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わたしの姿

作者: たかやす

 今日もこっそりと忍んでゆく。人の目に止まらないように、わたしの姿が誰にも映らないように。あいつに見つからないように。こっそりと忍んで行く。



***



 ここは沢山の小さな島が集まった国、『ホド』といわれている。昔々、この世界を作った神様が、偉い神様に逆らって三度雷を落とされて、三つの大陸の地形が変わってしまったといわれている。『ホド』もそのうちの一つ。海に浮かぶ群島と、空に浮かぶ群島あわせて『ホド』と呼ぶ。空に浮かぶ群島には、翼のある『有翼人』達が住んでおり、海に浮かぶ群島は翼のない『人』が住む。『有翼人』たちは矜恃が高く、知識、力もあり時々私達のところにおりてきては、無理難題ばかりいう。


 以前にも、『人』の貴族の黒髪の可愛いお嬢さんが気に入ったから、5番目の嫁にしてやる、といってきた鼻持ちならないやつがいたけど、そのお嬢さんは婚約者の背の高い長い髪の男の人と遠い遠い国へ逃げていってしまった。無事に逃げられて良かった。手を貸したかいがあるというもの。『有翼人』たちはホドの周囲からは出られない。それを呪いと彼らはいうけれど、私はそうは思わない。これは『人』への祝福なのよ。あの鼻持ちならないやつらから逃げるための。



***



 いつものように羽を小さく小さく畳み背中へと縛りつけ、目立たないフードを目深に被り、街を駆ける。私の翼は小さく、同族達には見下されるサイズだ。この翼では勿論、空は飛べない。ただの飾り。


 だから私は足をよく使う。筋肉がついて、同族達からは太くて醜い足、と言われるけど、足で走るのは気持ちがいい。足から伝わる温度がこの季節だと冷たくて、痺れる感覚があるけど、そんなことよりも足で走る感覚が楽しくて仕方がない。

 誰にも見つからないように、しばらく走り続けるといつもの場所へ出る。

 そこにはいつもの子どもたちが待っていて、私の姿に気がつくと皆走ってよってくる。私の人生最大のモテ期到来。


「おねえさん、おなかすいた」

「きょうはなに?」

「いいにおいー」

「はやくたべたい!」

「ほんもよんでね」


 10人位の家無しの子ども達がよってきた。大きい子ども達は小さな子の面倒を見ながら、こちらへ近づいてくる。

 

「今日はね、貝と野菜と牛乳のスープにパンをもってこれたよ。皆順番に並んでね」

「「「「「はーい」」」」」


 碗をもってきた一人一人に注いでやり、小さい子の面倒を見ている大きい子ども達の元へ行き碗をおいていく。順番にご飯が食べられるように、子どもの面倒は見ておく。


 彼らは『有翼人』と『人』のハーフ。『要らない子ども達』と言われている。ハーフの子ども達は『人』の血が強くでるが、色素の薄さは『有翼人』譲りで、はっきりとハーフの子どもだとわかってしまう。勿論、ハーフでも両親に愛されて育つ子ども達もいるが、ここにいる子ども達は皆、親から捨てられてしまった子ども達だ。そんな子ども達は孤児院にも入れず、その日暮らし。寝るところも着るものもない。


 だから、私がこっそり、働いているところからお金を少し頂いて、彼らに施している。これは誰にもいっていない秘密。ばれたら、もう二度とこれなくなってしまうから、慎重にやっている私の趣味みたいなもの。


「これ、保存効く食料と寒くなるから毛布とか着るものもね。奪られないようにね」

「ありがとうございます」


 一番しっかりしている大きな子に渡しておけば安心。これでまた暫く来れなくても大丈夫。


「少し金も渡しておこう。無駄にはならないからな」


 後ろからいつもの声が聞こえた。


 あいつだ。


 見つからないように、見つからないに、影に隠れ、気配を消しここまできたのに。どうして。


「どこにいても見つかるんだよ」


 大きく温かい手が頭を撫でる。


 琥珀色の瞳が柔らかくて微笑む。


「ん?違うな。見つけるんだよ?見つけられるんだよ?見つけて欲しいんだろ?」

「……ちがう」


 頭に乗っていた手を振り払う。

 子ども達は新たにきた栗毛色の柔らかい髪の『人』の男性に群がる。私のモテ期は終わったようだ。


 私がここにくるようになってから、彼もいつの間にか来るようになった。


 初めて会ったのは去年の今頃だったと思う。


 初めて子ども達のところへ行き、食事を振る舞おうとしていたところだった。子ども達は警戒して近づいてもくれなかった。仕方ないと保存のきくものを置いて行こうとしたところ、彼が走ってきたのだった。


