第1話『邂逅』
本作は『最強魔王の異世界放浪記』の改題改稿版となります。
新しく生まれ変わった本作をお楽しみください!
「……一人だけだと? そう言ったのか?」
「ええ、他の職業はある程度の数が確保出来たのだけど……ね」
「……どうするんだ。複数いることを前提とした計画だった筈だ」
「今更言っても仕方ないでしょう。生存率を上げる為にも、最後に飛ばそうと思うのですが」
「……それしかないな。――いや待て、確かその時期には」
「化身……よね」
「……大丈夫なのか?」
「念の為、同じ場所にもう一人送っておきましょう。手伝ってくれますよね?」
「……ああ、勿論だ」
◇◇◇◇◇
『――にちは。こちらの――が聞――ていま――』
気が付いた時には、彼はそこにいた。
そこは、何処までも白く、果てのない空間。
そこには彼以外にも、人の形を模った『何か』が二つあった。それは白色をしていたが、何故か背景と同化する事はなく、確かにそこにいると認識する事が出来た。
彼が状況を飲み込めずにいると、二つの『何か』から再び声が聞こえてきた。
『あれ……? 聞こえていませんか?』
『……上手くいかなかったのか? 洒落にならないぞ』
『あ、あの〜、大丈夫ですか? 意識、ありますか?』
彼は、この状況に対する疑問を全て棚上げし、自分に投げかけられているであろう声に応えることにした。
「……いえ、聞こえて、います」
『あっ、よかったぁ。無事成功ですね』
『……聞こえていたのならさっさと返事をしろ』
「……すいません」
この状況で混乱せずに返事をしろと言う方が無茶だろうと、彼は心の中だけで呟く。
『何か』は人の姿をしているだけで見た目で性別は判らないが、声を聞く限り男と女がいるようだ。
言わずもがな、口調の荒い方が男だ。
『この状況では混乱するのも当然でしょう。私たちはもう、彼らに頼るしかないということを忘れてはいけません』
『……分かっている』
理解の出来ないやり取りを聞きながら、彼は疑問に思っていたことを訊ねる。
「ここは……何処ですか?」
『……それはお前が知る必要の――』
『あえて言うならば、**ざる**達の**ところ。と言った所でしょうか』
『……何故答える』
『何か不都合ですか? どうせ忘れてしまうんですから』
『……どうせ忘れるのだから答えなくても良いだろう。本来ならこの時間も不要なものだというのに』
『貴方は合理的過ぎるんですよ』
『……お前は無駄が多過ぎる』
忘れ去られているような気がしてならないが、彼は話を続ける。
「つまり、**だと?」
『はい、そう捉えて頂いて結構ですよ』
『……おい、ここに留め続けるのにも限界がある。要件は早く済ませろ』
『そうですね。では手短にいきましょう』
コホンと咳払いをしてから、女性が話し始める。
『貴方にはこれから**を引き継いで***に行って頂きます。そこで*を***ほしいのです』
「あの……意味が分からないんですが……」
『……どうせ忘れる。理解する必要はない。全てこいつの自己満足に過ぎない』
『そんな言い方……まあ、事実ですけど……』
答えになっていない答えを聞いていると、視界が暗くなっていくのを感じる。
『……時間切れだな』
『はい……それでは、よろしくお願いします』
「待ってくれ、まだ聞きたいことが――」
彼の抵抗も虚しく、視界は更に暗く、意識は遠退いていく。そして、光が見えなくなる。
――その時だった。
「やあ、初めまして」
突然、目の前に赤い外套を着た人物が現れる。
先程まで話していた『何か』のように朧げな姿ではなく、確かに、そこにいると認識出来た。
視界の陰りも何故か止まり、先程までいた『何か』はいつのまにか消えていた。
「初めまして、と言っても、僕は君のことをずっと視ていたのだけどね」
「……何の話だ」
「いや、視ていた、というのも違うな。より正確には、“視なくとも分かっていた”、かな。まぁ、今はそんな無駄話をしている暇もないか。ここに僕が来たのはね、今まで掛けた迷惑と、これから掛けるであろう迷惑を謝りに来たんだ」
赤い外套の男が顔を近づけてくる。しかし、その顔は靄がかかっているようにはっきりとせず、表情は分からない。
「申し訳ない。そして、“ありがとう”」
「ありがとう……?」
「さ、話はこれで終わりだ。健闘を祈るよ」
「おい、ちょっと待て――」
男は背を向ける。
再び意識が遠退いていくのを感じる。
光が完全に消える直前、遠くで、しかしはっきりと、声が聞こえた。
「さあ、この世界の被害者は、君だ」




