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君の為なら神さえも。  作者: 塩砂糖
第1章『異世界転移編』
29/53

第29話『昔からの習慣』

お久しぶりの投稿でございます。

これにて、長い長い転移1日目は幕引きです。

 椅子とベッド。お互いがどちらで寝るかが決まり、リウスはブランケットを椅子に運ぶ。

 さて、後はもう寝るだけ。

 そう思っていたのは、リウスだけだった。


「明かり、もう消して大丈夫か?」


「あ……えっと」


 部屋を照らす魔力灯に手を伸ばしながら訊ねるリウスに、ユキは曖昧な返事をする。

 

「どうかしたか?」


「えっと……その……」


 区切って、深呼吸を一つ。


「――もう一つだけ、お願いを、してもいい……ですか?」


「え、はい……どうぞ」


 ユキに釣られてリウスも敬語で返す。


「その…………ハグを、して、欲しいです……」


「…………」


 ――ん?


 ハグって、あれか。

 こう、相手の背中に腕を回して、抱きしめ合うやつ。


「……え?」


 何? どういう話の流れ?


「その、もちろん嫌だったらいいから!」


「あ、いや、嫌とかじゃなくて。その、どうしてハグを?」


「……癖、というか、習慣というか、いつも寝る前にはハグをしてもらってたの。お父さんとか、お母さんに」


「それで、今は家族がいないから、俺ってこと?」


「う、うん……。自分でも子供っぽい習慣だってことは分かってるんだけど……」


 なんとも可愛らしい習慣だった。


「嫌だったら本当に大丈夫だから。これを期に、やめればいいだけだから」


 そう言うユキの表情は、どこか悲しそうな、寂しそうな顔をしていた。


 迷う必要はないだろう。別に、断る理由はないのだから。

 これまでは違かったとしても、今後考え方が変わるとしても。

 現時点では、そうなのだから。


「いいよ、俺の方は」


「……本当に?」


「ハグの相手が会ったばかりの俺で良ければ」


 同じ部屋で寝たいと申し出て来た時もそうだが、少し、いやかなり、ユキは他人のことを信用しすぎているように思う。

 会ったばかりで、これまでに何をして来たのか、どんな生活を送って来たのかも分からないような他人と同じ部屋で寝ようだなんて、常識的に考えて、正気の沙汰ではない。

 もっともそれは、性別という一点を除けば、全てリウスにも当てはまるのだが。


 ――何を今更。


 ――俺はとっくに、正気じゃないだろ。


「それじゃあ……いい?」


 ユキの声をきっかけに思考の海から浮かび上がったリウスは、目を合わせて一度頷く。


「いつでもどうぞ」


 その言葉を合図にして、おずおずと、ユキはリウスに抱きついた。


 リウスの脇の下に差し込まれた両腕は背中に回され、優しく、しかし確かにリウスを締め付ける。

 体格差的にユキの頭はリウスの胸元に来るため、心臓の音を聴くような体制でユキはリウスに密着していた。

 それだけ身体が密着していれば、触れ合っているのは頭や腕だけではない訳で。

 リウスの服とユキの服。二枚の布を隔てて柔らかな双丘もまた、リウスに押し付けられていた。


(どうすればいいんだ、これ)


 男同士の腕だけで行うような軽いハグはしたことがあるが、ここまで全身を密着させるものは経験したことがなかった。

 いいよと許可を出した以上、自分から引き剥がすのはユキを拒絶しているようで気が引ける。しかしだからと言って、このままヤジロベエのように不自然に両腕を浮かせておく訳にもいかない。

 脳内から今までに観た映画やドラマのシーンを引っ張り出す。ハグの時は、劇中の人物はどうしていたか。


 悩んだ末にリウスは、左手を背中に、そして右手をユキの後頭部へ添えることに落ち着いた。


 それから、どれだけの時間が経っただろうか。

 10分も20分もハグを続けていた訳ではないが、リウスが「意外と長いな」と感じる程度にはその行為は続けられた。


「……ありがとう、もう大丈夫」


 ユキの言葉で、どちらからともなく二人は離れる。


 別に、やましいことをした訳ではないのだが、何処か気まずい空気がそこには流れていた。


「えっ……と、それじゃ、寝るか」


 ユキはベッドへ。リウスは椅子へ。


 疲れているはずなのに、その日は少し、寝付きが悪かった。

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