 柔らかい栗毛色の髪は風で乱れており、恐らく貴族であろう質の良さそうな服は走ったためか、少し着崩れていた。壁に手をつき、息を整えている。


『ふう、ようやく見つけた』


 そういって大きな手で頭を撫でたのだった。



***



「お忍びデートみたいだな」

「ご冗談を」

「いつもつれないな」

「そうですか?」


 彼は私に構ってくる。そこそこ冷たい対応をしているのに。飽きもせず。『人』の男性は皆こういうものなのだろうか?彼だけが特別なんだろうか。こればかりはわからない。でも、私の

『心』は私の物。誰にも、渡さない。


「ここにいる子ども達は皆俺達の子どもみたいなもんだな?」

「は?」

「俺達が夫婦で、ここにいる子ども達が実子……いや、養子か。まあ、どっちでもいいか?」

「頭大丈夫ですか?」


 琥珀色の優しい瞳が私を写すたびに逃げたくなる。この人に捕まりたくない。知られたくない。捕まえないで欲しい。


「お前の髪の毛、いつも綺麗でいい匂いだな」

「……変態?」

「褒めてんだよ?」

「…………可哀想に……。私の髪の毛あげましょうか?」

「うおーい。どうしてそうなるんだ?」


 お互いに名前も知らない。名乗らない。私がここにくると彼もここにくる。忍んで隠れているのに。何故か現れる。彼はきっと私のこと何も知らないんだろう。私は彼のことを知らない。知りたくない。知ってはいけない。


「なあ、お前俺と一緒に住めよ」

「無理」

「即答だなー。お前一人くらい養ってやれるぜ」

「私じゃなくて、子ども達を養ってあげて。パパ」

「「「「「パパー!」」」」」

「うおっそうくるか!?」



***



 今日は仕事の日。ただひたすらに歌う。それが私の仕事。声が枯れても、魔力で歌えるから。魔力が枯渇して倒れるまで歌う。だから、羽は小さいまま。飛べないし、神殿から出るのも一苦労。他にも何人も私と同じような『巫女』がいて、私と同じような境遇。『巫女』の紡ぐ歌によって、大地を空に浮かせる魔術を日々つないでいく。『巫女』は神殿から出られない。でも私は特別。抜け道作ったし、長く働いているからその分周りはちょっと大目に見てくれる。ちゃんと戻るし。騎士の何人かとは顔見知りだし、見て見ぬ振りしてくれる人もいるんだ。これ人徳ね。


 今日は倒れずにすんだけど、頭ががんがんする。暫く動けないかもしれない。仕事がおわり、自室にさがる。すぐに部屋の寝台へ飛び込む。柔らかい布団と石鹸の匂いが気持ちいい……。意識飛んじゃいそう。


 やっぱり意識が飛んで、気づいたら次の日になっていた。たぶん。


 にしても静か過ぎる。いつもは誰かかれかの『歌』が聞こえてきているはずなのに……。少しおかしい。



***



 空に浮かぶ島の一つが丸々神殿となり、何人かの巫女とそれを守る、という建前で脱走を防ぐための騎士達がいた。


 真っ白な神殿は外部からの侵入を拒み、内部からの脱走を防ぐ堅牢な造りとなっている。扉ごとに鍵があり、その鍵には巫女には一切触れることが出来ず、管理者だけが触れることができる仕様となっている。


 だだっ広い神殿に管理者が数人、巫女がそれよりももう少し多く、騎士達が一番数が多かった。この朝よりも昼に近づいた時間帯では、人通りもまばらながらにあるし、見回りの騎士達も数人はいるはずだった。それに混ざり、遠くから巫女の歌声が風にのって聞こえてきているはずなのに。


 状況がわからないだけに動きようがない。留まるべきか脱出するべきか判断がつかない。近くの空いてる部屋をのぞいても誰もいない。廊下も。物音一つ聞こえない。明らかに異常事態だった。長くは生きられない身の上ではあるが、まだ死にたくはなかった。子ども達にもお別れをいってない。あいつにもせめて別れを告げたかった。どんな顔をするのか楽しみにしていたのに、ちょっと残念だ。でも、少しは足掻いて見せよう。数秒位の時間稼ぎしかできないけど。


 廊下を走っているうちに何だか泣けてきた。何が起こっているかわからないけど、こんなに自分の思い通りにいかない人生なんて、嫌になってきてしまう。なんで私だけこんな目にあわないといけないのか。悔しい。人並みの幸せ、喜び、楽しみを愛する人と分かち合いたかった……。ん?


