下宿のマダム
「ノア、それは災難だったね」
「いえ、もういいんですけどね」
「そう言えば、門前で話をしたのでしょう?
昨日もそうだったの?」
何となく話を変えた方がいいかな?と私なりに気を使ったわ
「いや、昨日はマダムがいなかったから、手伝いの娘と下働きの娘が玄関ホールまではいいって言ってくれたんだ
そこに、下宿している令嬢も呼んでくれたよ」
「じゃあ今日は令嬢たちには話を聞けなかったの?」
「そうなんだ、ノアがマダムと話しているうちに手伝いの子に令嬢たちを呼んでくれるように言ったら、マダムに凄い剣幕で怒られてね」
ライリーが苦笑いして言った
「ご婦人のあんな怒り方も初めてだったよ」
ノアがまた、ため息をつく。
「なぜ、マダムはそんなに機嫌が悪かったのかしら?
もし、いつも機嫌の悪い人なら、私達が話を聞いていたリリアンとエレンだって何か言うと思うのですけど…」
ルイーゼが不思議そうに考えている。
「そうね、あの2人はマダムの事は一言も言わなかったわね」
私も同意する。
「オスカー様、私達にもう一度話を聞きに行かせてもらえませんか?
女の私達たちなら、下宿の中へ入れてもらえるかもしれませんし…」
「なるほど、下宿の中に何か手掛かりがあるかもしれないな…
アネット、ルイーゼおねがいするよ」
「「はい」」
「それから、ブレインの意識が戻ったようだ。ルイスとアンドリュー
明日話を聞きに行ってくれるか?」
「わかりました」「了解でーす」
「それから、ノア」
「はい」元気のない声でノアが返事をする
「大丈夫か?明日は教会へ行ってほしいのだが…」
「ええ、お任せ下さい
あのマダムの所以外なら、何処だって行きますよ」
「頼むよ、マダムと教会の関係と若い頃のマダムの事も聞いて来て。
それと、マリーナが隠れていないかも確認して」
「オスカー様、それはマダムがマリーナを教会に預けているかもしれないと考えているのですか?」
「そうだね、可能性は0じゃないと思ってね」
「それはマリーナがブレインを襲って逃げているってことか?」
とルイス。
「そうか、それも可能性は0じゃないものね」
と私が頷く。
「明日になればまた情報が増える。
また見えてくるものも変わるかもしれない
みんなよろしく頼むよ」
今日の報告は終わった。
次の日、私とルイーゼはマリーナの下宿へと来ました。
門のベルを鳴らすと、下働きの女の子が出て来ました。
「こんにちは、私たちはサンテリア学院の者です
1年生のマリーナさんはお戻りになりましたか?」
「あの、帰ってきてないです」
「今日はマダムはご在宅ですか?少しお話を聞きたいのですが…」
そう言ったところに
「何かご用ですか?」
本人が出て来ました。
「急な訪問をお許しください。私達はサンテリア学院のものですわ、後輩のマリーナさんが行方不明と聞いて、お話を伺いに参りましたの
少しお話をお聞かせねがえませんか?」
と丁寧にルイーゼが言いながら、礼を尽くす。
ルイーゼの態度がよかったのか、マダムは応接室へ通してくれた。
「せっかく心配して、来ていただいたけれど、まだマリーナさんは戻って来ないし、何処へ行ったのかも、何も手掛かりがないのですよ」
「いなくなった月曜日の朝は彼女が寝坊して、出るのが遅くなったと聞いたのですが?」
「そうなのです。いつもは起きてくる時間に下りて来ないし、少し待って声をかけたんですが、返事もなくて部屋まで見に行ったらまだ寝ていたのです
だから、早く支度するように言って食堂に戻り待たせていた皆さんと朝食を、とりました」
「今までも、そのような事はありましたか?」
「いいえ、朝食の時間に遅れるような事はありませんでしたよ」
「まあ ではなぜその日に限って起きれなかったのでしょうね?
前の日に何かあったのでしょうか?」
「前の日…」
あら?
前の日って言った途端にマダムの様子がおかしくなった
話すのはルイーゼに任せて、私はマダムの様子に集中する
ルイーゼもそれが分かったようで、マダムにもう一度話をうながした。
「前の日…日曜日ですけど、マリーナさんはずっと下宿にいらっしゃったのかしら?
それとも外出されました?」
「日曜日… マ、マリーナさんは出かけて… いましたよ
夕方帰って来きました」
「お夕食はちゃんと食堂に来られました?」
「え? ええ
夕食はちゃんとみんな集まりましたから」
そうマダムが言った時に後ろにいた手伝いの子が「え?」
と声を出しそうになって口を押さえています
私は目の端に止めましたが、気付かない振りをして、
「すみません、化粧室をお借りできませんか?」
「え?
ええ、どうぞ
ニーナ案内してあげて」
「はい、こちらです」
私はニーナと呼ばれた子と廊下に出ます
化粧室についたところで、質問をしました。
「ねぇ、ニーナさん
さっきなぜ驚いていたの?」
「え? 何ですか?」
「さっきマダムが夕食はみんな集まったって言ったときよ」
「あの、マダムには内緒で」
「もちろん、あなたに聞いたなんて言わないわよ」
「日曜日は確かにマリーナさんは食堂にきました。
来なかったのはマダムです」
「マダムが時間に来なかったの?」
「はい、皆さんが食べ終えた頃に、薬局へ行ったら遅くなったと言って帰って来られたんです
でも、私も、ケリーも何も聞いてなくって…
出掛ける時はいつも声をかけてから、行かれるのに…」
「そうだったの…
もうひとつ教えて、マリーナさんが男の人と付き合っていたのをマダムは知っていた?」
「まさか! もし知っていたら、どんな事になっていたか…
怖いから私もケリーも外でマリーナさんが男の人と一緒にいた事は決してマダムには言いませんでした」
「そうだったの」
何だろう?
何か引っ掛かる…
私たちは何か勘違いしてるかも…