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拾漆 

 読んで下さってありがとうございます!

◆マトンside





  


「ちっ、だりィなァ」




 ペっ、と唾を吐いてガニ股で歩きをするのは『自称』神と最高の女に選ばれた男であるマトンだ。彼は苛立ちを隠そうともせず練り歩いているが、それには理由がある。


 マトンは、ついさっきまで()()()()の真っ最中だったのだ。生の人間相手には初めての体験で心底から楽しんでいたところ、連続する爆発への怯えが限界となった避難者達に様子見を頼まれたのだ。


 何度も行ったばかりだから必要ないと突っ撥ねたが十を数えた辺りで、他の避難者の声が鬱陶(うっとう)しくなり渋々行くことにしたのだ。




「まだ、メインを()()()なかってのによォ」




 リーダー勢の菅谷とか言う女、なかなか美人だった。昨日までの自分なら見向きもされないようなレベルだ。


 そいつが筆頭となりマトンを行かせたのだ。後で覚えてろよ、とメインからデザートへ変更した女に怒りを募らせる。


 怒りを覚えるのは菅谷だけではない。他の避難者達もだ。あの怯えるだけで何も出来ない情け無い姿を見ていると昨日の自分を思い出し、とても不快になる。


 だが、彼等とマトンは決定的に違う点がある。



「オレはァ、神に選ばれた」




 マトンは昨日からの記憶を振り返った。


 『コグモ』の魔物(モンスター)が現実に現れてから、早一日。死もの狂いで生き延びた初日、駆け込んだトイレで眠れぬ夜を過ごした。


 奇跡的にも一晩なかった魔物の襲撃に安堵すれば今度は助けを呼びたくなる。ここの警備は役に立たなかった、けれど銃を持った警察なら勝てると思ったからだ。


 しかし、慌てたせいか開いたのは電話アプリの横にあった『蠱毒の蜘蛛糸』だった。なんて無様なんだと自己嫌悪して最初はすぐに閉じようと思った。


 だが、ホーム画面を飾る自分の好きなキャラを見た途端、そんな気は失せた。見惚れてしまったからだ。


 小一時間、好きなキャラ……【ネラム】を愛でていると、普段は滅多にこないメッセージが届いていることに気付く。


 どうせクラメンがクランボードでバカ丸出しの下ネタでも書いたのだろう、こんな時に下らないことしやがって。そう思っていたが、意外なことに運営からだった。




 『おめでとうございます。


 全プレイヤー中でネラムの親愛度が最も高い貴方へ彼女の能力を進呈します。能力はステータスで確認出来るので、ご自身でご確認下さい。


 所持アイテムやキャラクター等は一部を除きリセットされますので、ご了承下さい』




 最初は意味が分からなかったが、前日に聞こえた神の言葉を思い出し自分が()()()だと気づいたのだ。人類の希望にして、神に選ばれた存在。




「オレが、オレだけが選ばれたんだ。」




 眉唾ものの話だが、半信半疑で呼べば出てきたゲーステータスやその他の機能と、何より……




〔続きはまだかしら? 待ち遠しいのだけれど〕




 ネラムの声だ。彼女は自身の種族であるサキュバスの名に恥じぬ蠱惑的で甘い声をしており、聞いてるだけで熱が特定の箇所に集まる。




「爆発が起きたんだよォ。避難所(あそこ)じゃ好き勝手する条件として戦闘全般を任せれたから仕方ねぇだろ」



〔どうせ、またガス爆発でしょう? 燃えてなければ帰りましょ〕




 最初の爆発はキッチンがある辺りからだったのでガス爆発だと思われた。瓦礫が多くて現場には近づけなかった上、専門知識もないので確実とは言えないが別に構わないだろう。自分以外に確かめられる人間など、あそこには存在しないのだから。




「じゃあ、さっさと行くか。一章の雑魚敵くらい俺達なら余裕だかんなァ」



〔あら、そうなの。まぁ、『証明』してくれたら私としては何でもいいけどね〕



「やってやるよ。だから、お前も終わったら()()()は奮発しろよォ」



〔もちろんよ〕




 こうして、色欲の化物達が動き始めた。









◆ルーベンside









 数えること十五回、それが【滅私放光】により【自爆】が起きた回数だった。


 本来なら百でも二百でも試す覚悟であったのだが想定より早く『ゆるふわ』がいると思われる場所を見つけたことと、近場に転がっていたメジャーを使い【自爆】の効果範囲を調べられた事が理由だ。


