角の活用方法
新バルカ街でワルキューレから産まれた使役獣の卵を使って、ヴァルキリーの数を増やしていくことに決めた。
ただ、ヴァルキリーは角切りして使う。
カイル兄さんの命令を【念話】で受け取って、急に全頭がいなくなってしまうなんてことにでもなれば困るからだ。
まあ、本音をいえばちょっと惜しい気はする。
魔法を使えるヴァルキリーの力は凄いからな。
戦力としてだけではなくて、やっぱり【収集】を持っているのが一番影響があるんじゃないだろうか。
荷物持ちがいなくなるってのは本当にありがたい話なのだ。
ついつい、何頭かだけでも角ありにして残しておいてもいいんじゃないだろうかという気になってしまう。
「そうされますか?」
「……いや、やめとくよ、アイ。多分一度でもそれをしたら、いずれはヴァルキリーの魔法に頼りっきりになっちゃいそうだし。それはやっぱりまずいから、ヴァルキリーは全部角なしだ。で、その角は全部活用しよう」
「かしこまりました。ヴァルキリーの角は魔核として使用可能です。また、共振動現象を利用することでいくつかの道具を作成することも可能です」
角ありヴァルキリーの誘惑をすっぱりと断ち切る。
ヴァルキリーには悪いが、角は切らせてもらおう。
角を切るのは痛がらないという話だが、それでも大事な角をもらうのだ。
切った角は最大限活用しないといけないな。
そこで、アイがヴァルキリーの角を用いて作れるものをいくつか提示してきた。
これが、意外と結構な数あるようだ。
使い方のひとつは魔核としてだ。
魔物の素材を使って、たとえば魔法剣を作るときなんかには、その触媒として魔核といわれるものを使うことが多いらしい。
その魔核にヴァルキリーの角は該当するようで、硬牙剣なんかは大猪の牙だけじゃなくてヴァルキリーの角なんかも使われているそうだ。
ほかにも、鬼鎧なんかもヴァルキリーの角が触媒とされているとかで、意外と俺が身に着けているもので使用されているみたいだ。
ただ、東方では魔物がいない。
大雪山とか、魔大陸ならいるんだろうけど、少なくともオリエント国近くではまず見ない。
だからこそ、グランは魔法剣が作りたくて危険な大雪山を越えてきたんだって話だったしな。
ヴァルキリーの角を魔核として使うのは難しいかもしれない。
そこで、もうひとつの使い方として、ヴァルキリーの角に備わっている不思議な効果を利用するものがある。
共振動現象とかいうそうだ。
ヴァルキリーの角は、加工した際に全く同じ大きさと形にすると、それが全く別の角であってもどれかが震えると同じ型のものも同時に震えるという現象が発生する。
それを利用していろんなものが作られてきた。
一番大きなものといえば、時計塔だろうか。
フォンターナ王国では主要な各街に大きな時計塔があるらしい。
それは街の中に住む者がいつでも見られるほどの大きな時計がついていて、その時計の構造にヴァルキリーの角が利用されているのだそうだ。
どういう構造をしているのかよく知らないけど、時計は全て同じ時を刻むとかで、すごく便利なのだ。
正確な時計がないと、なにをするにも大雑把になっちゃうだろうしね。
ただ、そんな時計塔をここオリエント国で作るかどうかというと微妙なところか。
あったら便利だと思う。
が、多分使いにくいものになるだろう。
これも、アイから教えてもらったんだけど、大雪山を挟んで存在するフォンターナ連合王国とオリエント国は遠すぎて時刻が合わないんだそうだ。
共振動現象そのものは別に問題ない。
こっちで時計を作ってもフォンターナ連合王国と同じ時刻を表示する時計ができるはずだ。
だけど、その時刻はずれている。
どうやら、距離がありすぎると時差というものが発生するのだそうだ。
なので、時計の時刻はいずれ調節できるようにしたいものの、すぐに作らなくてもいいだろう。
それよりは、もっとすぐに有効活用できるものを作ったほうがいいと思う。
ヴァルキリーの角が潤沢にあるなら、欲しい物を全部作ってもいいかもしれないけど、まだまだ数が限られているしね。
少ない角でも、それなりに数を揃えられて便利な物といえば、選択肢はほとんど一択かもしれない。
「通信器だな。共振動現象を利用した、遠くにいる相手と会話できるあの通信器がほしい。作り方わかるよね、アイ?」
「知っています。通信器には旧型と新型がありますが、新型を作ることをお勧めします」
「旧型と新型? そんなのあるんだ。どう違うの?」
「旧来のものは共振動現象だけを利用していました。そのため、同じ型に加工した通信器同士で離れていても会話ができますが、複数の端末があると全員に話が筒抜けとなり話しにくいという欠点があったのです」
「ああ、なんか聞いたことあるかも。軍の各指揮官に渡して命令できるようにしたら、指揮官の独り言や部下への怒鳴り声が耳元で聞こえてうるさいとかってのもあったんだっけ?」
「はい。そこで、新型はその問題を解消するために改良されています。制御の魔法陣を組み込んだ魔道具とすることで、会話できる相手をその時々によって選択できるようにし、混線することが無くなるようになりました」
「なるほど。魔道具化か。いいね、それ。便利そうだ」
凄い便利になっているな。
今までなら遠距離で会話できるのは、同じ形に加工したものとしか無理だった。
だから、いくつかの形に作り分けて、話したい人の持つ形に加工したものを利用しないといけなかったはずだ。
それはかなり不便だったはずだ。
まあ、【念話】もなしに遠距離で会話できるってだけで十分だったんだろうけど。
だけど、それをそのままにせずにもっと改良したってことか。
天空王国の技術だろうな。
あそこは、リード家の【念話】を使える人はあんまりいないから、きっと庶民でも使える便利な通信器が欲しかったんだろう。
天空王国ならヴァルキリーの角はたくさんあるし、作ろうと思えば大量に作れる。
けど、人にあわせて何種類も持つよりも一台で済むようにしたかったんだな。
これはいいな。
その通信器があれば、オリエント国でも活用できる。
俺はアイの話を聞いて、ヴァルキリーの角は新型魔導通信器として活用することに決めたのだった。
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