参+肆
読んで下さってありがとうございます!
気が済むまで嗤った後、俺は今後について考え始める。千里の道も一歩から、ゲームのスタートダッシュ、これらから分かるように最初は肝心だ。
候補として思いついたのは、食料確保、外の情報収集、運営メッセージに書かれていた『能力』の確認、エリカに構ってもらう、こんなところだろうか。
悩むな。食料確保と情報収集は終末世界モノで一、二を争うほど重要視される。
軽く理由を述べるとすれば食料は生きていくのに必要不可欠で、情報は死のリスク全般を減らせるからだろうか。多くの場合、信頼できる仲間を探すのも同じくらい重要だったりするが俺には必要ない。と言うか居てはいけない。
俺が目指す最強『証明』とは、文字通り最強の個の証明だ。他人と一緒に倒したのでは、敵より強かった証明になどならないからな。
仲間を集められるのも強さの内かもしれないし、他のヤツが何をしようと勝手だが、俺はやらん。エリカも嫌がるし、『能力』的にも向いてないだろうしな。
話を戻すと、次は『能力』確認の重要性だろうか。『能力』は変わってしまったこの世界、謂わばゲームに侵食された世界を自分が生き抜き、敵を殺す為に必要な力だ。
自身が出来る事を把握する事は如何なる時も重要だ。これをすることにより、無謀な行動に出る可能性が激減し、仮に無理を通さねばならないときも事前に覚悟を決められ、いざという時に普段以上の力を出しやすくなる。
精神論も混ざっており信頼性に掛けると思われやすいが、この手のモノは意外とバカに出来なかったりする。
それに、外を見たとき警官がゾンビの魔物に向けて発砲していたが、あまり効いてる様子はなかった。
見間違いでなければ、皮膚で弾いていた。ゾンビとは言え、やられ役の定番であり、『コグモ』でも最弱クラスの力しか持たないゴブリンが。
それを考えるに、創作で稀にある設定と同じく現代兵器が通じない可能性が高そうだ。もはや、『能力』確認は急務と言えるかもしれない。『能力』でしか、魔物に抗えないのかも知れないのだから。
最後に『エリカに構ってもらう』を挙げた理由は簡単だ。
俺のモチベUp、以上。
うむ、どれも悩ましい限りである。全て甲乙付け難く、紙一重の差とはこのことだろう。
「……なんてな」
こんなの悩むまでもない話だった。
それなのに優柔不断な俺はグダグダと理屈を並べて結論を後回しにしていたのだ。
まったく、何が孫氏だ。こんな重要な選択をする時に、取って付けたような他人の言葉を使うなど、まさしく覚悟の決まってない衆愚の発想ではないか。
こんな覚悟で、今の終末世界を生きて行こうなど片腹痛い。俺は『孤高の復讐鬼』エリカ・デュラの能力使いだ。それに相応しく在らねばならない。
今度こそ覚悟を決め、言葉にしてみせよう。もう結論の出ている答えを口にするだけだ。覚悟の決まった俺に怖い事なんか何もない。
俺の答えとは。
「さぁエリカ! 二人の今後について話し合おうじゃないか!」
『エリカ(13歳)に話し掛ける』だ。
種族は人外らしいからギリギリだけど色々セーフだよな!
