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参拾・伍 【ゲームストーリー未実装編】

 読んで下さってありがとうございます!

◆『姉』 零









 薄暗い階段を少女が一人、ランタンの灯りだけを頼りに歩く。地下へと続くこの階段は冷たい石材に囲まれたカビと蜘蛛の巣が張り巡らされており、手摺りすらない。


 そんな、大人でも嫌がるような場所を少女は嬉々として進んでいた。




「あの子は喜んでくれるかしら?」




 そう言って後ろから響く()()へと目を向ける。


 少女は()()ではある。それは人間の数であり、そこに『インテリア』の()()はカウントされていなかった。




「頼む、助けてくれ」




 四つある()()の一つが縋り付くような視線で少女へ訴え掛ける。


 その()()は人間でいうところの二十代男性と同じ見た目をしており、身体能力も同等だ。なのに、少女へ懇願する。まるで他に希望がないように。


 その個体は腕力での解決など考えない、それは無駄な足掻きと知っているからだ。この階段に来る前の()()()()が、目に焼き付いて離れないのだろう。




「駄目よ、許可するまで口を開いちゃ」




 えいっ。


 可愛らしい声と共に振るわれた腕は、勇気ある()()()に変えた。真っ紅な見応えのある大輪だ。




「「「……」」」



「さっ、行くわよ」




 顔についた雫を妖しく一舐めすると、少女は冷たく告げる。どの個体も少し体を震わせただけで何も言葉を発さない。不良品はもう無さそうだと少女は安堵した。


 そうして進んだ先に鉄で作られた大きな扉が現れた。数百キロは降らない重量の扉を苦もなく開けると少女は中の住人を呼び出す。




「リコリス、出ていらっしゃい。プレゼントもあるわよ」




 優しげで慈愛に満ちた母性すら感じるその声は、()()への冷たい声など嘘のようだ。


 少しすると、トテトテと可愛らしい幼子が現れた。()()を先導する少女より更に幼い小さく可憐な子供が。




「あねうえ、いらっしゃいなのじゃ」



「お出迎えありがとう、リコリス。いい子にしてたかしら?」



「もちろんじゃ!」




 二人は姉妹なのだろう。姉上と呼ばれた少女はリコリスと呼んだ妹を溺愛していると分かる猫撫で声をしていた。心底から愛しているのだろう。


 リコリスは舌っ足らずな言葉に穢れを知らぬ無垢な笑顔、幼気とは彼女の為にあるのだと誰もが思う振る舞いだ。


 まぁ、それも──




「あら、今日のもよく出来てるわね」



「えへへ、じしんさくなのじゃ」




 絵が彫られた髑髏(しゃれこうべ)を持っていなければだが。


 何度も修整した跡の見えるその絵は不慣れなであった事が窺えたが、それと同時に元からあったであろう(ひび)を活かしてもあり幼子の発想の柔軟性も分かる。


 見るものが見れば将来有望だと太鼓判を押すに違いない。




「それは似顔絵かしら、誰を描いたの?」



「むぅ……」




 『姉』が優しく問い掛けるとリコリスはモジモジと言い淀むが、やがて意を決したように顔を上げ髑髏を差し出しながら告げた。




「……その、あねうえを、かいたのじゃ。うけとって、くれるかのぅ?」



「……」



「あ、あねうえ?」




 『姉』は無言で涙を流す。ついでに鼻も垂らす。


 これは勿論、嬉し泣きだ。溺愛する妹が自分のために物をくれただけでも十日は不眠不休で働けるというのに、あろうことか妹自ら絵を彫ってくれたのだ自身の似顔絵を。『姉』は、今この瞬間の為に生きてきたのだと確信した。


 姉として不甲斐ないところを見せたくないので、上を向いて涙が止まるのを待ち、その後は目一杯お礼と頬擦りをして甘やかそうと考えていると、思わぬ邪魔が入る。到底許せぬ邪魔が。




「ヒィィィィィ! 誰か助けてくれ!!」




 ()()の一つが逃げ出したのだ、それも二人の会話を遮る大声を出して。絶叫しながら鉄の扉を開けようと足掻く。


 幼子の手に持つ『インテリア』を見て、自身の未来を悟ったのだろう。『姉』が号泣して出来た隙をを突いて全力で駆け出したのだ。


 しかし、『姉』が軽く開けたその扉は見た目の通り超重量を誇る。凡人の身体能力しか持たない()()に開けられる筈がなかった。


 そして、仮に開けられたとしても逃げ切れはしなかっただろう。




「貴様、よくも邪魔してくれたな」




 なぜなら最悪の姉妹が触れ合う時を邪魔したのだ。例え何処に逃げようと、地の果てまで追ってくることは鬼と言うのも生温い表情を見れば理解は容易いのだから。


 他の二つが逃げなかったのは先程までのように絶望していたからではない。単に腰が抜けただけだ。全ての()()が今まで逃げなかったのは、それが生き残れる確率が最も高かったからだ。


 長いものには巻かれ、そこに疑問を挟む事もなく流されるままに生きていたら最果てである処刑場(ここ)まで来てしまったのだ。もう逃げ場など何処にもない。


 無様に足掻く()()は癒やしの光を纏う『姉』の掌に触れた途端、内側から弾けるようにして息絶えた。




「また不良品、あの業者はダメね」




 粗相をする残りの()()を見て確信する『姉』。業者については同業を聞き出した後に、不良品の対価を払わせるつもりだ。楽には殺さない。


 凍えるような声音で言い捨てる『姉』の袖を引く者がいた。




「あねうえ、もらってくれないの?」




 最愛の妹だ。


 目の前の惨状など一瞥もせず寂しげに『姉』へ問うその様は、彼女の母性を刺激した。それはもう強烈に。



「ああん、リコリス! もちろん貰うわ、ありがとう!」




 デレデレと頬擦りしながら蕩けた声と顔でリコリスに返答する。リコリスも、そんな『姉』を見て嬉しそうに自作の『インテリア』を渡す。


 『姉』は、それを壊れ物でも扱うかのように優しく受け取るとリコリスが彫った絵を、うっとりと眺めた。




「リコリス、ずっと一緒にいましょうね。お姉ちゃんとの約束よ」



「もちろんなのじゃ!」




 ずっと一緒、これは『姉』の口癖だった。


 そして姉妹共通の願いであり、これからもずっと続くと思っている事柄。


 事実、それは姉妹それぞれの尽力によって護られる。姉は自身の首を斬られようが妹のもとへ戻り、妹は異世界に行っても姉を手放さなかったのだから。


 でも、それは形だけの話。


 姉の意識は眠りにつき、妹は姉の死を確信して孤独を感じる事になる。


 近くにいようと相手を感じられないのなら、それは『一緒』と言えるのか。それは当人達のみが決められる事である。

 読んで下さって、ありがとうございました!


 下記に別の連載作品のリンクがあるので、興味のある方は読んでみて下さい!

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