メメント大戦、またの名を
ドーレン王都で手に入れた黄金鶏。
その黄金鶏の数を増やし、そして、次にヴァルキリーの孵化にも成功したメメント家。
きっと最初からそれを見越しての行動だったのではないと思う。
偶然、そういうことになったんだと思う。
やってみたらできた、くらいなんじゃないかな?
が、偶然だろうがなんだろうが、周囲がフォンターナ連合王国という大きな括りでまとまっていき、それに対して劣勢にたたされていたメメント家は、手に入れた力を使うことにためらいはなかったはずだ。
メメント家は角ありヴァルキリーを実戦投入した。
そして、その結果はすぐに出た。
行く先々で大きな勝利を手に入れたという。
戦えば無敗。
どこに行けども、ヴァルキリーの力は強く、万能だった。
通り過ぎれば必ず勝てる。
そんな状況が続いた。
だが、ここからが戦いの不思議なところなのだろう。
ヴァルキリーを手に入れたメメント家は確かに戦えば必ず勝った。
しかし、それはあくまでも戦術的な勝利にすぎなかったのだという。
まあ、そうだろう。
あくまでも、狙って手に入れた力ではなく、偶然手にした圧倒的な力を戦場で試してみた結果、ものすごく勝ちまくっただけで大局的な視点を持って戦い始めたわけではなかったのだから。
ヴァルキリーは確かに強い。
だから、戦いに投入すれば勝率を跳ね上げることができる。
しかし、勝った後が問題だった。
メメント家は大貴族と呼ばれていた貴族家だ。
が、王都を占領したときほどの勢力はなく、当然、メメント家に従っていたほかの貴族家や騎士家の中にはすでに離反していた家もある。
つまり、メメント家は支配下にある領地を減らしていたということになる。
そんなメメント家が戦に勝てば当然その地を確保し、自らの領地としたがるだろう。
だが、その統治をヴァルキリーがしてくれることはない。
だって、どれほど強くてもヴァルキリーは人間ではないのだから。
つまり、メメント家は周囲の騎士家や貴族家にたいして勝利を得た結果、その土地を手に入れ、それを守っていかなければいかなくなったのだ。
当然、そこには人がいる。
それもただの人ではなく、統治できるだけの能力と力と権力を持った者でなければならない。
その時すでにほかの勢力よりも数で劣っていたメメント家は、戦に勝つことによって人材を分散してしまう結果となってしまったのだ。
もちろん、人材を分散してもヴァルキリーがいれば力は保持できている。
のだが、ヴァルキリーは別にメメント家の配下というわけではなかった。
ヴァルキリーはあくまでも使役獣でしかない。
使役獣は人間の言うことに従う特性を持つにすぎない。
つまり、なにが言いたいのかというとメメント家という貴族の者でなくとも最強のヴァルキリーに命令を下せてしまうのだ。
最初はどういう状況だったのか、今となってははっきりとは分からない。
が、どうやらいくつかの戦のあとに、その地の統治を任された者の所有するヴァルキリーが勝手に使われたのではないかということらしい。
盗人は貴族や騎士ではなかった。
厩舎でヴァルキリーの世話を任されたただの男が、なんらかの揉め事の際にヴァルキリーの力を使ったようだ。
そして、その時にその男は気づいたのだろう。
自分もヴァルキリーを意のままに操れるということに。
そして、ヴァルキリーの力があれば、その地を支配しようとし始めた貴族出身のメメント家の者ですら相手にならないということに。
一般人は騎士には勝てない。
ましてや、貴族相手には万にひとつも勝機は存在しない。
それは子どもでも知る当たり前の常識であり、だからこそ、統治者たる貴族に従うのだ。
だが、もしもそれが覆るとしたらどうだろうか。
自分でも貴族に勝てる。
そう思ってしまう力が目の前にあり、それを無視できるかどうか。
どうやら、その男は自身の欲に負けたようだ。
ほんの小さな揉め事によってヴァルキリーの力を使い、それを咎められることを恐れて、恐れ多くも貴族や騎士に反抗した。
そして、勝ってしまった。
だが、勝ったからどうだということになる。
ただの人間が貴族を殺したところで、その地を代わりに統治することなど不可能だ。
だから、男は逃げた。
メメント家がヴァルキリーの力を使って攻め落とした、本来のその地の統治者たる貴族のもとに。
自分が奪ったヴァルキリーに乗って。
こうして、最強の使役獣という力を手に入れて始まったメメント家による戦は、思わぬ展開を見せることになった。
圧倒的な力を持つヴァルキリー。
それを頼りに伸張していき、統治に手が回らなくなってきたところで、ヴァルキリーの力を外部に持ち出されてしまった。
しかも、運の悪いことに、その逃げた男はヴァルキリーの孵化の仕方を知っていたようだ。
逃亡した先で、どうやってメメント家がバルカの持つ魔獣型使役獣を手に入れたのかを聞かれて、馬鹿正直に答えてしまったのだという。
使役獣ヴァルキリーはヴァルキリーの魔力と使役獣の卵だけで数を増やすことができる。
たったそれだけの、けれど、今までは知られていなかったその情報はメメント家以外にも知られるところとなってしまった。
逃亡した男が行きついた先がフォンターナ王国やバルカ系列の領地ではなく、ドーレン王家に忠誠を誓う貴族家だったというのも関係しているのだろう。
メメント家が恐ろしく強い使役獣の力を使って周囲の街を攻略していく。
それに対抗するもっとも単純な方法はなにか。
それは、自分たちもそれと同じ力を持てばいい。
すなわち、ヴァルキリーが自分たちのもとにいればメメント家にも負けることはない。
いや、それどころか、自分たちこそが勝者の側に回れるかもしれない。
こうして、逃亡者が吹聴したヴァルキリー孵化方法が漏れた結果、そう考えた複数の貴族家もヴァルキリーを生み出し、戦力の要とすることになった。
あちこちで、生み出されていくヴァルキリーたち。
それが、このメメント大戦と呼ばれるこの戦いの流れだそうだ。
別名、ヴァルキリー戦争。
強すぎる力をさまざまな勢力が手に入れた結果、その動乱はさらに続くこととなったのだった。
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