第23話『この言葉が言えたら』
冒険者ギルドの受付の奥。
ギルド職員の休憩室から行くことの出来る、ギルド内で最も奥にある部屋。
そこは、ここのギルドの統括であるギルド長が使用する事務室となっている。
その部屋の扉の前に、ミュエは立っていた。
ノックをすると、低く太い「どうぞ」という男の声が聞こえてきた。
「ギルド長、失礼します」
「ん――ミュエか。何かあったか?」
「少しご報告したいことが」
事務仕事をしていたのか、ギルド長が使う机の上にはいくつもの紙が散乱していた。
その机の上にミュエは二枚の用紙を置く。
「……これは?」
「先ほど冒険者登録を済ませた者の登録用紙です」
「ふむ……」
ギルド長は仕事の手を一旦止め、用紙を手に取り目を通す。
「特に――何か問題がある様には思えないが?」
「はい。私も実際に会話を交わしましたが、冒険者として活動することに問題はないかと思います」
「何が言いたい?」
「これは、私の推測でしかないのですが――」
ミュエは一旦そこで言葉を区切ると、推測でしかないという前置きとは裏腹に、確信に満ちた静かな表情で言い放った。
「彼らは、この世界の人間ではないと思われます」
「……ほう」
ミュエの言葉を聞いたギルド長は、もう一度手元の用紙に目を落とすと、
「では、確かめてみることにしよう」
◇◇◇◇◇
リウスが部屋で束の間の休息を取っていた頃。
同じ間取りの隣の部屋で、ユキは膝を抱えてベッドに座り込んでいた。
「……」
頭の中にいくつもの感情が浮かんでは消えていく。
中でも一際強く残り続けるのは、恐怖。
知らない土地。締め切られた部屋。壁を隔てた孤独。
――やっぱり……ダメだなぁ……。
こんな身体を手に入れても、隣の部屋にようやく会えた友人がいても、やっぱり、耐えられそうにない。
今、隣の部屋にいる筈の彼は、どうしているのだろう。ゲームの頃から頼りになった友人は、何をしているのだろう。
部屋に訪ねるのは迷惑だろうか。
同じ部屋にしてほしいと言ったら不審がられるだろうか。
一緒に居てほしいと言えたら、どれだけ楽になることだろう。
「言えるわけ……ないよね……」
膝に顔を埋めて、長く重い溜息をつくユキに寄り添う者は、誰もいない。




