第14話『二人分の選択』
町の周囲には関所が一定の間隔で設置されており、外から訪れる人々を監視していた。
いくつかある関所のうちの一つに、リウスとユキは辿り着く。リウスが森で目覚めてからおよそ二時間が経っていた。
関所にリウスたちが近づくと、付近の詰所のような場所から三人ほど衛兵が出てきた。全員が同じ鎧を着込んでおり、手にも同じ槍が握られている。
「どうもこんにちは」
日本語だ。真っ先にそう思った。
言葉が理解出来ることに、リウスは一先ず安心する。
「どうされましたか?」
先に口を開いたのは衛兵の一人だった。その言葉には若干の警戒心が含まれているように感じるのは、気のせいではないだろう。考えるまでもなく、リウスの格好が原因だ。
「こんにちは。町に入りたいのですが」
「ああ、そうですか。この町には、どのようなご用件で?」
「旅をしていまして。それで偶々この町に」
「偶々、ですか。では、どちらからいらっしゃったんですか?」
衛兵のその質問は、町を守る者として至極真っ当なもの。しかし、この世界に転移してからまだ二時間程度のリウスとユキには質問に答えるだけの知識がない。
適当なことは言えないが、答えに迷っても不審がられる。
リウスは考えた末に、正直に答えつつ、詳しいことは濁すことにした。
「ちょっと、向こうの森を超えた、更に向こうから」
来た方向を指差しながらリウスが答える。
「森というと、焼け果てたあの?」
「はい」
「……。そうですか」
そう言うと衛兵は他の二人と顔を見合わせる。
そして、頷いた。
「失礼ですが、ギルドカードなどの身分証はお持ちですか?」
「いえ、そういったものはちょっと……」
「……分かりました」
すると衛兵は手に持つ槍を握り直し、リウスに近づいた。
「申し訳ありません。向こうの詰所でもう少し詳しくお聞かせ願えますか? 例えば、そう、ここへ来る前に滞在していた町の名前などを」
「あー……」
衛兵はどうやら、リウスの言葉の中に不信感を感じ取ったらしい。
いきなり面倒なことになってしまった。この世界で最初の他人との会話だと言うのに。
ふと横を見ると、ユキが不安そうな目でこちらを見上げていた。
――……どうにかするか。
ここにいるのがリウスだけであったなら、別に捕まって話を聞かれようとも構わなかった。万が一戦闘になった場合でも、体のスペックを確認した今であれば逃げ出すことぐらいは出来るだろう。その後の生活も、一人であればどうとでもなっただろう。
だが、今はリウス一人ではない。リウスの行動は、選択は、ユキにも関わってくる。それがどんな決断であろうとも。
だからこそ、適当ではいけない。中途半端ではならない。尾を引くものであってはならない。
それらの条件をクリアする選択肢は、そう多くない。少なくとも、リウスには一つしか思いつかなかった。
近づいてくる衛兵に、リウスは自ら一歩近づく。
「すいません、見逃してもらえませんか?」
「出来ません。これも仕事なので」
「まぁ、そう言わずに」
言ってリウスは、籠手を装着している衛兵の手に、アイテムボックスから取り出したあるものを握らせる。
「……?」
それは――金貨だった。
「これは……」
「通行料、ですよ。足りませんか?」
アポカリプスに金貨などというアイテムは存在しなかったが、この世界に来た影響か、ゲーム内で所持していたお金は全て、金、銀、青銅で作られた硬貨に変化し、アイテムボックスに入っていた。それぞれがどれほどの価値なのか。そもそもこの国で流通している金貨なのか。様々な疑問はあったが、こうした金属で出来た硬貨は硬貨そのものに金属としての価値がある。
その為リウスは、持っている硬貨が流通していない可能性も考慮し、最も価値が高いであろう金貨を衛兵に手渡した。
要するに、買収である。
「後ろのお二人も、どうぞ」
衛兵三人に金貨を手渡す。
「いや、あのですね、こういうのは……」
「足らないのであれば、もう少し追加しますよ」
新たに取り出した小さめの革袋に、金貨を適当な枚数――五十枚は下らないだろう――放り込み、半ば押し付けるように衛兵に渡す。
「皆さんで分けてください」
「…………」
落ちた角砂糖に群れる蟻の様に、渡された革袋に集まった衛兵たちは、袋の中身を確認した後、無言で頷きあった。
「ただここを通してもらえればそれでいいんです。構いませんね?」
「……ええ、分かりました。このことはくれぐれも内密に」
「勿論です」
こうしてリウスとユキは、無事町の中へ入ることを許されたのだった。




