第15話『他者への無関心』
その町並みは、一言で言えば美しかった。
ありきたりで聞き飽きた面白みのない言い方をするならば、中世ヨーロッパの町並みとでも言うのだろうか。尤も、中世ヨーロッパなんて表現『犯人は十代から六十代の男性、もしくは女性』ぐらい範囲が広く大雑把なものだが。
建造物の殆どは木造か石造り。若干木造が多く感じるのは、町の周囲に森があるからだろう。
地面は均されてこそいるものの、石やレンガなどで舗装はされておらず土が剥き出しの為、雨が降った日には一歩足を踏み出しただけで憂鬱な気持ちになりそうだ。
町を行き交う人々は多い。
何処かへ向かっているのか、急ぎ足で道を駆ける男性。子供と手を繋ぎ、青果店で買い物をする女性。鎧に身を包み、昼間から酒を飲み交わす男達。
そこには確かに、人々の生活があった。紛れもない現実があった。
しかし、この町で生活しているのは“人”だけではなかった。
ユキと同様に頭部から動物の耳が生えている者。尖った長い耳を持つ者。リウスのように頭部から角を生やす者。周りの人物に比べ明らかに体高が低い者。
どれも地球にはいなかった者達。創作物にしか存在しない筈の者達が今、目の前で動き、生活し、生きている。
その光景に何も感じないほど、その事実に心動かされないほど、リウスとユキは無感情な人間ではなかった。
「凄い……」
「そうだな……」
何処か他人事だった異世界というものが、急に身近になった気がした。それと同時に、僅かな不安も。
全く別の世界ということは、今までの知識が全く役に立たない可能性があるということだ。流石にそれは勘弁願いたかった。
無知は無知であるだけで災いを呼び込む。その上タチが悪いのは、無知でいると災いの原因が無知にあると気づけないことだ。
自分がいつ何処で死ぬのか。死に場所を選びたいなどという贅沢は言わないが、せめて死んだ理由ぐらいは知っておきたい。その為にも、情報収集は優先しなければならない。
リウスが歩きながらそんなことを考えていると、ふと、何を思ったのか、ユキがリウスの近くへ、ほんの僅かに身を寄せる。
そして隣にいたリウスにしか聞こえない小さな声で、独り言のように――事実独り言だったのだろう――呟いた。
「……一人じゃなくて、よかった」
それは、出会った時にも聞いた台詞だった。
彼女は、強い人ではないのだろう。
例えば、町に入る前。
衛兵とリウスが会話している間、ユキは一言も口を開かなかった。武装している三人の男に詰め寄られたら、そりゃあ誰だって怖い。普通の反応だ。
例えば、森の中。
影から逃げるだけだった彼女は、リウスがいなければどうなっていたのだろう。しかし、それもまた当然の反応だ。あの状況で『戦う』という選択肢を取れる人はそう多くない筈だ。リウスだって、まずは逃げる。
故に、これらの出来事でユキを『強くない』と決め付けることは出来ないだろう。
だがしかし、リウスが感じたユキの弱さは、そんな表面的な部分から感じ取れるものではなく、もっと深く、根本的な、強迫観念にも似た何かによってユキが感じている恐怖、それに起因するものだ。
その正体は、何か。
あの言葉の意味は。
そこまで思考して、リウスは興味を失った。
考えたところで何になる。意味を知ってどうしたい。恐怖の正体など、自分には関係ない。
全く無意味で、何処までも無駄で、限りなく無関係な他人に自らの時間を割けるほど。
常に無為なまま、何時迄も無条件で、いっそ作為的に無作為な優しさを振りまけるほど。
『リウス』は、正しくない。正しくあれない。
そんな風には、出来ていない。
リウスはユキの独り言など聞こえていなかったかのように、目的もなく町を歩き続けた。




