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地上最強の男

「……そういえば、さ。フォンターナ王国のほうはどうしたんだろう? 連合王国内のほかの国とメメント家がヴァルキリーで武装し始めたんでしょ? リゾルテ家がそうだったように、自分たちでもヴァルキリーを量産したのかな?」


「はい。けれど、ほかの国やメメント家よりもその動きは緩慢でした」


「なんで? 危機感がなさすぎなんじゃないの?」


 このメメント大戦の話を聞けば聞くほど不思議だ。

 空にある天空王国が動かないというのはアルス兄さんの考えだからいいとしても、地上にあるフォンターナ王国のほうはそうもいかないだろう。

 メメント領やそれ以外の国とは地続きでつながっているんだから無視できるはずがない。

 だというのに、フォンターナ王国の動きは遅いなんていうことがあるんだろうか。


「理由はフォンターナ王国の領地内でヴァルキリーが攻撃魔法を行使しなかったためです」


「え? そうなの? なんでだろう。それだと、アルス兄さんが何かしたってことにならないの?」


「いいえ。アルス・バルカ様は動きませんでした。ですが、フォンターナ王国の国土において、角ありヴァルキリーが武力として使われた形跡はありません」


「ヴァルキリーが自分の判断でそうしたってこと? いや、それはないか。使役獣だから命令されたら言うことを聞きそうだし。……って、あ、そうか。命令か」


 どうしてヴァルキリーがフォンターナ王国では使われていなかったのか。

 不思議に思ったが、その理由が分かって思わずポンッと手を打った。

 命令されたんだろう。

 フォンターナ王国内では攻撃するな、と。

 ヴァルキリーのそばにいる人間よりも、さらに上位の存在から。


「カイル兄さん、だよね?」


「そのとおりです。あらゆるヴァルキリーはカイザーヴァルキリー様を頂点とした群れとして存在しています。そして、そのカイザーヴァルキリー様には深く関わっている方が二名います。それは、アルス・バルカ様とカイル・リード様です」


「そりゃそうだよね。っていうか、カイザーヴァルキリーって【命名】したのはカイル兄さんなんだもんね。なるほど。だから、アルス兄さんも放置していたのか」


 考えたら当たり前のことだった。

 本来、使役獣であるヴァルキリーが生来持っている魔法は【共有】だけだ。

 そんなヴァルキリーが群れ全体でいろんな魔法を使えるようになったきっかけというのは、アルス兄さんが使役獣にヴァルキリーという名を【命名】したからだと聞いている。

 けれど、ヴァルキリーに名を授けたのはアルス兄さんだけじゃない。

 カイル兄さんもだ。


 初代ヴァルキリーがカイザーヴァルキリーとなったが、このカイザーヴァルキリーという名前はきちんと【命名】されたものだそうだ。

 その命名者はカイル兄さんだ。

 が、これは別に公に明言されていることではない。

 というか、アルス兄さんが使役獣に【命名】したというのも別に明言していないんだけど、まあ、こっちは周知の事実か。


 ただ、カイザーヴァルキリーへの【命名】は多分ほとんどの人が知らないことだと思う。

 というのも、カイル兄さんが名を授けても、そうとわかる魔法というのは少ないからだ。

 【守護植物】という部屋の中にかわった草を覆う魔法くらいじゃないだろうか。

 そのほかのカイル兄さんの魔法である【速読】とか【自動演算】をヴァルキリーが使えるのかは分からないけど、もし使えても見た目にはわからないしね。

 だから、ヴァルキリーの使える魔法にリード家の魔法が含まれていることを知る者もきっと少ないし、それが名付けされたからなのか、【収集】されたからなのかは判断できないだろう。


 だが、現実にはカイザーヴァルキリーにたいしてカイル兄さんは名付けをしている。

 ということは、すべてのヴァルキリーは【念話】が使えるということになる。

 角があり、魔法が使えるヴァルキリーはすべての個体で【念話】が使えて、そして、【共有】もできる。

 それはつまり、いつでもカイル兄さんの命令を【念話】を通して伝えられるということでもあるのだ。


「カイル兄さんが頭の中で命じるだけで、すべての角ありは言うことを聞くってことね。すごいな。というか、カイザーヴァルキリーに名付けしているってことは、カイザーヴァルキリーからの魔力はカイル兄さんにも流れているのか。っていうことは、もしかして地上最強の男はカイル兄さんになるのかな?」


 ヴァルキリーの数が増えれば増えるほど群れ全体の魔力総量は増えていく。

 すると、当然のことながらカイザーヴァルキリーに名付けした者にもその膨大な魔力が流れ込むことになる。

 そのため、カイル兄さんもまた強くなっていることだろう。


 だけど、カイル兄さんはそのことを隠しているのかもしれない。

 だって、もしそれがみんなの知るところであれば、リゾルテ王国はアルス兄さんじゃなくてカイル兄さんになんとかしろと言ってきただろうし。

 が、アイの話ぶりだとそんなふうでもなかった。

 リゾルテ王国はアルス兄さんに内政不干渉だと言われて、自分たちもヴァルキリーを手に入れるために動いたみたいだし、きっとカイル兄さんがヴァルキリー全体にたいして命令できることは知らないんだろう。


「……えげつないね。それって、結局のところ、フォンターナ王国以外がお互いにつぶし合うことになるよね」


 ヴァルキリーという圧倒的な戦力を持つ者に対抗するために、同じヴァルキリーを使う。

 攻撃されれば、反撃するしかない。

 そうなると、お互いに損耗が出ることだろう。

 だけど、その損耗合戦にフォンターナ王国は含まれていない。

 カイル兄さんによって、それ以外の国だけがすり減るようにされてしまっているのだから。

 恐ろしいな。

 全く自分の手を動かさずに、他国の動きを誘導できているってことか。

 話を聞いているだけで、俺はカイル兄さんのすごさを改めて思い知ることになったのだった。

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