◆
「やっぱり駄目か……」
覚悟を決め手から小一時間後、俺は跪いて消沈していた。
常に手を変え品を変え呼び掛けてみたが、会話はどころか何の反応もなかった。無念。
「まぁ、しょうがない」
恐らくエリカが俺に言葉を返さないのは何か理由があるのだろう。
理由は、得も言われぬ事情があるかもしれないし、単に俺への興味がなくて見てないだけかもしれない、もしかしたら俺の声そのものが届いてないのかもしれない。
何も分からないが、その内分かる時が来るだろう。それまで待つだけだ。
「……よしっ」
そうと決まれば気持ちを切り替えて、今はやるべき事をやるだけだ。
俺は頬を叩いて気合を入れ、残った3つの候補を思い出す。どれから考えようか。
「まずは『能力』確認だな」
3つの中で俺が『能力』確認を優先した理由は2つある。1つ目、自分の強みと弱みを認識することにより、それに合った情報を集めるためだ。どうしても単独行動では人手が必要な情報集めが弱いので、集め情報を限定して弱みを消そうと思ったからだ。
2つ目の理由は、実際やらなければ分からないが、上手く行けば食料確保をしなくて済むかもしれないからだ。うまい飯を食うのは好きだが、別に食えなくなるわけでもないので、解決出来るならしたいというのが本音だ。
こうして上げていくと、『能力』確認で間接的に他の2つも調べられるので、これが一番いいだろう。
……3つの中で一番エリカに近しい内容だったことは関係ない。ないったらない。
多少、ステータスの確認方法に迷ったが、スキルを発動したときの用量でメニュー画面を意識すれば、目の前に半透明のウィンドウが現れたので、後はステータスの項目を探し選択するだけだった。
パッと見、メニュー画面はゲーム時代と同じだったので、その点は使いやすくてありがたい。
「では、ご開帳っと」
ユーザーステータス
名前 :【ルーベン】
レベル:【150】
能力 :【エリカ・デュラ】
クラン:【ー】
ユーザーステータスはゲーム時代と、そこまで差異はない。強いて言うならば『能力』の欄が追加されているくらいだろうか。
他の欄の『レベル』『クラン』は勿論のこと『名前』まで同じだったのは少し驚いた。これは日本人としての名前を捨てて『コグモ』での『名前』で生きろということか?
「別に構わないけどな」
自分で名付けたのだから当然かもしれないが、『名前』は割と気に入っている。さらに、『名前』はエリカが呼んでくれたことで俺の中で箔が付き、絶対に手放せないモノとなった。(むしろ、エリカが俺の日本人名を知らないと思うので、日本人名の方はいらないまである)
今回の事は渡り舟かもしれない。
過去の全てを諦めて惰性でゲームを続けていただけの情けない俺との決別に。今後は生まれ変わったつもりで生きていこう。
「本命の『能力』はどうだ?」
ステータス【エリカ・デュラ(UR)】☆5
親愛度:10202
能力値
・ATK:7000
・VIT:1000
・DEX:2000
スキル
・アクティブスキル
名称:【自己完結】
効果:[50秒間、自身に【デバフ無効】【ATK+100%】のバフを付与]
名称:【絶対制裁】
効果:[最もHPの低い敵単体のバフ全て解除、ATKの1200%ダメージ]
名称:【同胞渇望】
効果:[敵全体へATKの800%ダメージ、自身以外の味方全体へ最大HP15%ダメージ]
・パッシブスキル
名称:【怨憎会苦】
効果:[戦闘時に敵と味方の数によりATKが変動する(自身以外の味方が2人の場合、補正値が0。味方が1人増えるごとにATK−100%、味方が1人減るごとにATK+100%)]
名称:【復讐誓約】
効果:[300秒に1度、HPが0になった際にHPが最大値で復活]
メニュー画面やユーザーステータスを出した時と同じように『能力』の選択を念じると、思った通り内容が表示される。
見なくとも言える程に繰り返し目に焼き付けた俺が育てたエリカのステータスだった。細部は多少なり異なっているが、概ねゲーム通りである。
「ストーリーのエリカ能力じゃなくて、ゲームの戦闘システム由来の力なのか」
初めてスキルを発動した時から予想はしていたが、それでも目で見て確信を持てると安心感が出る。
一応、【絶対制裁】を発動した要領で他のアクティブスキルも試すが、問題なく発動した。現在は試しにくいので後回しにしたが、恐らくパッシブスキルの方も発動するのだろう。
また、『蠱毒の蜘蛛糸』はターン制ゲームだからだと思われるが、スキルの発動時間が変わっていた。ステータスの細部が変わっていたのはその部分だ。
具体的には、スキルの発動時間が1ターンから10秒に、1度の戦闘に1度だけ発動するスキルは300秒に1度へ変わっていた。
