第27話『断る理由はないから』
「部屋……入っても良いかな?」
「あ、ああ、どうぞ」
戸惑いながらもリウスはユキを部屋に招き入れる。
リウスは椅子に、ユキはベッドに腰掛けた。
「え、と……何かあったか?」
今のユキの格好は、昼間着ていた軽鎧やワンピースよりも露出が少なかったが、シンプルな格好ゆえに端正なユキの容姿が強調されているような気がして、リウスは若干の気恥ずかしさを覚える。
――童貞かよ……童貞だけど。
「その……リウスにちょっと、お願いがあって」
「お願い?」
「うん……その、ね」
視線を部屋のあちこちに視線を彷徨わせて、落ち着きのないユキ。
何度か口の開閉を繰り返し、一度だけ深い深呼吸をすると、何かを決心したかのようにユキは口を開いた。
「今日……同じ部屋で寝ても、いい……かな……っ」
「はぁ――――え?」
――今、なんて?
同じ部屋がどうとか言っていたような気がするが、聞き間違いだろうか。
「だから、その……今日、ここに泊まっても、いい……?」
「あー……っと」
聞き間違いではなかったらしい。
この場合、どう答えるのが正解なんだろうか。
快く受け入れるべきなのか。それとも拒絶し断るべきなのか。
というより、そもそもの話として――
「どうして、そんなことを?」
どうして、ユキはこんなことを言いに来たのだろう。
ゲーム内で知り合いだったとはいえ、実際にあったのは今日が初めてだ。
そんな得体の知れない、どこの誰とも分からない男と同じ部屋で寝たいとは、一体どういうことなのだろうか。
「その、えっと、物凄く端的に言うと……怖いの」
「怖い?」
「うん……トラウマ……っていうのかな。昔に色々あって……1人でいるのが、怖いんだ……」
――トラウマ、PTSD、心的外傷後ストレス障害。精神に多大なストレスを受けたあと、その出来事に関連する事象に対して精神的な苦痛を感じる心の病。
リウスも過去に一度患ったことがあるため、その辛さは分からないでもない。もっとも、『過去に』と言っても、リウスのトラウマが完治している訳ではないのだが。
ユキのトラウマが何に起因するものなのかは分からない。それについてこちらから聞く気はないし、ユキも話す気はないようだった。
「ダメなら……ダメって言って。無理なら、無理って言ってほしい。その方が、私の気も……楽、だから」
両手を握り締め俯きながら話すユキの姿は、心なしか小さく見えた。
「――分かった。いいよ」
「ほ、本当に?」
別に、ユキの話を聞いて心を動かされた訳ではない。
同情した訳でも、憐れんだ訳でもない。
ただ、断る理由がないから断らないだけだ。
どこまでも受け身な、受動的な承諾。
しかし、リウスの承諾の種類がどのようなものであれ、承諾は承諾だ。
今のユキには、それで十分だった。
「……っ、ありがとう……」