 それに、これ以上やる事があってもメンタルが殺られており、気力が湧かない。ついでに最初に食らったのも含め【自爆】のダメージが蓄積されている。




「一回、死んどくか」




 この消耗した状態で『ゆるふわ』に挑むのは流石に不味い。これだけ派手に戦ったのだ、何処かから覗き見られて手の内がバレてる可能性もあるだろう。


 一応、コンセントは使えなかったが電池式やバッテリー式の機械なら動くかもしれないし監視カメラでも使われていたら俺に気付く術はないのだから。


 ここは一度死んで傷を治した後、【復讐誓約】のクールタイムが終わってから挑むのが得策だろう。


 それに【復讐誓約】のお陰で死ぬばエリカと同じで傷が治るだけでなく、体に入り込んだ異物の除去、呼吸困難や空腹によるエネルギー不足の解消に至るまで行われる。


 これにより、俺は万全の状態から三百秒生きられれば死ぬ事はなくなった。放射能や毒ガスなど怖くも何ともない。


 しかし、直接戦闘では三百秒のクールタイムは致命的だろう。特に物量攻撃を得意とし、タイミングさえ合わせれば彼女にもあるであろうクールタイムに関係なく攻撃できるリコリスの『能力』使いには。


 俺はエリカが()()だと思っているし、たとえ誰が相手でもそこは譲る気はない。だが、同時に()()だとも思ってないのだ。


 最強と無敵は同じようで全く違う。


 最強とは最も強い者の称号だ。誰よりも強く、戦えば常に相手から挑まれる立場の存在であり、敵は策を弄し時の運で得られる己の勝利を信じ襲いかかってくるだろう。


 対して無敵とは敵が皆無の者へ送られる称号だ。その称号を持つ者には、敵は如何なる手段を用いても勝ち目が存在しない絶望の象徴。


 無敵とは戦うまでもなく勝利が決定された、()()()()()称号なのだ。


 俺は戦うのが好きだ。ゲームの時からそうだったし、ゲームが現実を侵食しても戦ってみれば楽しかった。自分には成長の余地があり、もちろん相手にもあって互いに強さを求める過程で得た結果をぶつけ合い競い合うのだ。


 己の好きな分野で全力で競い合うことの、なんと楽しいことだろうか。戦闘での敗北は挫折や悔しさのみの負の感情とイコールではなく、自身が組み立てた戦法の何が悪かったのかを見直せる良き機会ともなる。


 だからこそ俺は、同類であるライバル達に勝つ方法は心を折る(負けを認めさせる)しかないと思い、かつてアリーナを蹂躙したのだ。


 今なら分かる。あの時の俺は手段と目的が入れ替わっていたのだ。エリカへの愛は変わらず心にあったが、その『愛』を戦いを終わらせない理由にしていたのだと。


 その結果が、最初の目的であるエリカの汚名返上どころか、払拭したかった悪評を更に悪化させてしまったのだから、我ながら愚かと言う他ないが。




「エリカなら、最初から最後まで目的を見失わず進み続けられたんだろうな」




 あの時の俺には出来なかった。本当に目的の達成だけを考えるなら他のユーザーの気持ちを考え、エリカの悪評に繋がるような思考をさせない事こそ重要だったと言うのに。


 後悔しても意味がないのは理解している。


 戦闘と同じだ。失敗は後悔し挫折するための経験ではなく、自身の手段の穴を示してくれるモノなのだと。それを理性では理解しても心が拒絶するのだ。お前は大切な存在に傷をつけた、と。


 この後悔を消すには初心に戻り、今度こそ目的を完遂するしかない。すなわち、エリカへの最強()の『証明』だ。


 この世界ならば|他ユーザー皆殺しにする《後悔の元を断つ》事ができる。『邪神』よ、こんな素晴らしい世界にしてくれた事だけは深く感謝しよう。


 だが、お前は敵だ。エリカの『能力』を持つ俺を見下し、あまつさえ試練で試すなど敵対行動以外の何物でもない。


 神を名乗るくらいなら、さぞかし強いんだろ? ならば俺が最強()を『証明』するための贄としてやる。


 女神(エリカ)でもない神に屈するものか。俺がこの世で屈服し、尊重するのはエリカ唯一人。『証明』の為ならば、例え俺自身であっても切り捨てる。




「今度こそ間違えない」




 何もないと確認した物陰で、ひっそりと首を裂きながら決意を確かめる。もう見失わない為に。


 俺の死後に発動するスキルの名は【復讐誓約】。死ぬ度に更なる復讐を誓い続けた、エリカの曲がらぬ信念の象徴。


 ならば俺も誓い続けよう。生きていれば、いずれ曲がる信念だったとしても、死ぬ度に何度でも初心を取り戻し貫き通すことを誓おう。


 俺は【エリカ・デュラ(不死者)】の相棒(パートナー)なのだから。

 読んで下さって、ありがとうございました!


 次話は13時過ぎに更新予定です。








 下記に別の連載作品のリンクがあるので、読んで下さるとありがたいです!

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