それもゲームシステムを無理矢理や現実化した結果生まれた歪みであるのだろうが、害は無いと思われる。実際に使ってみないとなんとも言えないが。
仮に何か副作用があって、それが理由で死んだとしても本望である。
『能力』を与えたのが『コグモ』運営だったとしても、俺にとって『能力』とはエリカの一部だ。そして『能力』が原因で死んだのなら、それはエリカに殺されたに等しく、恨みなど抱く筈もないし、『能力』を持ったまま死ねるのなら、最後までエリカを感じながら死ねるのだ。これ程の素晴らしい死に場所はない。
まぁ、その場合は志半ばで死んでいると思うので、それが心残りとなり死にたくないと思うかもしれないが。
そうこう考えている内に自身に起こる異変に気付く。
強烈な寂寥感と、薬物の禁断症状の如き治まらない渇望、これは──
「エリカに構ってほしい……」
やっぱり、しょうがなくなかった。
どうしよう、抑えきれない。
俺のエリカ好きは想像を遥かに超えていたようだ。思考がエリカ以外に何も考えられなくなる。
「話したいよ、エリカ」
異常は精神だけは収まらず、肉体にまで出てきた。
最初に感じたのは寒気だった。そこから全身の鳥肌が一斉に立ち、震えとが止まらなくなる。
「寂しいよ、エリカ」
次は強烈な吐き気と目眩だ。足から力が抜けていき、尋常ではない倦怠感と同時に、視界が白く染まっていく。
自然と口が開いくのを感じるが
「会いたいよエリカ、構ってくれエリカ、触れ合いたいよエリカ、無視だけは止めてくれエリカ、エリカエリカエリカエリカエリカエリカエリカエリカ………」
揺れる視界で、うわ言のように感情を垂れ流していると天啓のような発想を得る。それは数少ない、俺の意志でエリカを感じられる方法だ。
「エリカはココにいたんだったな」
自分でも何を言っているのか、半分理解できないまま口に出したソレは俺にとって間違いなく希望だった。
薄れゆく意識の中で縋り付くように、俺は何時の間にか閉じていた『能力』ステータス画面を開く。
「やっと、会えた」
内心で吹き荒れていた渇望と、どんどん大きくなる孤独感が満たされた事による安堵で和らいでいく。
ステータス画面には直接触れられないので、突き抜けないように気を付けながら、表示されるエリカ・デュラの文字を優しく撫でる。
触れられない事を寂しく思いながらも、そんな自分の女々しさに苦笑が漏れる程度には今の俺は余裕があった。
落ち着いてくると自分がどれだけ不安定だったか理解できる。最愛のエリカに話しかけてもらえた事で自分でも無意識の内に、さらなる関わりを求めていたようだ。
なんと強欲なのか。
そう自己嫌悪に陥りかけるも、またあの状態に戻るのは嫌なので全力で抗うが、ジリジリと精神が昏い場所へ近づくのを感じられた。
いかん、楽しいことを考えて持ち直さなければ。
その一心で、ステータス画面を凝視するが、エリカニウム(ルーベン専用の精神安定用物質)を補給して何とか持ち直して、はぁと溜め息を吐く。
「切りが無い」
思ったよりも安定していなかった自らの精神を嘆く。何か手っ取り早く全快になる方法は無いかと考えていると、あることに気づく。
ステータスとは多くのゲームがそうであるように、『蠱毒の蜘蛛糸』でも自身の状態やスペックを示す、現実の制度に例えるなら身分証のような物だ。
そんな俺の身分証で輝くエリカ・デュラの文字。これが示すことは。
「俺とエリカが一心同体だという事か」
恋人のように個人間の約束で成り立つフワフワした関係ではなく、夫婦のように紙切れ一枚で関係を左右される薄い関係でもない。
俺の中にエリカがいる。
これで俺達が恋人や夫婦の概念を超越した新しい存在だと証明された訳だ。最高だ、人生で最高に気分がいい。
しかも俺が愛を証明出来れば、今よりさらに上の関係になれるかもしれない。裏切ってなどやるものか、誰にもこの立場を渡さない。
そう、なぜなら──
「エリカは俺だけのものだ」
さっきまでが嘘のように元気を取り戻して、独占欲に燃えた俺は完全に復活を果たした。
単純だとバカにすることなかれ、俺みたいにエリカさえいれば生きて行けるような単純な生き物は、単純な理由の方がパワーが出るのだ。
エリカとの絆(?)を目視した俺は上機嫌になった。
〔……気持ち悪いことを言わないでくれる?〕
おっと、口に出てたか。思考を纏めるときに口に出すと纏まりやすいから、無意識に内心を喋っちゃうんだよな。
いや、それよりも重要な事が起きてた。
「エリカ!?」
それは俺が狂おしい程に求めていた、エリカの声だった。
読んで下さって、ありがとうございました!
次話は18時過ぎに投稿予定してます。
下記に別の連載作品のリンクがあるので、読んで下さるとありがたいです!