ノアのショックと落胆
「殿下、ひょんな所からブレインが出入りしていた入り口がわかりました」
とアンドリューが流れで報告を始めました。
「入り口って、正門か裏門くらいでしょ?」
と私が聞くと、
「いや、この学院って広大な敷地だから、俺たち学生が知らないだけで、関係者しか使わない出入り口が結構あるんだよ」
アンドリュー曰く、騎士たちの専用の通路や、学院の雑用をしてくれている使用人の入口など、この領地に私達が知らない通路や出入口は十では効かないらしい。
「そのなかで、寮の管理人さんや使用人が使う入口が東側にあるんですけどね、どうもブレインは寮から外へ出るときにそこを使っていたようなんです」
オスカー様が机の中から、校内の地図を出して広げました。
アンドリューが地図を指差します。
「この辺ですね」
みんなで覗き込み、
「確かに寮の位置からなら、正門を目指すより、距離が半分ですね」とルイスが言った
もうひとつ私は気がついた。
「それにここを見て」
私が指したのは、ブレインが見つかったセルバ川。
セルバ川も学院の東側なのだ。
「確か発見されたのは、この辺だと言っていたな」
オスカー様が指したのは出入り口から100メートルも離れてなかった。
こんなに近いなんて思わなかった。
「それから、マリーナの下宿がここ」さらにオスカー様が地図を指した。
そこも2、300メートルの範囲なのだ。
「正門から下宿に行くと、もっと距離がありますわ」
とルイーゼ。
「そうだな。地図で改めて見て分かったが、この入口とブレインが発見された場所、マリーナの下宿、これは全て半径300メートルに納まってしまう」
これは、結構重要な発見かもしれない。
「では、ブレインはマリーナの下宿から寮へ戻る途中で何かがあったと言う事でしょうか?」
と私が問う。
「そこは、ノアが帰ってくればハッキリするかもしれないね」
と言ったところにちょうどノア達が帰ってきました。
「遅くなりました」
と言って入ってきたノアが「はあー」とため息をついて何だか浮かない顔をしています。
今日はライリーと一緒に下宿へ行ってましたが、そのライリーも微妙な顔をしてノアを見ています。
「ノアどうかしたの?」
あまりに落ち込んで見えたので、私はノアに聞いてしまいました。
「ああ、いや
まずは報告をします」
と何とか自分に言い聞かせているようです。
「えーと、マダムに会うことが出来ました。
マダムって言うから、結構お年の女性かと思ったら、まだ30代の女性でした」
「まあ、ではノアが行って良かったですわね」とルイーゼが言うと。
何とも微妙な顔を2人がしています。
「いや、まあ
そ、それで月曜日の話を直接聞きましたが、他の人の証言と違うところはありませんでした、その前の日の様子も聞いたんですが、特に変わったことはないと言われました」
はあーとまあため息をついてます。
見かねてライリーが口を開きました。
「私はノアがマダムと話している間に、この前の手伝いの娘にブレインの話をしてみた。
彼女が言うにはマダムがとても厳しくて、本当ならここも男性は立ち入り禁止だから、訪ねてきたら、大騒ぎになると言われました
ただ、彼女は寮の近くて何度か見かけた事はあったと証言しました
ブレインの容姿が印象に残っていたみたいですね」
そうブレインが見た目がいいって話でしたよね?
その後、殿下が教えてくれた説明によると、金髪碧眼で神話に出てくるような容姿なんだそう。
それは、1度見れば忘れないわよね?
若い娘さんなら尚更。
「まあ、男性立ち入り禁止の寮でノア達は大丈夫でしたの?」とルイーゼが心配する
「まあ、だから門前で話を聞かせてもらっていた」
とライリー。
「そうか、ご苦労様、それでノアが落ち込んでいるのはなんでだ?ライリー」
ライリーはチラっとノアを見てから言った
「マダムは始終機嫌が悪く、ノアを見ても別段、態度を変えないどころか、まるで虫ケラでも、見るような態度でして…」
皆、ちょっと驚いたノアの容姿と柔らかな態度で虫ケラを見るような目で見られるって
今まで聞いた事がない。
「はあーそうなんですよ
さすがにあんな目で見られて嫌そうな顔をされたことなんて生まれて初めてで結構ショックを受けてます」
「そうだったの…」私はちょっと同情した。
ハッキリした嫌悪感を向けられるのってショックよね。
でも、マダムの好みが違ったとしても、いい大人の女性がそんなに態度に出すかしら?
ノアは貴族の中で育ってるし、そう言った女性の態度は慣れてないだろう。
貴族の女性はどんなに嫌でも顔には出さないし、愛想笑いくらいするものだから。