 なんで、あいつの顔がでてきたのかは深く考えないようにしよう。


 次の人生では、せめて人並みの幸せを享受できるような身の上でありたい。王様になんてなれなくていい、貴族じゃなくてもいい、お姫様だっていらないし、大きな翼もいらない、今と同じハーフだって構わない。ただ幸せになれればいいのだ。身の丈にあった幸せがほしい。


 ただそれだけを思うだけで、涙が止まらなくなる。最後にあえるかわからないけど子ども達に会いたい。一か八か賭けになってしまうけど、行くしかない。うん。女は度胸だ。



***



 抜け道に向かってひたすら走る。こんな時、神殿が広いのが腹が立つ。今度生まれ変わる時には小さい家で、座った状態でいろんなところに手が届くような家を作るんだ。


 抜け道が近づくと金属音が聞こえてきた。どこからかわからないけど、小さい音。裸足だから足音はたててないけど、一気に嫌な汗をかく。ぺたぺたと足音が聞こえて来る。これでは、ばれてしまう。何だかわからない、侵入者?にばれてしまう。だから息を潜め、音が去るのを待つ。その場に蹲り音が聞こえなくなるまでまつ。暫くの間、なにかを探すような音が聞こえてきていたが、ようやく音が聞こえなくなった。どうやら去ったようだ。だから、壁から顔をだして周りをよくみてこっそりと行くつもりだった。


「おい」

「ひぃえぇぇぇえええええっっ」

「なんだ、その叫び声は?」


 なんでここに!?どうしてここに?っていうか剣?え?え?殺される?


 そう思ったら逃げるしかなかった。すぐさまUターンをきめて、華麗に逃げるつもりたった。でも首根っこ掴まれて、無様な声を出すだけだった。


「ぐえぇっ」

「蛙か?蛙の潰れたような声だぞ」

「……蛙ではない」


 それをいうのが精一杯。顔を見たらやっぱりあいつだった。っていうか翼が見えた。


「翼……」

「ああ、有翼人だからな」

「……いつもはなかった」

「仕舞えるんだぜ?」


 そういって背中にある大きくて綺麗な翼は見えなくなった。


「お前なんでここにいるんだ?もう崩れるぞ?」

「崩れる?」

「知らないのか?」

「え?」

「政変が起きたんだ」

「え?」

「まあ、俺たちが起こしたんだけどな」

「え?」


 あいつの話によると、今の『有翼人』のトップは、『人』に対して強硬派といわれている。つまり、『人』に対してのあたりが強い、というと柔らかく聞こえるけど、かなり厳しい税制と罰則を引いている。例えば、『有翼人』が『人』からお金を盗むと極々軽い罪が無罪となる。でも、これが逆になると死罪になってしまう。私は知らなかったが、他国の偉い人が来たときに、これをやってしまい大層な問題になっていた。多額の賠償金を払ったと聞いた。これがきっかけではないと思うけど、そういう積もり積もったものが、若者達の間で爆発し、あいつが中心となって『人』と手を組み今回のクーデターを起こしたそうだ。


「神殿は象徴だからな壊さないと」

「……みんなは?」

「ああ、避難してる。俺は最後の見回りだ。お前いなかったしな」

「……昨日から寝てて……」

「ああ、綺麗な歌声だよな、お前」

「……知ってたの?」

「ん?ああ、もちろん。調べたんだ」


 いつ、何故、どうして、色んなことが湧いて消えてなにを聞きたいのかわからなくなってしまった。


「もうここはなくなるんだ。お前、うち来いよ。養ってやる」

「……行けない」

「強情だな。嫁に来いっていってんだよ」

「………いけない」

「何を気にしてるのか知らないが、俺は気にしない。来いよ!」


 強引に手を引っ張るから、連れて行かれないように足を踏ん張って叫んだ。


「私が気にする!ものすごくする!!知ってんでしょ!?ここで巫女してたの?私……、私は、知られたくなかった!巫女だって!ハーフだって!あんたが『有翼人』だろうが『人』だろうが!関係ない!私の姿を知られたくなかった!知って欲しくなかった……。だから、いけない。いかない。何処にも」

