第18話『冒険者ギルド』
両開きの大きな扉を潜ると、建物内にいた人々からの視線が集中する。言うまでもなくリウスの格好が原因だろう。
町を歩いている時も視線は感じていた。ただ、町で向けられていた視線の多くにはリウスに対しての恐怖も含まれていた為、あからさまにジロジロと見られることはなかった。
しかし、冒険者ギルドの中にいた人々から注がれた視線に恐怖は殆ど含まれていなかった。
誰だこいつ、とでも言いたげな目でリウスとユキを値踏みするかのように観察するそれらは、二人にとって決して心地良いものではない。
コスプレイヤーってのはこんな感じなんだろうか。
居心地の悪さと今更芽生えてきた羞恥心を理性で押さえ込み、リウスは周囲を見回す。
建物に入って直ぐの一階部分は開けたホールのような作りになっていた。
これまでにリウスが見たものの中では「大きなホテルのロビー」が最も近いものだろうか。
入り口から真っ直ぐ進むと受付のようなカウンターがあり、周囲にはいくつかのテーブルと椅子が設置され、利用者が寛げる作りになっている。リウスたちに向けられる視線の大半はここにいる人たちからのものだ。
右側には食堂があるが、三時半という中途半端な時刻の為か人はあまり多くない。
未だに向けられ続ける視線を努めて無視し、二人は受付へと向かう。
受付にはギルドの職員が三名見えるが、うち二人は別の利用者――武器を下げているところを見るに冒険者だろう――の対応をしており、今空いている窓口は一つのようだ。
空いている窓口にいるギルド職員の女性にリウスは声を掛けた。
「すいません」
「は、はい! どのようなごろ――ご用件でしょうか!」
年齢は二十歳過ぎぐらいだろうか。所謂アジア系の顔ではないので詳しい年齢は分からない。
その女性の声は若干上ずり、目線もきょろきょろと泳ぎ、リウスと目を合わせようとしない。
(リウス、怖がられてるんじゃない?)
(……俺、そんなに厳つく見えるか?)
(厳つい、っていうのとは少し違うと思うけど、正直、私もリウスだって気づく前は少し怖かったから)
(マジか)
確かにリウスの顔つきは柔らかなものではないが、それでも初対面の人にここまであからさまに怖がられたことはなかった。恐らく、頭から伸びる角や黒い鎧などが相まって、怖さが通常の五割り増しぐらいになっているのだろう。
出来るだけ怖がらせないよう、口調をそれとなく柔らかくしてリウスは話を続ける。
「冒険者の登録をしたいんですけど、大丈夫ですか?」
「は、はい! 勿論です! えっと……用紙が確かこの辺りに……あれっ、こっちだったかな……」
受付のカウンターにしゃがみ込んで引き出しやら棚やらをごそごそと探り始める。
「これは依頼の申請用紙で……こっちは素材買取の領収書で……」
「……あの、大丈夫ですか?」
「ご、ごめんなさい! すぐにご用意しますので!」
慌てながら探し続けるギルド職員の女性。その胸元につけられた名札には「研修中」と文字が書かれていた。
なるほど。それならばあまり手際が良くないことにも納得がいく。
「この子には申し訳ないけど……なんだか和むね」
「……そうだな」
コンビニなどにいた研修生を思い出す。
世界は違えども人々の生活は大きく変わらないということか。
受付の女性は未だに用紙を探していた。受付には職員が他に二人いるのだが、生憎そのどちらも別の利用者の対応に追われており、研修中の女性のフォローは難しそうだ。
これはまだ時間がかかりそうだと、リウスとユキが全く同じことを考えていた時だった。
受付の後ろのドア――きっと職員の休憩室か何かになっているのだろう――から別の女性が現れた。
「サラさん、変わります」
「え……あっ、ミュエさん。でも……」
「あまりお待たせするのはこちらの方々に失礼ですから。後ろで見ていて下さい」
「はい……ありがとうございます」
「書類の場所、ちゃんと覚えて下さいね」
「どうして……それを……?」
「奥の部屋まで声が聞こえて来ましたよ。元気があるのは良いことですが、声のボリュームは考えましょうか」
「……ごめんなさい」
サラと呼ばれた研修生と入れ替わりで受付に立ったその女性は、墨のような真っ黒な髪をポニーテールで纏め上げ、目には髪と同じ黒色で縁取られた眼鏡を掛けていた。
「お待たせしました。ご用件は冒険者登録でお間違いありませんか?」




