魔王誕生。
俺はエリック18才になった。
村で勉学、剣術を学び、村一番の成績になったのを認められ
はれて王都マルク騎士団に入団し、騎士見習いになる。
明日、王都に移住する。
村の外には忌々しい塔が佇む。
6年前に村の衛兵団長だった親父と20人以上いた団員、腕っぷしのいい大人が集まり塔への調査を行った。
いくら待っても誰一人帰ってこなかった。
親父達の失踪した手掛かりや足跡が何も残されておらず、村長は親父達は逃亡した、と結論付けた。
親父はそんな腰抜けじゃないと知っている。
何かあったはずだ。あの塔と何らかの決着をつけないと、俺は王都に行く気にはならない。
別に化け物がいるんじゃないんだから。調査して帰ってくればいい。
まだ日が昇る前の夜中、村人達に見つからない時間を狙って村を抜け出して、塔の入り口に辿りついた。
近くで見ると円柱の漆黒の塔は、まるで作り立てのようにキズ、汚れの一つすら見当たらない。
俺は塔の中に飛び込んだ。中は壁に妙な文字が書いてあるだけで何もない。
この国の文字ではないようだ。
振り返って後ろの入り口を見ると、ただの壁になっている。
しまった。退路が無くなった。
壁は壊せそうにない、先に進むしかなさそうだ。
辺りを歩いていると、目の前に白い物がぼやっと浮き上がると、形を成して
人サイズの目が空洞の人形のような何かが現れた。
「私はあなたです。あなたのことは何でも知っています」
「俺のことを?お前は何をしたいんだ」
この禍々しい者に反抗する気は起きない。一瞬でそう思わせられる。
「小さい時から畑の物を盗んで食べていたんですね。
まあ、このへんは可愛いでしょう。
あなたは好きな女の子と仲のいい男子を
ペットの犬殺しの犯人にでっちあげました」
「何なんだ。なぜ知ってる!」
村に知っている人がいるはずがない。あれは仕方なかったんだ。
子供の頃からずっと一緒だった幼馴染には負けたくなかった。メルだって、まるで俺のことを見ていなくて・・・・・・。
「模擬試合では、同じ自兵団の村兵に勝負はついているのに、追い討ちをいれて半身不随にさせた。あなたは悪い人です。私達、魔の物に近いでしょう」
人形の言葉を聞いているうちに絶望、後悔、自己否定の思念が湧き上がってくる。
もうやめてくれよ、謝ったんだよ。
反省だってしてるさ。
俺の中に黒い感情が沸々と湧き上がっている。
「さあ、どうぞ。先へ進んでください。あなたは特別なんですよ」
人形が話しているが、もはや頭には入ってこない。
ふらつきながら歩いて螺旋階段を上り、気づいたら2階にいた。
その光景に俺は目を見張った。
よく知っている2人が待ち構えていた。
当時と変わらない身なりの親父がいる。黒髪でショートカットの丸い目をした女性はメル。
親父が近づいてきて口を開いた。
「みそこなったぞ、エリック。正義の味方をした卑怯者め」
「彼を貶めて、私との仲を引き裂いた悪党よ」
なんでよってたかって責めるんだ。お前だって子供の俺をおいていなくなったじゃないか。
お母さんがどれだけ大変だったか知らないだろう。
メル、ああするしかなかったんだ。
さっきから、人形の臭気に触れて頭がボーっとする。
ろくに思考が安定しない。
「我が一族の恥さらしめ。この場で成敗する」
「私たちは傷つけられた、あなたにはきついお仕置きが必要ね」
二人が武器を手に襲い掛かってくる。
「話を聞け!」
親父の斧、メルの剣を愛刀で薙ぎ払う。
斬撃を何度も押さえているが、プロテクターは今にもはがれそうなほど壊れ、小手は分断して真っ二つになり地面に転がり落ちた。
このままではもたない。どうにかして止めないと。
親父が袈裟斬りを放ち、俺は刀で受け止める。
背後に殺気を感じる、前に親父、後ろにメル。
死のイメージを知覚し、目を瞑り、なりふり構わず武器を振り回した。
「うわぁぁあああ!!!」
辺りが静まり、血の滴がポタポタと落ちる音が反響している。
目を開けると、親父は首から血が滲んで倒れこみ、メルは刀が胴体に刺さり貫通している。
「――――人殺し」
メルはそういうって膝から崩れ落ちて動かなくなった。
親父に近寄ってみたが助からないのが分かる。致命傷だ。
親父は死に際に呟いた。
「悪魔の子・・・・・・」
憎い、村が人が世界が親父がメルが、神が――――
頭が激痛に苛まれ、エリックは倒れた。
うずくまり苦しんでいるエリックの頭から角が生え、背中から黒い羽根が広がる。
顔や体は黒い模様が浮かぶ。
俺が俺じゃなくなる。――――何かが中にいる。
まだしにたくな・・・・・・。
人形こと魔の使いは戦いの跡に赴いた。
一通りの儀式が終わり、計画通りなら魔王が誕生しているからだ。
現場に着くとエリックの異変に気が付き、心が躍る。
この塔が現れて魔物になった者はいるが、魔王は見たことがない。
エリックはとても優秀だったが、心の奥底にわずかに、にごった闇を見つけた。
そこを利用して闇の力を覚醒させた。
魔王の横には人に変身した泥人形が2体転がっている。
魔王は立ち上がりこっちを見た。
「魔王様。お目覚めですか?」
「ああ、いい気分だ」
ザシュッ――――。
魔の使いの首がごろごろと転がる。
その会話が魔の使いの最期だった。
魔王は生前の記憶はなく、ただ無性に悲しさや寂しさを感じていた。
そんな気持ちになるのがよく分からなかった。
魔王は自由を求め、自らの欲を手に入れるために外へ旅立った。