「おまっ!そんなこと関係ないだろうが。姿だって関係ない。翼が小さくたっていいじゃないか!?小さくて可愛い翼なんてマスコットみたいなものだろう!?」

「はあぁぁぁああ!?マスコット!?あんた、私のこの可憐でデリケートな翼を馬鹿にしてる!?だから、だから、だから!あんたなんて、あんたなんて!」


 思いっきりたたいた。あいつは何のダメージも受けてなさそうだけど。気持ちがおさまらない。悔しい。


「あんたなんて?」

「……聞き返すな」

「じゃあ時間ないからな、行くぞ」


 そういって抱えられて、一気に地上に滑降していった。心臓が口から飛び出た気がする。一瞬だけど。私のこと、荷物扱いだよね?求婚したくせに。


 その後は何故かあいつの家に連れ込まれた。とりあえず軟禁状態にされた。外にでたいと脅し、甘え、へり下りなんとかしようと思ったけど。


「戻ってこないよな。駄目」


 いい笑顔だった。


 あいつは結構いいご身分のようで、見張りのように張り付いて来るメイドさん達や護衛の姿がある。何人か神殿にいた人達も見かけて、昔馴染みのよしみで、って言ってみたけど謝罪されて、逃げられた。


 毎日のように美味しいご飯と甘いお菓子、時々塩っぱいおやつ、求婚付きでやってきた。そしてちょっと離れた敷地内に孤児院作られた。可愛い子ども達がやってきた。


「「「「「ママ〜、パパ〜」」」」」


 あいつ仕込みやがった。


 外堀ががんがん埋め立てられていく感じがしたけど、どうしても防ぎきれない。どうやったら止められるかわからない。一度顔馴染みの女性の騎士に聞いてみた。


「流れに身を委ねることも必要なことですよ」


 答えは返ってこなかった。そんなことはわかってるけど、知りたくないし言われたくなかった。それに流れに身を任せたら後戻り出来なくなる。それだけはわかっている。



***



「ほら、もう観念しろよ?」


 ある日そういって結婚承諾書をもってきた。あいつの署名入りだった。何故か結婚の立会人もいた。もう逃げられない。


「俺はこういったらあれだが、優しい旦那になる。間違いない。だから安心しろ」

「軟禁しといて優しいとか。間違いだらけだし、安心できない」

「既成事実だけ先でも良かったんだけど、みんなに止められたからな。まあ、先は長いしゆっくりとな」


 いい笑顔だった。数時間粘ったけど、痺れを切らしてペンを握らせて署名させられた。抵抗したから、よれよれの字になっていたけど「読めるからいいか」って立会人に渡していた。立会人は何ともいえない顔していた。こんな結婚の仕方あるのだろうか?力尽くだった。



***



 その日の夜がきた。とうとうきた。決戦だ。あいつは裸にガウンを羽織っているだけだ。やるつもりだ。迎え撃つしかない。


「何だ。とうとう観念したのか?」

「観念しないし。迎え撃つ!」

「そんなら細っこい腕で迎え撃てないだろう。優しくしてやるよ」


 耳元で甘く囁かれると力が抜けてしまう。その隙をついて寝台に押し倒されてしまう。


「ちょ、ちょっと待って!待って!!」

「なんだ?諦めが悪いな」

「諦めてなんかないから!」

「お前の小さな翼もハーフ特有の色合いも、俺にとっては愛しいんだ」


 言いたいことが夢散してしまった。ハーフであるということは、私にとって自分であるということに他ならないけど、見られたくない部分でもある。


「我慢は随分してきた。もうこれ以上はしない」

「……でも、私はハーフで……。私の姿は……」

「俺にとったら大好きで愛おしい妻だよ」

「……でも………」


 言葉が見つからなかった。彼の琥珀色の瞳は、あの頃と何も変わらなかった。熱っぽくただただ私を見つめる。そして、早々に撃沈してしまった。


 彼からの毎日囁かれる甘い言葉に、自分の姿を気にしなくなってきた。全くということはないが、以前より前向きにとらえられるようになったからだろうか。人に愛されるということはこういうことなのだろうか、思わずにはいられなかった。


 相変わらず外には出してもらえないけど、生活には不自由はしていない。たまにこれは夫婦としての在り方として正常なのかわからず、他の人にも聞いてみたけど。


「夫婦の在り方は人それぞれです」


っていわれた。これってそういうことだよね?駄目なやつじゃないかな?誰か私に教えて下さい。



あれ?というところがあるかとは思いますが、別視点で明らかにする予定です。

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