、その時はクリア済みの最終チャプターからやり直せるので問題ない。
「まぁ、俺にとってはエリカがいないとか大問題だけどな」
とにかく、ボス勢が俺と同じように自由に動いているとは考えにくい訳だ。なにせ、設定でボス部屋まで指定されている上、今のアンデッドみたいな魔物ばかりが出てくる理由もラスボスのせいだからな。
こいつがストーリーと同じ行動をしていなければ、現在の魔物のレパートリーになる筈ないので、最低限ストーリーに沿って行動してると思っていいだろう。
そのボス部屋も地下祭壇としか描写されてなかったので、当てにならないが。下手したらブラジル辺りにあるかもしれない。
そんなのを探しに行くくらいなら、日本にいるであろうユーザーを探せばいいだろう。一章ボス勢に限らずとも最強争いに参加できるようなキャラは沢山いるのだから。
それにしても……
「頭使ったら疲れた」
こういう時は楽しいことを考えるに限る。
家を出発する前にしていたエリカ(の剣と声)とのやり取りを思い出す。
あの時は幸せだった。エリカに包み包まれるのも幸せだったが、エリカ(の剣)が最初に吸った血が俺の血だという事も幸福感を更に増したのだ。思わずスキルで復活するまで没頭するほどに。(ストーン・イーグル? あれは石製なのでノーカンだ)
「ふひひひっ」
はぁ、思い出すだけで幸せだ。思わず幸福の笑いが漏れてしまうほどに。エリカに止められなければ頬ずりどころか、しゃぶり付いていただろう。
「あれは是非とも日課にするべきだな」
ジュルリ、と口元を拭う。
ここに至るまでかなりの数の敵を斬った。勿論その中には血が出るヤツもいた。だから一日の終わりに俺の血で上書きするのだ。
何なら抱き枕にしてもいい。俺の復活ペースならば、安全な寝床さえ確保出来れば可能な筈だ。よし、そうと決まれば安全な寝床探しも急ぐとしよう。
ああ、夢が広がるなぁ。
〔うっわ……〕
俺は幸せな未来を描きながら、ようやく見えてきたデパートの扉をバリケードごと蹴破った。
◆??? ???side
「ここ、何処?」
暗い、狭い、臭い。
目覚めると、何故か私は公衆トイレ程の大きさの場所に閉じ込められていた。しかも異常に腐敗臭が強烈だった。最悪である。
とても長居したくない場所なので、すぐに出ようと壁を叩いたり蹴ったりしたがビクともしない。仕方ないので脱出のヒントを求めて、起きる前の最後の記憶を思い起こす。
たしか私は昨日の夜、泥酔しながらベッドにダイブした筈だ。その後は……
駄目だ、それ以降の記憶がない。我が脳味噌ながら、なんてポンコツなのだろうか。
「マジ最悪」
取り敢えず状況を把握したいが暗くて何も見えない。何か明かりになる物はないかとポケットを漁ればスマホがあることに気付いたので画面を開いた。
そこには、いつも通りの『コグモ』ホーム画面。どうやら、私のスマホに関する最後の記憶は全て残っていたらしい。
「ああ、リコリスぅ」
ホーム画面を陣取る自分の推しキャラを眺め、だらしない顔を晒す私。異常事態により荒んでいた精神が安定していくのを感じる。
はぁはぁ、リコリスたんマジ天使。
「あっ、運営からメッセきてる」
珍しいこともあるなと、状況も忘れてメッセージを開くと私の中に何かが流れ込むのを感じた。
『おめでとうございます。
全プレイヤー中でリコリスの親愛度が最も高い貴方へ彼女の能力を進呈します。能力はステータスで確認出来るので、ご自身でご確認下さい。
所持アイテムやキャラクター等は一部を除きリセットされますので、ご了承下さい』
「どういうこと?」
メッセージを読み終えると、スマホは空中に溶けるように消える。本当に意味が分からない、脱出の謎を解くためのヒントを探していた筈なのに、謎が増えてしまった。これは、新手のゲームイベントだろうか?
また混乱してきたので、取り敢えず脳内で推しキャラを思い描く。スマホが無くなったので苦渋の決断だが、やらないよりは遥かにマシだからだ。
そうして落ち着いていく思考の中、余裕が出来た彼女は常日頃から思っていた不満をポロッと零す。
「リコリスたんの専用装備が、あんな気持ち悪い杖じゃなければ、もっと最高だったんだけどな〜」
まぁ、そんな欠点は無視できるくらい天使なのだが。ストーリーはホント泣けました。さて、落ち着いてきたし脱出のことを考えますか。
それにしても、さっきの感覚は何だったんだろ。
〔姉上を侮辱したな?〕
声が聞こえた。自分のものではない、誰かの声が。この機を逃す訳にはいかないと、声を張り上げ助けを求める。
「誰かそこにいるんですか!? 助けて下さい、妾はここです!」
どうか、気付いてくれますように。そう願いながら叫んだ言葉に違和感を感じた。
えっ? さっき私、なんて言ったの?
私は妾じゃなく私、あれ、妾だっけ? いやでも私はワラワダカラワタシデワタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタ────
「ふむ、終ったか」
そう呟くと、腕を一振りする。それだけで彼女を閉じ込めていたモノは砕け散った。
その後、上体を起こした彼女は日本人離れした紫の髪と瞳を持つ、美しい少女だ。
視界の端に自分を閉じ込めていた大きな棺が映っても、彼女は一切の興味を示さない。まるで知っていたかのように。
「あやつめ、何が救済か! 期待の『綸』が何もせぬ内にコレとは、詐欺もいいところじゃ!」
怒りに任せて他の棺桶も破壊していく。
彼女が……リコリスが怒っている理由は簡単だ。自称『上位存在』とやらが、この世で一番自分を愛してると太鼓判を押された相手が、彼女の最も大切な存在を侮辱し貶めたからである。
暴れた事で少しは落ち着いたのか、リコリスは僅かに冷静さを取り戻した。
しかし、このままでは怒りが再燃する事は確実。なので、少し考え方を変えることにした。
「赤の他人に妾の力を使わせた挙げ句、悲願の成就を託すというのが、そもそも無理があったのじゃ。ならば自由に動ける今の状態は都合がいいのではないか?」
そうだ、そう思うことにしよう。それに妾の隣は姉上だけのモノ。そこに、あのようなアホ娘を座らせるなどゾッとする話だと。
「やはり妾を愛してくれているのは姉上だけじゃな」
虚空より取り出した杖の先を優しく撫でる。その杖は一部を除いて特徴のない木製の簡素な杖だった。
リコリスは思いを馳せる。かつて姉と二人で静かに暮らしていた、最も幸せだった過去へと。
「ふぅ」
思い出に浸った彼女は決意を固めた。今までよりも、さらに強固なモノへと。
「妾は悲願の為ならば何でもしよう。そして悲願の障害となるならば、全てを排除してみせよう」
妾の命と、この杖に賭けて。
リコリスに優しく抱かれた杖には、生首が飾られていた。
読んで下さって、ありがとうございました!
次話は15時過ぎに投稿予定です。
下記に別の連載作品のリンクがあるので、読んで下さるとありがたいです!