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大戦とドーレン王国

 メメント大戦、あるいはヴァルキリー戦争はこうして推移していった。

 もともと、ドーレン王都のそばにはドーレン王家に付き従っていた歴史ある貴族がいて、その貴族が治める領地を王都圏などと呼んでいたようだ。

 そして、元来、黄金鶏を所有する貴族もその王都圏にいた。


 メメント家による王都占領時に、その貴族家から黄金鶏が持ち出されてしまってはいたが、けれどもすべてを奪われてしまっていたわけではない。

 黄金鶏はその後もその貴族家で管理されていた。

 つまりは、その地には使役獣の卵がたくさん保管されているということでもあった。


 そして、もたらされた情報。

 角なしでもいいからヴァルキリーという使役獣と使役獣の卵さえあれば最強最高の力を手に入れることができる。

 この情報を手に入れたその貴族は、すぐにそれを実行した。


 このときの判断はかなり早かったようだ。 

 まあ、それはそうかもしれない。

 もともと、フォンターナ連合王国ができる前までは王都圏は常に覇権貴族とかいうよその土地の大貴族に守りを委ねなければいけなかったからだ。

 それはしかたのないことであり、だけど、悔しい思いがあったはずだ。

 自分たちの身と財産と土地を守るのに、他人の手を借りなければならないというのはつらい。

 気持ちの面でも現実的な問題としても。

 だから、ずっと自分たちを守ることができる力を欲していたのだろう。


 そして、その力をついに手に入れる機会に恵まれた。

 が、どうやら、その貴族家の当主は忠義者だったようだ。

 自分たちの保管する使役獣の卵でヴァルキリーを量産した際に、その半数近くをドーレン王家に献上したのだから。


 さすが、歴史的な長さで王家のもとから離れなかったと言うだけはある。

 普通なら圧倒的な力を持てばそれを独占したいと考えるものじゃないかと思う。

 が、どれだけドーレン王家が力を落とそうとも、王都圏から離れることなく王家のそばにいただけあって、このときも忠義をみせた。

 そして、それと並行して使役獣の卵も流通させなくしたようだ。


 使役獣の卵を産む黄金鶏はもともとその貴族家だけが独占するものであり、その黄金鶏から生み出された卵はその貴族家から全土に向けて販売されていた。

 メメント家と天空王国でも黄金鶏が育てられるようになってからも、それは変わっていなかった。

 つまり、市場に流通している卵はほとんどがその貴族家からのものだった。

 が、それを続けるということはメメント家についでヴァルキリーの量産に着手した意味がなくなってしまう。

 というわけで、卵の販売を取りやめて、手持ちの卵でヴァルキリーを増やし、自分の家とドーレン王家を守るためだけに使うことにしたようだ。


 その行動をドーレン王家は喜んだことだろう。

 だが、逆に困惑もしたかもしれない。

 だってそうだろう。

 その間にもメメント家があちこちを攻め落としているのだ。

 ヴァルキリーという戦力を手に入れてしまったドーレン王家は、メメント家に攻められている自身の配下を救う必要があり、そのための力を持ってしまったのだ。


 ここで、配下を助けず、動かないという選択はできない。

 そんなことをすれば、フォンターナ連合王国という枠組みができてもなお、フォンターナ王家ではなく、ドーレン王家に従ってくれた家を失ってしまうことになるからだ。

 メメント家に攻め滅ぼされたり、切り取られたり、あるいは離反され、フォンターナに流れたり。

 それを防ぐためにもドーレン王家は戦わざるを得なかった。


 が、ドーレン王家は心の底では戦うのを嫌がったのかもしれない。

 だって、別に本人たちは強くないみたいだし。

 初代王と呼ばれたドーレン王は強かったようだけど、今のドーレン王家には攻撃魔法が存在しない。

 手にする魔法は塩を作るだけなのだ。

 そんな魔法で、城壁ごと吹き飛ばす【竜巻】を持つメメント家と戦いたくはないという気持ちがわいても不思議ではない。

 そしてそれはヴァルキリーという戦力を得ても変わらなかった。

 けっきょく、ヴァルキリーという戦力があっても戦慣れしていないドーレン王家は自分たちで戦うという選択を嫌がった。


 ならばどうするか。

 自分ではなく配下たちに戦わせればいい。

 もともと、ドーレン王家は戦わずに一番強い貴族と同盟を結んで覇権貴族と呼んでいたこともある。

 結局は、やることといえばいつもの人頼みだったのだろう。

 ドーレン王家は献上されたヴァルキリーを、自身の配下である複数の貴族家に配ったのだ。

 そのヴァルキリーの力でもって身を守れ、と命じて。


 だが、もちろん一番大事なのは自分たちの身だろう。

 ヴァルキリーを配ったといえども一つ当たりの貴族家に対してのヴァルキリーの数はそれほど多くはなかった。

 各貴族家に少数の配備、といったところだろうか。

 もちろん、それは貴重な戦力ではあるが、襲い来るメメント家と比べて圧倒的に数が足りない。

 だから、各貴族は自分たちでもヴァルキリーの数を増やそうとした。

 しかし、使役獣の卵はその時にはすでに手に入りにくい状況になっていた。


 それは、今の小国家群の魔道具流行と似ているかもしれない。

 使役獣の卵は非常に高値で取引され、しまいには全く別の動物の卵に表面の模様だけを似せた偽物なんかも出回ったそうだ。

 そして、その偽物すら高値で取引される事態となったとか。

 ワルキューレと比べれば孵化までの期間は短く済むといえども、それでも数か月は時間がかかる。

 偽の卵をつかまされても、気づくまで遅くなるので犯人は見つかりにくい。

 こうして、偽卵は横行し、荒稼ぎする者も出たのだそうだ。


 そんなわけで、すでにヴァルキリーの数を確保していたメメント家はその後もしばらくは勝ち続け、しかし、ときおり配備されたヴァルキリーで攻撃を防がれ、反撃を受けるといった光景が繰り広げられた。

 だが、それを面白く思わない者も当然いる。


 メメント家に続いて、ドーレン王国系に広がるヴァルキリーという戦力拡充を嫌がったのはそれらのさらに南部に位置するリゾルテ王国だ。

 その時点ではまださほど攻撃を受けていなかったリゾルテ王国が、どんどん武装化されていく周辺勢力に危機感を抱いて、この大戦に介入してくることとなったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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また、本作の第六巻が本日発売となります。

アルス・バイト・ヴァルキリーのかっこいい表紙が目印となっておりますので、ぜひお手に取っていただければと思います。

どうぞよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] バイトなら近くまで戦果が拡がったら 嬉々として参戦しそうだよね
[一言] カイザーヴァルキリーとアルスは毎日遊んでるってのに、世界中で破壊と豊穣の力を手に入れた奴らは破壊活動に傾いてるとかアイは人類の愚かさを知ったよね。だいぶ情緒育ってきたアイにとってはどちらも愚…
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