真相
日曜日、マダムは2人を目撃した後、ショックを受けながら下宿に帰り、その後もう一度薬屋に買い物に出掛けている。
その時、すでにマリーナに罰として睡眠薬と麻酔薬で寝かし部屋に閉じ込めようと考えていたのだろう。
そして薬屋を出た後、ブレインを見かけたのだ。
意識を取り戻したブレインに話を聞くと日曜日マリーナと別れた後、知り合いに偶然会ってお茶をしていた、その後いつものように、通用口を使って寮に帰ろうとして川の近くの道を通った時に後ろから誰かに殴られたそうだ。
帰るために薬屋の前を通った時に、マダムがブレインを見かけて後をつけたらしい。
そして、後ろから殴りつけてそのまま放置した。
そして何事もなかったように、下宿に帰り、夕食時も何食わぬ顔で過ごした。
その後、夜遅くなってからマリーナの部屋を訪ねて言葉巧みに薬入りの飲み物を飲ませたのだった。
そして、そのまま部屋に閉じ込めた。
次の日、マダムは自作自演でマリーナが寝坊したように見せかせた後、使用人にもマリーナを見送ったかのように印象付けた。
「これで、マリーナは下宿にいない人間にされたのさ」
ノアがサンドイッチをかぶり付きながら言った。
「1週間も薬によって眠らされていたなんて、マリーナは大丈夫だったのですか?」
ルイーゼが痛ましそうに聞きます。
「それは、これからだな。
そもそもまだ、意識が戻ってないから」
とアンドリュー
マリーナは保護されて病院に運ばれたけど、まだ意識が戻るのかも、後遺症が残るのかもわからなかった。
「マダムはどうしたの?」
私が気になる犯人の事を聞いた。
結局はマダムがいる前で下宿に騎士たちとノアたちが押し入って、マリーナを救出したのだそう。
みんなで話合って、マリーナの救命を最優先に考えた結果だった。
「彼女はショックで倒れた後、ある程度、自分のしたことを告白してまた意識を失った。
今はマリーナと、同じ病院に入院中だ。」
「マダムの生い立ちを聞くと何とも言い難いよな」
とルイスが言った。
マダムはもともととても厳しく躾をうけた伯爵令嬢だったのだ。
特にマダムの祖母が異性に対して厳しく言い聞かせて、貞操観念を強く植え付けていったそうだ。
そんな彼女が1人の男性と出会う。
彼は少し中性的で美しい男だった。
それだけに、今まで言われていた男性に対する抵抗が弱かったのかもしれない。
その男は言葉巧みに彼女を誘いだし、ある男のもとへ連れて行った。
彼女に目を付けていた侯爵家の次男が金に困っていた遊び仲間の顔のいい男を使って彼女を拐かしたのだ。
彼女は、初めて騙されたと知って驚愕すると共に男性と2人っきりにされた恐怖で混乱する。
そんな状態なのに、初めて父親以外の男性に触られて抱きしめられた。
彼女はますますパニックになり、声の限り泣き叫び気を失った。
この声を聞きつけた侯爵により助け出されたが、精神的に壊れかけた彼女はしゃべることもできなくなった。
修道院に預けられ、普通の生活に戻るまで、数年間の年月を要した。
その後も修道院で、シスターを手伝い、薬学を学んで薬も作れるようになったと言う。
その後、伯爵が亡くなり屋敷以外を売りさばいて、祖母と2人で静かに暮らしていたそうだが、その祖母も亡くなって、生活のために下宿を始めたそうだ。
彼女が男性不信になったのも、男女の関係を嫌悪しているのも、彼女の所為ではないだろう。
極端に貞操観念を植え付けた祖母。
自分の欲望のままに彼女に手を出そうとした侯爵令息。
金の為に彼女を騙した男。
彼らの罪の方が重いではないか…
隠れて男漁りをしていたマリーナは自業自得な部分はないのか?
ブレインのような軽い男が昔の騙した男を連想させたのではないか?
どうにもやるせない気持ちになった。
◇◇◇◇◇◇◇
数日後、改めてサロンでみんなが集まった。
「この前はお疲れ様、みんなの働きで死人が出るような事件に発展しなくて、済んだわ ありがとう」
アン姉様がみんなを労いました。
「今回はいろいろあったな、特にノアが女性に邪険にされるなんて、もう見れないだろうな」とライリーが言いました。
「僕はマダムが男性不信だったって知って何とかプライドを保てたよ」と苦笑いしているノア
「そうだ、マリーナ嬢の意識が戻ったよ
まだ、全快とはいかないけど、訓練してちゃんと元のように歩けるようになるそうだ」
とオスカー様が教えてくれた。
彼女は意識が戻ったあと、手や足に痺れや麻痺が残っていた。
今度の事でトロビー子爵にも、全てが露見した。
最初は怒り狂っていた子爵だったが、オスカー殿下たちの口添えがあった事と娘が死んでもおかしくない状態で助け出された事でやっと冷静になれたようだった。
ブレインとはお互い真剣だと言う事が分かり、2人が正式に婚約する事になったのは、今回の事件の唯一の救いだった。
「マダムはもう病院からは出られそうもない。
下宿もやめることになりそうだ」
意識を取り戻したマダムは人形のように、感情を何処かに忘れてしまったようだった。
今回の事で、本当に壊れてしまったのだ。
「なんにせよ、当分何も起こらないといいわね」
「そうよ。
もうすぐ試験だもの
勉強に専念させてほしいわ」
とルイーゼと言い合った。
これからも私達は学院の治安を守っていきます。
end
最後までお付き合い頂きありがとうございます。
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