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弐拾玖 

 読んで下さってありがとうございます!









 『闇落ち』に対を成す『光堕ち』をご存知だろうか。


 『友情、努力、勝利』の週間雑誌やドラゴンのクエストなんかで頻繁に目にする王道(パターン)だ。


 主人公やプレイヤー達が苦労に苦労を重ねて、ようやく倒した敵が共に戦う仲間になる胸熱展開で、多くの創作で取り入れられる要素なのだが、ここに一つ落とし穴がある。


 元敵の彼等は敵の時は強いのに味方になったら、高確率で弱くなるのだ。


 今回のこれはキャラクターの個性(スキル)が尖り過ぎていて使いにくい、という話ではなく単純に味方化イベントの後に発生するステータスの強制弱体化の事である。


 そして、多くの作品に取り入れられてるこの要素は『コグモ』にも含まれていた。ガチャ入手可能なボスは弱体化するという形で。


 具体的な弱体化内容は二つだ。全ステータスをレア度毎の上限枠まで落とすこと、そして()()()()()である。


 大抵、変更されるスキルはボス毎の最も猛威を振るったスキルとなるが、一章ラスボスであるリコリスは数少ない例外として他のスキルとなった。


 これは当然だろう。なにせ【従僕生成】のないリコリスなど一つ下よレア度であるSSRよりも弱いのだから。


 だからリコリスの弱体化スキルは二番目に強いスキルとなった。【従僕生成】(壊れスキル)に次ぐ強さを持つ準壊れスキル。


 その名を【紅涙に沈む】と言った。










◆ルーベンside









「教えろ、教えろぉぉぉぉっ!」



「あはははははははははっ」




 笑う嗤う哂う。


 弾ける腐肉、叫ぶ敵対者(リコリス)、一歩間違えれば死ぬ緊張感。良い、実に良い。


 俺は戦闘が好きだ。縛りを入れてのボス戦も、まず勝てるように設定されてないエンドコンテンツに永遠と挑み続けるのもだ。


 だが、イージーモード。テメェは駄目だ。


 弱い敵に、勝って当然の戦闘。そこにワクワク(緊張感)はなく、達成感もない。あるのはただ先に進めた事実と機械的な動作のみ。


 今のリコリスと戦っていると、これ以外の戦闘など全てお遊びに過ぎない事がよくわかる。雑魚敵など言うに及ばず、数だけの腐肉戦士や【紅涙に沈む】を使ってなかったリコリスも口だけが達者な臆病者だ。


 しかし、今は違う。


 二発も喰らえばHPが全損する程に強化された無数の【自爆】にリコリスのVITとパッシブスキルを活かした積極的なタンク役。これで俺は容易に腐肉戦士へ【絶対制裁】を叩き込めなくなった。


 ついでと言わんばかりに何処からか拾ってきたリコリス手製の『インテリア』だが、コイツも俺と同じ『能力』持ちなようで、そいつも腐肉戦士に括り付けられリコリスの指示で攻撃してくる。まぁ、こちらはデバフ主体のようで俺に効果は薄いが。




「ほらリコリス。取り返してみろ」




 姉の復活をちらつかせただけで、この頑張りようだ。ならば、杖を取り上げればリコリスはさらに頑張って強くなるのではないか?


 そんな疑問の答えを得るべく実行に移したが、結果は大成功だった。彼女は口の端から泡を吹き、目を血走らせて襲ってくる。俺の速度が未だに勝ってるからこそ、出来る芸当だな。




「ふざけるな! 殺してやる、殺してやるぞ!」



「はははっ、質問の答えは必要ないのか?」




 そのまま【絶対制裁】のバフ解除と速度を活かしながらヒットアンドアウェイを繰り返し、時にリコリスを杖で殴ったりをしていると、あることに気付いた。


 リコリスが腐肉戦士の【自爆】でダメージを受けているのだ。




「そう言えば、腐肉戦士からダメージを受けないのは杖のお陰だったな」




 リコリスの殺る気を出させるという点では大成功だったが、これは駄目だ。専用装備由来のパッシブスキルを二つも使えなくなるのは痛すぎる。


 舌打ちと共に投げ返せば、ボロボロの体で杖を必死に抱き締めるリコリスが目に入った。




「早く立て、そして戦おう。姉の生存証明はすぐそこだぞ」



「……」




 しばらく立たなかったので発破をかけると、無言で立ち上がる。それでいい、もう()()()()()()()()()()()()()()、一秒たりとも無駄にしたくない。


 以前の面影が消えるほど凄まじい形相で睨んでくるリコリスだが、彼女が【紅涙に沈む】を使ってから一つの変化がある。


 それは彼女が足元から徐々に紅く染まっていることだ。


 ダメージを負ったからではく、ましてやバフを与えるものでもない。この紅こそリコリスの姉が生存していると証明する一部なのだ。


 ゲーム時代ではターン数の関係では有り得なかった紅化が全身を包み、リコリスが意識を失えば姉の生存は『証明』はされる。現在は、腹の辺りまで進んでいるので順調だろう。


 リコリスの姉の力は凄まじいらしく、運営はリコリスの姉をストーリー後半のボスにしようと考えていたらしいが、話の流れ的に出しにくくなり諦めたそうだ。


 正直、思ってもいなかった強敵と戦えそうな事実に喜びが凄まじく、リコリスとの戦闘ですら楽しくて理性が飛びそうなのに、更に強い姉まで出てくるとは最高と言う他ない。無論、エリカ関連を除いてだが。


 それに、理性を飛ばす訳にもいかなかった。何故なら以前のように手段と目的が入れ替わってしまうから。俺の最優先事項はエリカであり、他の全ては二の次三の次だ。


 俺が必死に理性を手放さないように耐えてながら腐肉戦士を殲滅していると紅化が首まで進んだリコリスが俺へ話かけてきた。




「今まで不思議だったのじゃ」




 まるで独り言のようなソレは、しかし俺の目を捉えて離さず、また交渉で事を収めようなどと言う逃げ腰は感じられなかった。




「なぜ、この玉を持っておれば『戦闘システム』以外の力を使えるのか」




 そうして取り出したのは黒い球体の水晶。うむ、やはりエリカの【阿鼻決別】から出る霧の方が綺麗だ。


 リコリスは割りと衝撃の事実を言っていたが、俺にはエリカに勝るものは無いと『証明』する事の方が重要なので、そんなことに対するリアクションは後回しである。




「残念ながら妾の頭脳を持ってしても答えはでんかったが」




 なら、言うなよ。そう思ったが、続きがありそうなので黙って聞く。頼むから今の気分を白けさせる事を言ってくれるなよ。




「じゃが、この玉が妾に力を与えてるのは本当なのじゃろう。クソとは言え、神手製の品だけはある」




 何が言いたいんだ? もうリコリスの紅化は終わっていた。くだらない話なら聞く価値はないし、さっさと姉を呼んでやろう。リコリスお望みのな。




「手に持ってるだけで、それなりの力を得られるコレを呑めば、妾は更に強くなれるのではないか、そう思ったのじゃよ」




 長話に飽きた俺が、少し前に与えたダメージが抜けきらないリコリス諸共【同胞渇望】で蹂躙しようとしたところ、黒い水晶を飲み込んだリコリスに変化が起こる。


 それは期待通りの結果であり、そして期待以上の結果も同時にやってきた。




(リコリス)を虐めたのは誰だっ!?」




 それは、ストーリーで少し出たきりだったリコリスの姉と──




「ああぁぁぁぁぁぇぇぇっ!!」




 白目を剥き、絶叫しながらも()()()()()()()()()()()()()で腐肉戦士の【召喚】を繰り返すリコリスの姿だった。




「拾い食いして、理性も意識も失ったか。俺には好都合だけどな」




 現在の俺はノーダメージの【復讐誓約】のクールタイムも終わってる万全の状態だ。問題なのは全裸なことくらいだが、大した問題じゃないな。


 そうして、未知の強敵に尋常ではないパワーアップを果たしたリコリスに突撃した。

 読んで下さって、ありがとうございました!


 下記に別の連載作品のリンクがあるので、読んで下さるとありがたいです!

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